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周りは、一面闇。
向こうに明かりが見え、地面を照らしていたため、とりあえずそこを目指す。
境界線を超えると、側に
街灯から放たれるほのかな光の中に若い男女が入ってきた。
少女がスマホを見せ、少年は、ぎこちない態度をとる。
建物から黒い人影が現れ、こちらに近づいてきた。
暗くてわかりづらいが、体格からして男。
片手には大きな石を持っており、少年の背後に忍び寄る。
少年は、急にその場で倒れ込み、額から血を流して動かなくなった。
突然の出来事に少女は怯え、口元を隠しながら後退する。
しかし、パーカーにジャージを着た男が後を追い、明かりから離れ、闇の中へと消えていった。
「━━あ~、またケータ君
直樹が、コーヒーを口にしながらボソッと呟く。
彼らは、駅近くのラウンドワンに立ち寄っていた。
店内は電子音で騒がしく、その中でも、とあるゲーム機の周りに人だかりができていた。
それを離れた場所で直樹とナベショーが観戦していた。
「またかで!? 仕方ねェなァ」
ナベショーが呆れながらコーラを飲み干し、人混みの中へと入っていく。
「未来く~ん!! 行くべ~!!」
ゲーム音に負けない声量で、プレイヤーに声をかける。
未来は足元のコマンドを淡々とこなし、最後にはポーズを決め、ハイスコアを叩き出した。
観客が拍手する中、軽く会釈し、直樹の元へと戻る。
「場所どこ?」
「コラッセの裏だね、早く行こう」
未来が預けていた上着を受け取ると、3人は、すぐその場を離れた。
「━━何、別に怖がらなくてもいいんだよ、嬢ちゃん」
志保は、駐輪場の壁に叩きつけられ、両手を頭上に押さえつけられていた。
「あんなガキよりも、もっといいこと教えてあげっから」
相手は空いた右手でナイフを所持しており、刀身で彼女の頬をなでる。
フードをかぶっており、顔がよく見えないが、口元の青髭と何重にもシワが出来ており、息遣いで興奮しているのが分かる。
私のせいでケータ君が…。
彼が襲われる前に、自分がもっと早く危険を伝えることができていればと、自身の無力さを痛感する。
男は不敵な笑みで涙を浮かべ、志保の体をナイフでなぞり、下腹部へと目指していたその時━━。
「クズがッ!!」
ナベショーが横から突如現れ、男の顔面にドロップキックを食らわした。
男は志保から離れ、数台の自転車とともに倒れてしまった。
「大丈夫かでッ!? 小賀坂さんッ!?」
壁からずり落ち、尻餅をつく志保に駆け寄る。
「くそッ! 仲間がいやがったのか…」
男は、痛がりながらも立ち上がると、後から直樹、未来も姿を現した。
「なぜ、ここが━━ッ!?」
「あなたには理解し難いでしょうが、俺の情報網はすごいんです」
直樹は、人差し指に乗っている“蟻”を見せる。
「とにかく、変な気を起こさずに“駆除”されてから自首してくれませんか?」
「わけわかんねェこと━━ッ」
男がぼそっとつぶやいては、視線を志保に向けた。
「ほざいてんじゃねェぞッ!!」
怒号とともにナイフを投げつけるが、ナベショーが
「もう無理だでなっくん。
もうこいつは疳のせいで周り見えてねえし、強制的に“駆除”するしかねえべ」
ナベショーが、穏やかな口調で男に呼びかける。
「あんた、今まで何があったか知らないけど、疳ってのは、意思に反応して力を与える、いわば覚醒剤みたいなもんなんだで」
説明中に、掴んでいるナイフが、徐々にヒビ入っていく。
「つまり━━」
刀身が粉々に砕けて、険しい表情で男に目をやる。
「あんたは、根っからのクズ野郎だった、ってことだ」
破片が地面に落ちる様に、男は、一瞬青冷めてしまう。
「少し痛い目にあった方がいいんでね?」
そう、この部活動は━━。
「うるせェ!! ガキがッ!!」
男は咄嗟にそばの自転車を片手で投げるが、ナベショーの手前で弾かれてしまった。
「今度は何なんだよッ!?」
動揺している相手に、ナベショーは、思わずにやけてしまった。
人に取り付く疳虫の被害を、最小限に抑えるために創設されたものです━━。
すると、彼の左肩からスゥッと何かが現れた。
それは、節々が連なっており、その先には鋭利な葉形の尾が伸びていたのだ。
「威嚇してる
疳は、生まれつき人間が宿しており、人によって異なりますが、感情が爆発した際に、その威力を上げる特性を持っています━━。
しなやかに動く長い尾に、男は発狂する。
「ばッ、化け物ッ!?」
「オメェが言うなで、犯罪者」
その興奮状態を抑制しきれないと、彼のように暴走してしまうのです━━。
男は、怖気づきながらも他の自転車に手をつけ、今度は直樹達に向けて投げ飛ばした。
「あッ!! テメッ!?」
とっさに尾を伸ばして二人を守るが、その隙に、男は全力でその場から逃げ出した。
「待てでッ!!」
「大丈夫だって」
後を追おうとするナベショーに、直樹が引き止めた。
「“蛇”からは、逃げられないから」
すると、男の目の前に一つの影が立ちはだかった。
━━ケータ君ッ!?
志保は、ケータの姿に驚きと同時に歓喜した。
しかし、彼は頭から血を流しており、俯いている。
意識を保っているのが、やっとのようだ。
その様子に、男は勝ち誇った表情を浮かべる。
「どけェ!! ガキィッ!!」
弱ってる相手に突進を試みた次の瞬間━━。
━━あッ?
またもや不可解な現象が起こった。
少年との間の距離が、縮まっていないことに気づく。
えッ━━!?
自分の身に何が起こったのか、確認しようにも首、手、足が動かない。
まるで、
「あ~あ、この帽子気に入ってたのに、血生臭くなっちゃったじゃん 」
ケータが、帽子を手に、溜め息混じりの文句を吐く。
近寄ってくるケータの目を見てギョッとした。
それは、まるで━━。
「まさに、“蛇に睨まれた蛙”」
「そだね」
未来のつぶやきに、直樹は相槌を打った。
ケータが男の頭に手をかざすと、短い悲鳴を漏らす。
「おっさん、これ、お仕置きね」
すると、手から白い煙が噴出した。
悲鳴と共に蒸発音が弱まり、男は白目を剥いて、その場で倒れてしまった。
「“害虫駆除”、終了、ッと━━」
一息ついた途端、気が抜けて膝がガクッと折れた。
だが、ナベショーが倒れる寸前で、ケータの身体を支えた。
「オメェ、良いとこ取りすんなで」
「命がけでやった人に対する言葉ですか? それ」
ナベショーが吹いているうちに、左目が普段通りに戻り、志保も涙目で駆け寄ってきた。
「あ~、大丈夫だから。
小賀坂さんは、何も悪くないんだし、それに━━」
よって、これが━━。
「守れなくて、すみませんでした」
ケータが精一杯の笑みを作り、志保の不安を少しでも和らげようとしていると、直樹と未来もこちらに歩いてきた。
彼らがじゃれ合う光景に、志保は思わず微笑み、胸を撫で下ろす。
活動内容です━━。
しかし、力尽きたのか、急にケータがガクッと意識を失ったため、周りは大騒ぎしたのだった。
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