2××3.5.1.
: GW
目が覚めると、いつもより頭痛がだいぶ治まっていた。
まだボーっと脳にモヤがかかってはいるが、気怠さがかなり解消されている。
こんなに気分が良いのは、いつぶりだろう。
カーテンから漏れ出る日光が部屋を明るくし、ぼやけた視界が少々眩しく感じる。
目をこすりながら、ベッドのそばに設置されている棚に、手探りでメガネを探す。
昨日の出来事は、夢のようだった。
直樹達に会い、私とサラを家まで送って行ってくれて━━。
「━━えッ!?」
メガネをかけ、スマホの表示画面を見ては、自分の目を疑った。
まだ寝ぼけているのかと何度も瞬きをし、目を見開く。
5月1日 月曜日 10:15━━。
「嘘ッ…」
今までの人生、こんな経験初めてで、素直に信じられないでいる。
アタシ、
驚きのあまり気が飛んでしまい、ベッドに倒れこんだ。
気がついた頃には、お昼を回っていた。
やはり、何度確認しても日付は変わっておらず、志保からの LAIN も何件か来ていた。
私の体調気にする内容が殆どで、正直嬉しかった。
“大丈夫だよ、心配させてごめん”
“もう少し寝るね”
返信を返すと、1分もかからず通知音が鳴った。
早ッ!
“よかった~、十分体を休んでね”
“また学校で会おうね”
学校━━、か。
ふと、ある事を思いつき、風呂場へと向かった。
しばらくシャワーを浴びながら、眠ってる頭に刺激を与え続けたのだった。
━━ピンポーン。
ある家の玄関でインターホンを押す。
アタシは、パーカー姿で相手が現れるのを待っていると、足音が近づいてきた。
「…いらっしゃい」
扉が開き、出迎えてくれたのは、サラだった。
サラは、アタシを自分の部屋まで通し、ベッドに腰掛けた。
久しぶりに入った彼女の部屋は、以前、遊びに来ていた頃とほぼ変わっておらず、真ん中に小さなテーブルがあり、アタシがよく座っていたクッションに腰を下ろす。
「それで、どこから話そうか」
サラが口を開き、穏やかに私に話しかける。
「いつ、あの力が芽生えたか、にしとく?」
「そうだね」
━━あれは、スズが転校した後、私は、あまりのショックにあいつらに復讐することにした。
あいつらに対する罰は、謹慎じゃ緩すぎる。
だから、一人ずつ狙うことにした。
一人目を歩道橋の階段から突き落としたのが始まり。
息が詰まるほどの高揚感に満ちたとき、私の中で何かが変わった。
一人ずつ病院送りにしていくうちに、信じられない力が使えるようになっていった。
「━━そんな時だよ、あの帽子の人に止められたのは」
経緯を聞かされたアタシは、しばらく口を閉ざしていた。
「怒りが抑えきれなくて、周りが見えなくなってた。
いつのまにか、復讐から娯楽に変わってた。
あのまま、あの人に助けてもらえなかったらと思うと、私━━」
落ち着いてはいるが、手が震えている。
どうやら、ケータが、サラの得体の知れない何かを取り除いたらしい。
アタシの時みたいに━━。
アタシの中にいる“モノ”も、暴走すればどうすることも出来ない。
だが、今は心の奥底で大人しくしている。
毎日頭に響いていたあの金切り声は、一切聞こえてこない。
あのとき、志保が静めてくれたけど、あれは━━。
いや、それよりも━━。
「…キクさんにも、怪我を負わせたの?」
駅で彼女に会ったとき、一見、不自由さを感じられなかったからだ。
「…出来なかった。
何度もッ、一番憎いはずなのにッ、何度もッ…」
鼻をすすり、深呼吸して息を整える。
「でもッ、あの人を傷つけたらッ、私ッ、すずに顔向けできない気がして」
私がゆっくり顔をあげると、彼女は涙を流し、声を詰まらせていた。
「スズにッ、あの時のことッ、ごめんって、謝れないって…」
嗚咽するサラに、アタシは、いてもたってもいられず、彼女の隣に座っては抱きしめた。
「アタシの方こそゴメンッ!
アタシも、サラのことッ、大事なッ、大事な友達なのにッ━━」
「あ~ッ!! スズッ! ごめんなさァい!!」
アタシ達は、互いに抱きしめ合い、今まで言えなかった分、謝り続けた。
会えなかった時間を埋めるように、アタシ達は、泣き崩れたのだった。
「━━じゃあね」
「うん」
空は、いつのまにか茜色に染まっていた。
アタシは、玄関に立っているサラに別れを告げる。
お互いに目元が赤くなっていたが、これだったら道行く人たちに見られても目立つことはない。
「スズ」
「うん?」
背を向けた途端、呼び止められた。
「新しい学校、友達できた?」
サラの質問で、志保の顔が脳裏に浮かび、つい笑みが溢れた。
「もちろんッ」
「そっか…」
そう告げて、再度、背を向ける。
「スズッ!」
サラに視線を向けると、何かためらっている仕草を見せる。
「あッ、私達…」
アタシは、彼女が何を言いたいのかを察した。
「今度、その子紹介するよ。
その子にも、
その言葉にサラは声を詰まらせ、目を潤わせながら頷いた。
「じゃあね、サラ」
私は微笑み、その場を立ち去った。
「あッ、そういえば…」
帰路に着いたときに、ふと、忘れていたことを思い出した。
「今からでも間に合うかな…」
急遽、自宅ではなく、ある場所へと向かうのだった。
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