第9話(3)暴れ馬と車
「ん?」
「へえ、あれが噂のケンタウロス娘とその仲間たちか……」
クトラが遠目にサツキの姿を確認する。サツキをはじめとするケンタウロスの集団がやや高い丘の上に陣取っている。
「軍勢が動いているって聞いていたけど、なんだあいつらは……?」
丘の上のサツキが首を傾げる。副官が告げる。
「『暴走のクトラ』かと思われます……」
「ん? そいつはもっと南東の方を根城にしているんじゃなかったの? なんでまたこんなところに?」
「どうやらこの四国の中心あたりの緩衝地帯の連中が連帯して、新たに国を立ち上げようとしている模様です……」
「ええ? 新たに国を?」
「はい……」
「ひょっとしてカンナ姫は連中がかくまっているのかな?」
「そ、それについてはまだなんとも……」
副官は汗を拭いながら首を傾げる。
「ふ~ん……どうすれば良いと思う?」
サツキが顎をさすりながら副官に尋ねる。
「な、なんとも難しいところですね……」
「いや、話はいたって簡単だよ」
「は?」
サツキはクトラたちを指差す。
「要はこの四国の秩序を壊そうっていう連中なんでしょう?」
「ま、まあ、そうですね……」
「それなら行きがけの駄賃じゃないけど、倒さなきゃいけないよね」
「はっ、それではまず降伏勧告を……」
「その必要はないよ」
「え?」
「こいつが挨拶代わりだ!」
サツキが矢を射る。
「!」
「うおっ!」
「あ、あんな遠くから……」
遠くから飛んできた矢をクトラはかわす。かなりの距離があったにもかかわらず、強烈な射撃に兵たちはざわめく。
「ふん、やる気十分ってわけね……」
クトラは笑みを浮かべる。
「ト、トップ、どうしますか⁉」
「慌てないで、手はず通りにいくわよ……」
「はっ!」
「……」
「行くぞ!」
クトラが無言で右手を挙げると、兵の一部が車に変化し、その場から離れる。それを見たサツキが目を丸くする。
「ああ、『人機』の集団か……」
「こ、このままだと、左右から挟撃される恐れが!」
「落ち着きなって」
「し、しかし!」
サツキが顎をしゃくる。
「見たところ、連中はきちんと舗装された道しか走れない」
「あっ!」
「こっちは多少無茶がきく、冷静に対処すれば良いんだよ」
「な、なるほど!」
「そんなに多くを割かなくて良い、少数だけ迎撃にまわして」
「了解しました!」
サツキの指示に従い、部隊の何名かが、左右に別れる。それを見てクトラが舌打ちする。
「ちっ……もうちょっとばらけるかと思ったけど、そんな手には引っかからないか……」
「トップ!」
「まあ、油断はある程度あるはず……行くよ!」
「はい!」
「⁉」
クトラが再び右手をかかげ、それをすぐ下ろすと、クトラを先頭に車へ変化した集団が、正面から突っ込んでいく。副官が慌ててサツキに声をかける。
「れ、連中、正面から突っ込んできました!」
「これは驚いたね……」
「ど、どうされますか⁉」
「無理はしているはずだよ。冷静にあれを射抜けば良い……」
「はっ、分かりました! 各員、用意!」
副官の指示で、ケンタウロスの集団が横一列に並び、弓を構える。サツキが声を上げる。
「……放て!」
「‼」
一斉に放たれた弓が突っ込んでいった車の集団のタイヤを射抜き、次々とスリップ、横転させていく。兵が慌てて、クトラに声をかける。
「ト、トップ!」
「怯むんじゃないよ! このまま突っ込むんだ!」
先頭を走るクトラは器用に、矢継ぎ早に飛んでくる矢をことごとくかわしてみせる。
「か、回避しています!」
「なかなかやるねえ……だが……所詮は暴走……だ!」
「どこを狙っている! ぐはっ⁉」
サツキが矢を放つ。勢いは鋭かったが、狙いはクトラから外れているように見えた。しかし、真の狙いはクトラの斜め前にある大岩であった。サツキの矢は大岩を粉々に砕き、そのかけらがクトラの側面に激突、クトラは横転しそうになる。サツキが鼻で笑う、
「ふん、あっけなかったね……」
「なんの!」
「なに⁉」
サツキが驚く。クトラが車体を斜めにしながらも片輪で巧みに走行を続けたからだ。
「このまま突っ込むよ! アンタたち!」
「は、はい! トップ!」
「い、勢いが止まりません!」
「それは見れば分かるよ!」
「て、撤退しましょう!」
「それこそ奴らの思う壺だよ!」
「で、では、いかがされるのですか⁉」
「こうするんだよ!」
「なっ⁉」
今度はクトラが驚く。サツキが斜面を駆け下り、クトラたちに向かってきたからだ。サツキは走りながら、弓を構える。
「近くならば外さない!」
「高さと距離の優位をあえて捨てるとは! その発想は無かったわ!」
「ぶつかる前に終わらせる!」
「ならばこちらもあえて捨てる!」
「! がはっ……」
「ぐうっ!」
クトラがタイヤを外し、サツキに向かって勢いよく転がす。予期せぬ攻撃にサツキはかわしきれず、派手に転倒する。その一方でサツキの狙いはやや外れたが、彼女の放った矢はクトラの肩を鋭く射抜いてみせた。
「はっ、どうしてなかなかやるもんだね……」
クトラは肩を抑えながらその場にうずくまる。
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