4月1日(土) 対DeNA 勝利(6-5)

店内に六甲おろしが鳴り響いていた。


「あら、いらっしゃい。ちょうどよかったわね。今から勝ったから、ビール200円引きセールをするところよ」


暖簾をくぐったその先で、女将にそう言われて席に案内される。なんでも、2連勝だから200円引きだとかで……


「6連勝とかしたらどうするんですか?」


生ビールは1杯500円なのだ。連勝が一つ伸びれば、その分割引を100円ずつ増やしていくと聞いて、つい大将にカウンター越しに訊ねてしまった。すると、その場合は3杯までタダにするという。


「ははは、そのときは絶対に来ないと損ですね」


そして、大将に生ビールといつもの『アレ』をオーダーした。


「それにしても、今日は初回で負けたと思ったわ」


「せやな。いきなり4点やったもんな。もう、今日が秋山の引退試合だと思ってあきらめたわ」


後ろから聞こえてくるのは、他のお客さんの声。どうやら、今日の試合を振り返っているようだ。


「ほやけど、ようもまあ、秋山を5回まで引っ張ったな。結果的には、3回以降立ち直ったし、そのおかげで12回まで戦えたが……」


「矢野やったら、2回裏で代打やったやろな。で、延長戦突入で息切れ……」


「去年はよく11回表で捕まってたよな。そう思うと、流石は岡田はんということなんやろな。勝利監督インタビューもおもろいし、おかげでビールも美味いわ!」


ケタケタ笑いながら、「乾杯」の声と共にグラスがカチャンと重なる音が聞こえた。


「それにしても、山崎は阪神にとことん相性が悪いよな。抑えられたイメージがあまりないわ」


「ホンマやな。正直、12回表を押さえれば勝てると思ったわ。山崎出て来るやろから打てるやろってな」


「せやけど、そうはいうけどおまえ、坂本で終わる思たやろ?」


「まあな。普通に代打長坂でいけやと思ってたわ」


そのように楽しげに会話をしているのは、一つ席をあけた向こうに座る二人組の男たち。とても嬉しそうな顔をして笑い合っている……。


「へい、お待ち!」


そんな周りの様子に目を向けていると、目の前に今日の『アレ』が置かれていた。


「今日のこれは何ですか?」


「カツレツですよ。『勝ちが列をなして続きますように』と願いを込めました」


そして、よく見るとそのカツレツは3つに切られていた。


「目指せ!まずは開幕3連勝ですよ」


顔を上げると、大将は楽しそうに言った。確かにそうなればいいなと思いながら、箸を伸ばして口放り込むと、香ばしい味が口の中で広がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る