第7話(2)額応え
「!」
「はっ!」
「おっと!」
「なに⁉」
カンナが鋭く突き出した薙刀の刃をタイヘイが額で受け止めてみせる。タイヘイが不敵な笑みを浮かべる。
「はっ……」
「くっ、まだその石頭が残っていましたか……」
「どっせい!」
「む!」
「おらっ!」
タイヘイが自分の足元を思いきり殴りつける。地面が砕け、土塊が飛び散る。カンナが薙刀を振り回して、それらを上手く弾き飛ばす。
「くっ!」
「よっと!」
タイヘイが一旦距離を取る。カンナが舌打ちをする。
「ちっ……」
「……」
「むう……」
「やれやれ……頭の揺れがなんとか治まってくれたようだぜ」
「ふう……」
タイヘイが片手で後頭部をそっと抑える。対するカンナが呼吸を一つ入れ、薙刀をさっと構え直す。タイヘイがカンナの方に向き直る。
「……さてと、仕切り直しといこうか」
「む……」
「……はっ!」
「‼」
タイヘイがロケットブースタ―を噴出させて、再びカンナの懐に入る。
「もらった!」
「せい!」
「なっ⁉」
カンナが薙刀を素早く振り回すと、小さな爆発が数度起こり、カンナのか細い体が爆風に乗ってバッと浮かび上がる。
「えい!」
「自分の足元を破裂させやがったのか! またまた無茶なことをやるな!」
「無茶は承知!」
「大した心がけだな! だが!」
「……!」
「恰好の的だぜ!」
タイヘイが今度は垂直にロケットブースターを噴出させ、カンナに向かって飛びかかる。
「くうっ!」
「今度こそ逃げられないぜ!」
「ふっ……」
カンナが笑みを浮かべる。タイヘイが声を上げる。
「諦めたか!」
「狙い通りです!」
「なんだと⁉」
「はあっ!」
「がはっ⁉」
カンナが薙刀を縦に振るい、雷を一条放つ。放たれた雷が真上に飛び上がってきたタイヘイの体を貫く。カンナが笑みを浮かべながら呟く。
「直線的に突っ込んできてくれて助かりましたよ……」
「……ぐわっ!」
バランスを失ったタイヘイが地面に激しく打ち付けられる。
「とどめ!」
空中で体勢を立て直したカンナが地面に倒れ込んでタイヘイに向かって薙刀を勢いよく振り下ろす。
「くそ!」
「ぬっ⁉」
タイヘイが両手を鎌のように尖らせると、自身の胸を狙ったカンナの薙刀の刃を器用に受け止めてみせる。
「お、おおう……」
「ちっ……」
「そらっ!」
「……⁉」
タイヘイが両腕を大きく膨らませ、さらに両手を素早く振るう。巴投げのようにカンナが投げ飛ばされる。カンナはなんとか受け身を取る。さっと起き上がったタイヘイがその様子を見て苦笑する。
「ちっ、しぶといな……」
「……しつこい殿方は嫌われますよ」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「私は殿方ではありません」
「うっせえな、言葉のアヤってやつだよ!」
カンナが呆れた視線を向ける。
「適当な方ですね……」
「そこは型破りって言って欲しいね!」
タイヘイが両手を元に戻し、周囲に転がる土塊を拾って投げつける。カンナがため息交じりにそれに対応する。
「……あまりにも苦し紛れすぎますよ!」
カンナが地面を薙刀でこすり、炎を巻き上げる。土塊が炎に包まれる。
「それが狙いだ!」
「なに⁉」
タイヘイがカンナの前に広がった炎の中に突っ込んできた。思わぬ行動に対し、カンナの反応が遅れる。
「うおりゃあ!」
「⁉」
タイヘイが頭突きをカンナの胸部に喰らわせる。胸部の胸当てが粉々に砕け、カンナは後方に吹っ飛ばされる。タイヘイが額をさすりながら呟く。
「……額応えあり」
「……がはっ!」
「うん? まだ意識があるのか?」
「ま、まさか、炎の中に自ら突っ込んでくるとは……」
「炎が俺にとっても良い目くらましになったぜ……」
「な、なるほど……」
カンナが半身をゆっくりと起こす。タイヘイが再び苦笑する。
「おいおい、マジでしぶといな……」
「あ、貴方は……」
「ん?」
「常識外れな滅茶苦茶な方だということがよくよく分かりました……」
「いやあ……」
タイヘイが後頭部をかく。カンナが呆れ気味に呟く。
「……別に褒めてないですよ」
「あ、そうなの?」
「なんで褒めていると思ったのですか……」
「まあいいや、これで形勢逆転ってやつだな」
「くっ……」
「とどめといかせてもらうぜ……」
タイヘイがカンナを見下ろしながら呟く。
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