合コンで知り合った年下の女性が痴漢されているところを助けたところから本格的に始まるモテ期生活

ALC

第1話年上好きなヒロインと年下には興味のない主人公

中年のおじさん。

とは言え35歳の僕こと中島佐一なかじまさいちに現在の状況は多少気が重い。

会社の後輩がセッティングした年下の女性しか居ない合コンの場で僕は独り肩身が狭い思いを感じていた。

「先輩は結婚に興味なんですか?恋人も居ないって言ってましたけど…いつまでも独りでコンビニ弁当を食べ続ける生活を想像したらうんざりじゃないですか?それなら恋人の一人でも作って美味しい手料理でも作ってもらいましょうよ」

などという前時代的な考えを口にした後輩には少しだけ笑いを堪えるのに必死だったものだ。

現在のコンビニ弁当は想像以上によく出来ているし、必ずしも女性が料理を作らなければならない時代ではない。

しかしながら後輩のしつこい誘いを断るのも面倒に感じて本日は合コンに参加したというのがこれまでの経緯である。

合コン会場の居酒屋で僕は隅の方で独りお酒を飲んでいた。

この場で夕食も済ませて彼ら彼女らよりも一足先に退散する流れは構築していた。

それなのに…。

「ご一緒してもいいですか?」

目の前の座席には年下にしては大人びていて容姿端麗な女性がグラスを持って腰掛けようとしていた。

「どうぞ」

素っ気なく答えると食事を進めていき逃げ出す算段立てていた。

須山美桜すやまみおと申します。社会人二年目の23歳です」

「中島佐一です。35歳のおじさんです。この場に不釣り合いなおじさんには構わずに向こうで飲んできなよ」

自己紹介と自虐のような言葉を口にするが彼女は首を左右に振った。

「同い年の男性は子供のようにしか見えなくて興味ないんです。昔から年上好きで…ファザコン気味だからでしょうか…」

彼女も軽く自虐にも似た言葉を口にすると照れくさそうに微笑んだ。

「僕も年上か同い年ぐらいの女性にしか興味ないんだ。年下の娘には興味ない」

「随分はっきりと言うんですね…」

「今日も仕方なく参加しただけだしね。食事が済んだら帰るよ。雰囲気悪くするだけだ」

「じゃあ、食事している間でいいので私の悩みを聞いてもらえませんか?」

「どうぞ」

僕は食事の手を止めずに彼女の話を半ば適当に聞き流していた。

それでも彼女の悩みは中々に過酷なもののようだった。

どうやら通勤時の電車内で痴漢にあっているらしい。

時間を変えても車両を変えても必ずと言っていい程に付きまとわれているんだとか。

食事が終わる頃に話は終わり僕は数回頷いた。

「何も解決してあげることは出来ないけれど…。痴漢にあっているのに合コンに来れるんだね。男性を怖く思わないの?」

「私も数合わせです。最後まで話を聞いてくださりありがとうございました。誰かに話せて気が楽になった気がします」

僕は何とも言えずに少しだけぎこちない表情を浮かべると、

「何も出来ないけど。強く生きて」

などと無責任な言葉を口にして合コンをセッティングした後輩にお金を渡して帰路に着くのであった。


後日の早朝のこと。

いつものように電車に乗り込んで、もみくちゃになりながら通勤ラッシュの車内で揺られていると…。

すぐ近くで今にも痴漢にあっている女性の後姿を発見する。

先日の須山の話を聞いていたので僕はらしくもなく正義感を発揮してしまう。

痴漢をしている男性の手を引っ張り上げると首元を締め上げた。

車内では中々の騒ぎになってしまうが幸いなことにすぐに降車することができる。

痴漢をされていた女性も一緒に降りてくれて警察に身柄を引き渡すことが出来た。

女性と僕も遅れて事情聴取を受けるため警察署に赴く。

その道中で僕は初めて被害にあっていた女性の顔を見る。

もしかしたら産まれて初めて他人のために暴力を駆使して痴漢を撃退したため興奮状態にあり冷静でなかったのかもしれない。

パッと隣で震えたいた女性を目にして僕は驚いてしまう。

「あれ…この間の須山さんだったんだ」

僕の声を耳にした彼女は少しだけ安心したように僕の方を見る。

「やっぱり中島さんだったんですね…恐怖で信じられなかったんですけど…やっぱりそうでした…。助けてくれて本当にありがとうございます」

「本当に偶然だよ。須山さんの話を聞いていたからね。柄にもなく痴漢を撃退しなければって正義感に駆られたんだ」

「それでも…助けてくれたのが中島さんで嬉しいです…」

「どうして?」

僕の質問に彼女は少しだけ気まずそうに微笑むと一言。

「全体的に父に似ているからだと思います…」

それに軽く鼻を鳴らすと、

「僕はそんなにおじさんに見えるのか…」

などとまたも自虐的な言葉を口にした。

「勘違いしないでください。若かった頃のかっこいい父に似ているってことです」

彼女ははっきりとその言葉を口にして僕は気まずそうに微笑むだけだった。

「あの…連絡先交換してください。助けられたお礼もしたいです」

「お礼は良いよ。僕もきっと当然のことをしただけだから」

「そうはいきません。それに私はもっと中島さんを知りたいんです」

グイグイと迫ってくる彼女に気圧されて僕は仕方なくスマホを取り出した。

連絡先を交換すると僕らは取り調べを受けることになる。

詳しい状況説明をすると彼女も今までの被害をすべて伝えたようだった。

解放されて会社に向かうとスマホに通知が届く。

「須山です。今日は本当にありがとうございました。本当に助けてくださるとは思ってもいませんでした。凄くかっこよかったです。言葉では言い表せないほど感謝しています。それで今週の土曜日とかって空いていますか?食事に誘ってもいいでしょうか…」

彼女の誘いに僕は了承の返事を送ると業務に励むのであった。


ここから年下には興味のない男、中島佐一と数々の女性と織りなすラブストーリーは始まろうとしていた。

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