1-04 選択肢
「ふぅ、ごちそうさまでした」
それからしばらくして、二人から差し出されたコーヒーとケーキを完食した僕は
心と体に妙な満足感を感じていた。
「ふふっ、お粗末様でした。こうも美味しそうに食べてくれるとみててこっちまで
嬉しくなってくるね」
そう言いながら夏目さんは被っていたコック帽を頭から取り外す。
「もしかしてあのケーキは夏目さんが?」
「あぁそうだよ。私はこの店のオーナーでもあるけど調理担当でもあるんだ」
「へぇーそうだったんだ」
最初の印象が衝撃的過ぎたせいか、あまり威厳を感じることはなかったが、
今になってようやく彼女の凄さが理解できるような気がした。
「さてと、ではもてなしも済んだことだしそろそろ本題に入らせてもらおうかな」
空いた食器を片し終え、夏目さんが僕の隣りへと移動する。
彼女の一声で店内の雰囲気が一変したことを肌で感じた僕はそのままの姿勢で
彼女たちの次の言葉を待った。
「先も言ったが、春時くん。君は呪われている」
「その――――呪い? っていうのは一体何なんですか?」
「…………」
「呪い。それは魔法使いによって何らかの魔法をかけられている状況を指す。
つまり君は現在何らかの魔法の影響を受けていると考えられる」
「…………どういう意味ですか?」
「春時くん、スマホは持っているかな」
「ええ、一応」
「では今日の日付を確認したまえ」
「――――?」
僕は彼女の言葉に首を傾げつつも、言われた通りスマホを取り出しロック画面に
表示された日付を確認する。
「4月15日――――あれ?」
表示された日付に思わず困惑する。
何故ならこの日は昨晩、夏目さんと出会った日付だからだ。
一瞬自身のスマホが誤作動を起こしたのかと思ったが、どうやらそうではない
らしく、色々と画面を操作しても特に変化は起こらなかった。
「それはスマホの故障ではないよ。今日は本当に4月15日だ」
「は?」
突然のことに理解が追い付かず、開いた口が塞がらない。
そしてそれは僕だけではなく紫ヶ戸もまた同じ状況なようで、
彼女も彼女で不思議そうな表情を浮かべていた。
「どういうことですか師匠?」
「どうもこうもない。私と彼は本来、今日の夜に出会う予定だった」
「つまり?」
「私は春時くんと共に今日という日をループしたということさ」
「「んん~?」」
二人して夏目さんの説明に顔を顰め、首を傾げながら唸り声をあげる。
「紫ヶ戸さんは分かった今の話?」
「いえさっぱり」
「だよね」
夏目さんの弟子である紫ヶ戸さんでさえ理解できない話を僕が理解できるワケも
ないのは自明の理。むしろ僕だけが取り残されなくてよかった。
なんて思いつつもとりあえず思いついた質問を投げかけることにする。
「ループってあれですよね。時間遡行とかって話ですよね」
「まさにその通りだよ春時くん。私と君は今日の夜に出会って、そこから今日の朝に
戻ってきた」
「師匠、それ本気で言ってますか?」
「私がそんな面白くもない冗談を言うとでも」
「師匠もご存じのはずです。時間操作系の魔法は現代では発展途上魔法に分類されて
います。それも人間を対象としたものなんて聞いたことがありません」
「それは私としても同じだよ。だが実際に体感してはあり得ないとは言い切れない
でしょ」
「――――」
恐らく今の状況がうまく呑み込めなかったのであろう。それを聞いた紫ヶ戸さんは
目を大きく見開きながら口から酸素を目一杯に取り込む様子を見せる。
「あのいいですか?」
「どうぞ」
「とりあえず話を整理すると、その本来あり得ないはずの時間操作魔法が何者かに
よって僕に掛けられていたってことでいいですか?」
「君は頭の回転が速くていいね。話が早くて助かるよ」
「どうして師匠はそんなに冷静なんですか」
「これでも多少の動揺はしているよ。だがそれ以前に客観的に状況の判断をしている
までだよ」
そこまでの話を精査してか、それまで夏目さんに対して視線を向けていた
紫ヶ戸さんがこちらに向き直る。
そして言い淀むようなそぶりと共に言葉を絞り出す。
「神越さん、落ち着いて聞いてください」
そう前置きし彼女は続ける。
「あなたが魔法に関してどのようなイメージをお持ちかは知りませんが、実際の
魔法というモノは制約も多く何でもできる万能なものではないのです。中でも
時間操作魔法はまだ解明されていない部分も多く現実的に不可能とされてきま
した」
「なら大発見ってことじゃないの?」
「そう簡単な話ではないのです」
「?」
僕が未だに要領を得ないことに焦りを感じたのか夏目さんが話に割って入る。
「いいかい春時くん。君には現在二つの選択肢がある」
「選択肢…………ですか?」
「一つはこれより貴重な魔法サンプルとして捕獲され魔法界に連行される」
「捕獲って……まさか人体実験しようなんてことはないですよね…………」
「もちろん非道なことはされないだろう。だが当然ある程度の自由は制限されるのは
間違いない。そしてこれは本当に最悪の場合だが、この残りの人生を一生を檻の中
で過ごすか殺処分という可能性もある」
「そんな――――」
あまりにも耳を疑う発言に全身から血の気が引くのを感じる。
「まぁ、そう焦ることはない。もしそうなっても私が何とかするさ」
「何とかって」
「それについては信用してくださっても構いませんよ、神越さん」
「どうしてそう言い切れる」
「何故なら師匠は現在魔法界における階級の中で第二位の階級をお持ちですから」
「そういうことだ。ま、あくまで階級の話だから絶対ではないけれどね」
「でも、やっぱりそれだけじゃ安心できないというか」
「当然だね。そこで第二の選択肢だ」
ゴクリっと思わず生唾が喉を通り抜ける。
「春時くん。君、私の助手にならないか?」
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