3月31日(金) 【開幕戦】対DeNA 勝利(6-3)

テレビは9回表、1OUT満塁の場面を映していた。バッターは佐野。長打で同点、ホームランなら逆転のシーンだ。


「あかん!二年連続や、これは!」


「ストライク入れへんのんやから、代えや!」


「アホ!誰に代えるんや!誰もおらんやろが」


そして、店内にいる誰もが、その画面を凝視しながら、思い思いに言葉を吐き出していく。どのテーブルにも酒や料理は並んであるが……今、それに手を伸ばしている者は誰もいない。


「やっぱり、青柳の交代時期を間違ったんやな」


「せやな。本人もあれは納得してない顔やったな。……なんで代えたんやろな」


「岡田はん、きっとボケて7回からJFK投入できると思とんのと違うか?」


「いくらなんでも、それはないやろ……」


「しかも、岩崎ってありえへんやろ。あいつ、いっつも開幕戦でやらかしてるんやで。相手が宮崎云々言う前に、正気の沙汰やないわ」


「確かに……去年も京セラでやられてたけど、東京ドームでも西の勝ちを消したことがあったな……」


「そのうえ、京セラを苦手としているケラーまで使って、案の定失点してるし……」


「それでも、小幡のタイムリーで今年は違うと思ったんやけどな……」


つい1時間前まで大いに盛り上がっていたのがウソのように、聞こえてくるのはぼやきのオンパレード。誰も最早勝てるとは思っていない。


そうしていると、佐野は空振り三振に終わり、2OUTとなった。


「次はソトか……。逆転満塁ホームラン出そうやな」


「去年、散々やられたからな……」


「せやけど、解説が調子悪いって言うてるで?」


「寝た子を起こすのがタイガースの真骨頂や。きっと打たれるで」


しかし、それでも両手を合わせて勝利を願う人たち。すると、願いが叶ったのか、ソトはショートにフライを打ち上げてゲームセット。


その瞬間、恒例の手のひら返しが始まる。


「流石は湯浅やな。世界一の守護神や!」


「せやから、大丈夫やて言うたやろ。岡田はんは、矢野と違って野球を知っとんのやから」


「せやな。去年みたいな素人監督と違うからな。ワシは信じとったで」


そして、時計の針が動き出したかのように、おのおのがグラスを手に持ち、勝利を祝うように乾杯した。お決まりの『六甲おろし』を歌いながら……。



「凄いですね、この熱気」


「そうでしょ。みんなタイガースのことが好きですからね」


「そうですね。それはわかりましたけど……」


ここで、大将にいつもの『アレ』がまだ出てきていないことを指摘した。すると、大将は本当に忘れていたようで、慌ててテーブルの上にそれを置いた。


「これは……豆腐?」


ひやひやだったから、『冷ややっこ』なのかと思っていると……


「実は、『あつあつの湯豆腐』ということでしたが……テレビに夢中で、すっかり冷めてしまいました」


だから、『ヒヤヒヤの湯豆腐』ということらしい。味は悪くなかったが、明日こそはアツアツの方がいいなと思うのだった。

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