第三十一話 人攫い

「へっへっへっ……、チョロいチョロい」


 町外れにある、いまは廃墟となっている大きな宿の一室。

 豚のように太った四十がらみのハゲオヤジが、カビ臭いベッドで熟睡している少女──カイリを見下ろして、下品な笑みを浮かべる。


「この睡眠薬クスリ、値が張るだけあってよく効くぜえ」


 ハゲ豚が紫色の液体が入った小瓶を振ってみせると、隣にたつ彼の子分と思しきヒョロガリチョビ髭が、キィッヒッヒィッ! と奇怪に嗤った。


「しっかし、このガキ、どうしようもねえバカですねえ。普通、ジュースの試飲といわれたって、こんなヤベェ色とニオイのモン、ホイホイ飲んだりしねえでしょう」

「へっへっ、オレ様はあの通りでひと目見てわかったんだよ。この子は、他人を疑うことを知らない、とおっても純粋で心優しい娘なんだってな!」

「キャッヒャッヒャッ! そんな良い子をさらって奴隷商人に売り飛ばすなんて、旦那はホント血も涙もねえお人だあっ」

「へっへっ、それほどでもねえさ……。今回は、この娘もいれて十人。しかもみんな極上品ときてる。この町では思ったより稼げたなあ」


 ハムのような腕を組んで満足そうにいった時、隣の部屋から幼い少女らしき叫び声と、数人の男たちのむごい怒鳴り声が響いてきた。


「……さっさと取引を終わらせねえと、ここもすぐに警官どもに嗅ぎつけられるな。チクショウ、ベンズの野郎はまだ来ねえのか?」


 ハゲ豚が顔をしかめつつ窓の外に目をやった時、ヒョロガリがベッドで眠る少女のカラダを見つめて、ゴクリと唾を呑んだ。


「コイツ、まだガキのくせして、ホントたまんねえカラダしてやがる……。な、なあ旦那、ベンズさんが来るまで、ちょおっとだけしててもいいですかね?」

「ああ?」


 振り返ったハゲ豚は、ヒョロガリの膨らんだ股間を見て、うんざりしたようにため息をつく。


「ったくオマエってヤツは……。大事な商品だぞ? 生娘は三倍の値がつくってオマエも知ってるだろ?」

「わかってますって! だから下のお口は使わねえ。オンナには、他にも穴がありますからねっ!」

「はあ……仕方ねえな。じゃあ、まあ、くれぐれも怪我だけはさせるなよ?」

「もちろんですよっ!」


 子供のようにはしゃぐヒョロガリは、すぐにその場で服を脱いで全裸になると、ベッドの上で眠るカイリに馬乗りになった。


「キェッヒェッヒェッ……本番ナシでも、この可愛いお口とでっけえオッパイがありゃあ、じゅうぶんだ。つーわけで、さっさと脱いでもらうぜ……」


 いいつつ、手始めにカイリがドレスの上に纏うローブを脱がせようとした時──、少女が被っていたフードがずれて、中から黄金の角が二本現れた。


「ヒェッ!? だっ、だ、旦那! これっ、コレ見てください!」


 ヒョロガリの悲鳴に振り向いたハゲ豚は、


「なんだよ──ぉおっ!?」


 カイリの正体がわかると、やはり驚愕の表情を浮かべる。


「こっ、こいつ……魔族じゃねえかっ! なんでこんなとこに魔族のガキがいるんだ!?」

「ヤ、ヤベえですよ、旦那……。こりゃ、オレたちの手に負えるシロモノじゃねえ」


 急に怖気づくヒョロガリ。しかし、ハゲ豚はブヨブヨの顎を撫でながら醜悪な笑みを浮かべた。


「まあ、落ち着け……。魔族っつったって、まだこんなガキだ。両手を縛っちまえば、万が一目を覚ましたところで何もできやしねえさ。それに……、オマエ、魔族の娘がいくらで売れるか、知ってるか?」

「い、いくらになるんで?」

「噂どおりなら、王都に庭付きの一戸建てが買えるくらいだ」

「ヒャッ! そんなに!?」

「ああ。金持ちの変態どもは、危険なアソビが大好きだからな……。珍しいが手に入ったら、そいつがブッ壊れちまうまで色々トンデモねえことをやるらしい……」


 金の話でたちまち恐怖から立ち直ったヒョロガリは、あらためてカイリの豊満な肢体を見下ろしながら、舌なめずりをする。


「そういや、オレも聞いたことがありますぜ……。一回でも魔族のオンナを抱いたら、もう人間のオンナには戻れねえって……」

「ああ、そうだ。なんでもアレが喰いちぎられそうになるくらい、スゲエ締まるらしい……」


 ヒョロガリとハゲ豚は、興奮しきった顔で互いを見つめながら、またゴクリと生唾を呑む。


「旦那ぁ……」

「そうだな……。魔族の娘を犯したってなりゃ箔もつくし、もう一生飲み屋での手柄話には事欠かねえ」

「ってことは……?」

「よしっ、イッパツ

「アッヒャッ! そうこなくっちゃっ!」


 満面の笑みのヒョロガリは、床に落ちていた縄で手早くカイリの両腕をベッドに縛り付けた。


「旦那、これでいいですかね?」 

「よーし……。んじゃ、一番槍の誉れはオレ様がもらう……」


 もどかしそうに下を脱いだハゲ豚は、ギシギシ音を立てながらのっそりベッドに上がると、いまだぐっすり眠ったままの少女の股を大きく開かせた。


「へっへっ、この肌触り、弾力、匂い……たまんねえな。やっぱ生娘は最高だぜ」

「旦那っ、もったいつけてねえで、早くっ!」

「そう急かすな。オマエには悪いが、スグには終わらせねえ。コイツが目ェ覚まして泣きながら喘ぎだすまで、タップリ時間かけて愉しませてもらうぜえ……」


 酷薄な声でいいつつ、ハゲ豚は少女の上に覆い被さる。


「一生忘れられねえ思い出にしてやるよ──」


 そして、少女の股をさらに大きく開いて狙いを定め、容赦なく、一気に腰を突き出そうとした、その時──。


 ドッガァァアアンッ!


 階下から、頑丈なカンヌキまで掛けていた玄関扉が一撃で吹っ飛ぶ、ド派手な轟音が響いてきた。

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