: 5p.

「部活見学に誘った!?」


ケータ達にスマホを見せ、自身の経緯を省き、鈴音を連れてきた事情を説明した。


「星さんって、“カン”が視えるの?」


未来の問いに、志保がハッとした様子を見せたため、勢いだったのかと周囲は察した。


「この部活自体特殊すぎるから、一般人が入部するってかなり難しいと思うけど…」


「いやッ! そんなことよりも━━」


ナベショーが話しを強制的に中断させ、一番気になっていることに触れ始める。


「なんで小賀坂さんがびしょ濡れなんだで!?

そこんとこ詳しく━━」


「ナベショー」


ここに来て、初めて声を出した直樹。


「しつこいと女子に嫌われるよ」


穏やかにそう言うと、まだ何か言いたげなナベショーに、 未来が軽く肩を叩く。


無言の彼や周りを見渡し、空気を悟ったのか、気持ちを抑える。


「━━それと、小賀坂さん」


直樹は、立ち尽くす志保に声をかける。


重荷を背負うのも・・・・・・・・程々にね・・・・


彼に対し、スマホを持ったまま、両手を合わせて軽く会釈する。


「━━でもすごいな。

初日でもう仲良くなったんだ」


そう言うと、志保は、照れながらにやけた口元をスマホで隠した。


「はいッ! それじゃ、気を取り直して、特設帰宅部のミーティング始めますかッ」


未来が手を叩き、ナベショーにペンを持たせると、戸惑いながらもホワイトボードに文字を記していく。


志保も開いている席に着き、荷物をテーブルの下に置いた。


“ミーティング”の下に活動内容を書き終え、ボードに手を当てる。


「はいッ、今月の“害虫駆除”の件数8件。

そのうちのほとんどは、ケータが怪我したり、ドジったりして、ボロボロになってきましたッ!」


「ケータらしいねェ」


「いいよッ!? 別にそんなこと言わなくったって!?」


イジられたことによって場は和んだが、本人はふてくされ出し、ぶつぶつ言い始める。


「だってしょうがないじゃんよ。

穏便に済ませようとしてんのに、話しかけた途端にぶん殴られるし、相手を捕まえようとしたら、取り逃がしちゃうし━━」


「そういえば、未来君、生徒会行かなくていいの?」


アレ? オレ、スルーですか!?


直樹によって強引に話題を変えられてしまい、流されてしまう。


「大丈夫ッ、今日はなんかめんどくさい内容だったはずだから」


そして、それでいいのか!? 未来君ッ!?


ガッツポーズをする未来に、動揺するケータだった。


「━━それで、今日は誰が福島行くの?」


ケータは不服だったが、改めて話を戻してみる。


「今日はバイトあっから無理」


「いや、俺だってあるし」


「良いべ~、どうせ今月4日しかバイト無ェんだべ?」


「いや、だからだろ。

それに、人の心の傷をつつくようなこと言うなや」


乗り気のないナベショーに、ケータは呆れてしまう。


「じゃあ、オレが代わりに行ってあげようか?」


そこで未来が軽く挙手し、名乗り出た。


「いや、未来君は駄目でしょ。

“副会長”の立場をオレ等のせいで危うくさせるわけにはいかないし。

つか、未来君、“駆除”できなくね?」


「ハッ! 未来君をなめんなよッ!

未来君がその気になれば、お前よりも状況をすぐに判断してッ、頭脳プレイでッ、秘めt●Ⅹ▲■━━、ッしゃあ! 噛んじまったッ!!」


「━━大丈夫、お前の言いたいことは、だいたい分かったから」


感情的になったナベショーを、ケータが落ち着いて眺める。


「よしッ」


すると、いきなり直樹が口を開いた。


「ケータ君で行こうッ」


「ちょっと待てッ!?」


ケータが強引な決定を瞬時に止めるが、直樹は無表情のまま引こうとしない。


「ケータ君で行こうッ」


「いやッ、だから━━」


「ケータ君で行こうッ」


「あのッ━━━━━━」


「ケータ君で行こうッ」


「…はい」


折れた━━。


畜生━━━!


テーブルに顔を伏せると、ナベショーが身を乗り出し、彼の肩にそっと手を置いた。


「大丈夫だって。

バイト終わったら、多分すぐに行くと思うから」


「“多分”ッ!?」


追い打ちをかけるナベショーに、志保は、こらえきれず吹いてしまう。


「━━仕方ない、みんなで行こうか」


盛り上がっている中、直樹がやれやれとそう呟くと、場の空気が止まった。


…はい?




━━陽は沈んで暗くなり、時計の針が20時を指す。


春の夜は気まぐれで、冷たい風が肌を刺した。


1日の労働に疲弊した者達が、酒や娯楽を求めて駅から散っていく。


そんな中、特設帰宅部は、福島駅西口に集合していた。


「━━それでは、“害虫駆除”しに来たわけですが、気を引き締めて行きましょう~」


直樹は、覇気のない棒読みで部員に声かけをする。


昼間と違い、全身黒の印象が強く、マスクを着用し、薄いタートルネックに袖を少し上げ、 革バンドの時計が左腕に映えている。


細めのスキニーに、マーティンブーツを履いて立っていた。


「お~ッ!」


未来が軽い返事をしながらガッツポーズをする。


彼はカーキのミリタリージャケットを着て、ファスナーを胸元まで下げている。


下は、暗めのデニムに、ブラウンのローカットブーツを履いていた。


隣に並ぶ志保は、ロングカーディガンに紺のシャツ。


デニムにスニーカー姿で、未来につられて控えめに片腕を上げて見せる。


それよりも、目の前のベンチに座ってる彼らが気になり、気まずくてならなかった。


━━結局、俺バイト休む羽目になったし。


━━オレ、バイト始めて一週間ちょいしか経ってねェのに。


どうやら強制的にサボる羽目になったらしい。


ケータは、赤と黒を強調した服装をしていた。


薄生地の黒いコットン帽子を深くかぶり、赤チェックシャツの上にファー付きダウンベスト。


左手に腕時計、細身のズボンに、ワインレッドのマウンテンブーツを履いている。


ナベショーは、 赤パーカーに黒の V ネック、ダボダボ感のある暗いカーキのカーゴパンツに、スニーカーを着用していた。


二人は、重い空気を漂わせ、揃って深い溜息を吐く。


「それじゃあ、2組に分かれるよ」


直樹は、そんな二人を無視して話を進める。


一組目、直樹、未来、ナベショー、志保。


二組目、ケータ。


「よしッ! オッケィッ!!」


「うおィッ!!」


ケータは、理不尽な組み分けに異議を唱えた。


「なんだで?」


「おかしくね!? オレだけっておかしくね!?」


「おかしくねェで。

バランス良く分かれたべした」


「え"ッ!? 二組ってそういう━━!?」


ケータは、てっきり2:3で分かれると勘違いしてしまっていたようだ。


「せめて未来君と一緒にさせてッ!」


「何言ってんだで、未来君は、なっくんのサポートに決まってッペしたァ」


ケータが必死になってナベショーに訴えかける姿に、直樹は呆れてため息をこぼす。


「━━わかったケータ君、寂しい気持ちは分かったから。

じゃあ、こうしよう」


ケータ×志保ペア。


「ちょっと待てッ!?」


ケータは、再度異議を唱えた。


「なんだで? まさかお前、小賀坂さんを足手まといだとでもいうのかで!?」


「別にそういうわけじゃ━━」


「だったら良いべした」


さらに物申そうとしたが、横にいる志保が目に入り、気まずくなったため、喉の奥に止めた。


「それじゃよろしくね。

何かあったら、いつも通りすぐに行くから」


そう言って直樹達は、二人を残して二手に分かれたのだった。




とりあえずケータと志保は、線路に沿って歩き出した。


街灯の少ない夜道、所々に駐車している車を通り過ぎる中、沈黙に耐え切れず志保がスマホを見せてきた。


『私って足手まとい?』


「ッ! いや、そんなこと思ってないよ」


ケータは、焦って誤解を解こうとした途端、志保の目に明かりが消えた。


「ただ、俺のそばにいると━━ッ」


次の瞬間、後頭部に激痛が走り、景色が一気に暗転してしまったのだった。





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