3月26日(日) 【オープン戦】対オリックス 敗戦(2-5)

「いらっしゃい。今日はヒンダさんといっしょなのね」


「そうなんですよ。いつもの席良いですか?」


「いいわよ。今、録画を流しているから、見てちょうだいね」


そう言って、女将はいつも通りに出迎えてくれた。そして、ヒンダさんと隣り合わせで座る。


「もしかして、いきなり焼酎?」


「やだ、あれは負けたからちょっとヤケになっていただけで……ビールで構わないわ」


「それじゃ、大将。生2つといつものアレ2つね」


「あいよ」


すると、手際よくジョッキにビールが注がれて……テーブルの上に2つ並べてくれた。


「それじゃ、初デートを記念して……」


「乾杯!」


ジョッキをコツンと当てて、今日を締めるためにビールを喉に流した。


「やっぱり、上手いねぇ」


「ホント、これで今日も楽しく終われるわ」


そう言いながら、互いに笑い合う。だが、目の前のテレビに杉本の2ランのシーンが映った瞬間、彼女の表情が曇る。


「いきなり打たれるなよ……」


そう言って、ヒンダさんは不機嫌さを隠さずにジョッキに残っていたビールを一気にあおった。すると、サッと大将はお代わりのビールをテーブルに置いた。そして、「いつものことですから」と。


「一応、結果は知ってるよね?スマホを見れば……」


「わかってるわよ。2対5で負けたわよ。ええ、負けたわ!今日も4安打しか打てず、しかも、送りバントも決めれず、全くいいところなし!ああ、タイムマシーンがあったら、昨日に帰りたいわ!」


「……昨日に帰っても、やがて今日が来るんじゃ」


「そのときは、1日飛ばすのよ。そうすれば、こんな不快な試合をみなくても済むじゃない」


「いやいや、不快なら今も見なくていいのでは?」


「そういうわけにはいかないでしょ。現にこうしてテレビに映ってるんだから!」


はっきりいって意味不明だ。すると、今度は女将さんが耳打ちしてくれる。「いつものことだから、気にしないであげてね」と。


「へい!お待ち!」


そのとき、威勢よく置いたそれは、いつものお勧めのアレ。


「今日のこれは何ですか?」


「『バントレッシュ』ですよ。いやあ、バントできなくて負けたでしょ。だから、バントの練習がいるかな……と思いまして」


聞いたことない食べ物だなと思って見てみると、どうやらベーコンのようだ。大将が言うには、フランス南西部からスペインにまたがるバスク地方の食べ物だという。


「まあ……確かにバントできないとダメだよね」


いくらオープン戦とはいえ、疎かにしていい話ではないだろう。そう思いながら、箸でつまんで口に放り込んだのだった。

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