第二十五話 勝者のお願い
「ンぶっ!?」
ほぼ同時──少女の薄いショートタイツの内奥から、汗とはまったくちがう、えもいわれぬ刺激的な芳香が溢れ出て、ロンの鼻腔に充満する。
(こっ、これはぁ──っ!)
ただちにこの危機から脱出しなければ、というロンの理性は哀しいかな、この「楽園」にできるだけ長く留まりたい、という欲望にアッサリと負け、彼は無抵抗のまま仰向けに倒される。
そして、少女の尻に顔を押しつぶされたまま無様に地面に横たわったロンの喉元にすっと、冷たい白刃が突き付けられた。
「わたしの勝ち、ですね?」
ロンの顔に跨ったまま、アラナが嬉しそうにいう。
「…………」すーはー、すーはー。
ロンは、少女の股の下でひたすら深呼吸を続けるだけで、何も応えない。
「あの、先生……?」
「…………」すーはーっ、すーはーっ、すーはーっ。
まもなく、心配そうな顔で立ちあがったアラナは、
「っ! せ、先生! 血がっ!」
ロンの鼻から鮮血が溢れ出ていることに気づいて、狼狽えた。
「す、すみませんっ、怪我をさせないよう気をつけたつもりでしたが、倒した時に頭を打たせてしまったのかもしれません」
「あ、いや……ウン。大丈夫だ」
鼻血を垂れ流したままぎこちなく立ちあがったロンは、やや名残惜しそうな顔をしつつ、口を開いた。
「いまの攻撃は、良かった…………。じつに良かった」
「ありがとうございますっ」
アラナは、その形の良い胸を弾ませて、はじけるような笑みをみせる。
「自分でも驚いているんです。わたしに、こんな攻撃が出来るなんて……。先生に言われたとおり、頭で考えずに動いた結果なんですが、この感覚を忘れなければ、もっともっと色んなことが出来るような気がしますっ」
「ああ出来るさ。じゃあ、その感覚を忘れないために、いまの技をもう一度俺にかけてみようか」
「いや、それはやめておきます。先生を怪我させたくありませんし」
「あ、そう……」
ロンがすこし沈んだ声音でいうと、アラナは、ちょっぴり肩をすくませて悪戯っぽく笑った。
「先生。わたしが勝ったので、約束どおりお願いをひとつ聞いてもらいますよ?」
「お、お願い……?」ゴクリ。
瞬間────、少女の刺激的すぎる体臭を多量に吸引したせいで思考回路がオカシクなっていたロンの脳裏に、彼女のあられもない姿が浮かびあがる。
目を閉じたままなので、致し方ない面もある。
一方的に彼を責めることはできない。
──チロリと舌なめずりしながら近づいてきたアラナは、ロンにしなだれかかって、彼の下半身に妖しく指を伸ばす。
(お願いは、もちろんコレです♡ ……あっ、もうこんなにして。わたしのニオイで興奮したんですか? ダメな先生ですね♡ これじゃあ、わたしのお願いじゃなくて、先生のお願いになっちゃいますよ?)
「ま、まあ約束は約束だから、仕方ないな。ウン。ナニをされても文句はいえない。ココなら誰かに視られる心配もないし……」
ロンがもっともらしくいうと、脳裏に浮かぶ少女は艶美に微笑み、その細い指を亀の歩みの速度でねっとり、じらすように動かしはじめる。
(ふふ……それじゃあ、遠慮なく……。あっ、そっちはまだダメです♡ 焦らないでください。時間は、タップリありますから……。まずは一度、このままわたしにまかせて……ね♡♡♡♡♡♡♡♡#?*!★♪☆💀!)
──なんてことには、当然ながらならなかった。
「じゃあ、お願いを言いますね。あの戦争、『聖魔大戦』について教えてください」
「へぃいっ?」
脱いでいた鎧を手早く身に着けながらいった少女に、ロンはかなり間の抜けた声を返す。
「聴こえませんでしたか? 先生が戦ったあの戦争について教えてくださいと言ったんです。先生があの戦争でどのように戦ったのか、どうやってあの最凶最悪の魔王ヴァロウグを倒したのか、わたしは知りたいんです。……あっ、もう目を開けてもいいですよ」
いわれて、ロンが目を開けると、見慣れた白銀の鎧をキッチリ身に着けたアラナが、剣の柄に片手を置いて姿勢よく立っていた。
「…………」
思わず肩を落としたロンをみて、アラナは戸惑いの表情を浮かべる。
「あの戦争について話すのは、嫌ですか? 辛い記憶が甦ってしまうのなら、無理にとはいいませんが……」
「あっ、いや……そんなことはないよ。俺が知ってることなら、何でも話す。約束だからね……」
ロンは、拗ねたような顔に無理に笑みを浮かべて、のろのろいった。
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