第7話(1)姫として

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「参ります……!」


「むおっ!」


 カンナが薙刀を振るうと、破裂音がして、タイヘイがややのけぞる。カンナが目を細める。


「常人よりも丈夫ですね」


「常人ではないからな」


 タイヘイが自らの少し膨れ上がった肉体を誇示する。


「なるほど、ゴリラのそれですか……」


「そういうこった」


「ならば……!」


 カンナが薙刀を上下に振るう。薙刀の先端から雷が一条飛ぶ。


「おっと!」


 タイヘイが足裏から煙を噴出させて、素早く雷をかわす。


「む!」


「よっと!」


 カンナが雷をもう一条放つが、タイヘイはこれもかわす。カンナが顔をしかめる。


「ロケットブースター……なかなかすばしっこいですね」


「来ると分かっていれば避けられるぜ」


「それならば!」


 カンナが薙刀を地面に突き立て、地面を強くこすり上げ、炎を巻き上げる。


「あらよっと!」


 タイヘイがロケットブースターを駆使して、空に飛び上がる。


「そうくると思っていました!」


「なにっ⁉」


 カンナが素早く、前のよりも大きな炎を巻き上げて、タイヘイに向かわせる。


「空中、しかもこのタイミングならば逃げ場がないでしょう!」


「ちぃっ!」


「なっ⁉」


 タイヘイは両腕を振るうと、斬撃が飛び、炎はかき消される。驚くカンナに対し、タイヘイは得意気に笑ってみせる。


「へっ! どうよ!」


「かまいたちの斬撃の風圧ですか……」


「そういうこった!」


「なかなかどうして、厄介な方ですね……」


 カンナが薙刀を構えながらため息交じりで呟く。


「もう打つ手なしか?」


「……はい、そうです、と言うわけがないでしょう……」


「まあ、それはそうだよな」


「……」


「それじゃあ、こちらから仕掛けさせてもらうぜ!」


「!」


 タイヘイが急降下し、カンナとの距離を詰める。タイヘイが腕を振るう。


「おらあ!」


「くっ!」


 タイヘイが斬撃を飛ばすと、カンナは馬を器用に乗りこなし、その斬撃を飛んでかわしてみせる。タイヘイが感心する。


「へえ……」


「ふう……」


「あまり、お馬さんをいじめたくはないんだが……」


「む……」


「うおおっ!」


「‼」


 タイヘイが腕を大きく膨らませ、地面を思いきり殴りつける。地面が派手にひび割れ、カンナの跨っていた馬が動揺する。


「そらそらあ!」


「ちっ!」


 タイヘイが砕け散った土塊をいくつも殴りつけ、カンナに向かって次々と飛ばす。カンナは舌打ちをして馬から飛び降り、馬を逃がして、自分も土塊をなんとかかわす。それを見て、タイヘイが笑みを浮かべながら声を上げる。


「もらった!」


「む!」


 タイヘイがロケットブースターを噴出させ、カンナの懐に入る。


「機動力を手放したのはミスだったな!」


「……!」


「おら!」


「くう!」


 タイヘイが拳を振るう。カンナが薙刀の柄でそれをなんとか受け止めてみせる。


「やるじゃねえか!」


「それほどでも!」


「ところがどっこい、まだペースは上がるぜ!」


「⁉」


「おらおら!」


 タイヘイがラッシュを繰り出す。カンナは防戦一方になる。


「ぐっ……」


「どうしたどうした⁉」


「せい!」


「うおっ! 眩し……!」


 カンナが薙刀を横にしてかざすと、薙刀がピカっと光った。タイヘイはその眩しさに思わず目を瞑ってしまう。


「はっ!」


「うおっと!」


 カンナが薙刀を回転させ、柄の部分でタイヘイの顔を狙うが、タイヘイは後方に飛んでそれをかわす。カンナが再び舌打ちする。


「ちっ、それもかわすとは……」


「刃じゃなくて、柄でくるとは予想外だったけど惜しかったな! ……って、あ、あれ?」


 タイヘイが足元をふらふらとさせる。カンナが笑みを浮かべる。


「ふっ……」


「な、なんだ……?」


「顎を掠めたでしょう、それによって脳が揺れたのです」


「な、なんだと……?」


 タイヘイがなおもふらふらとする。


「まともに歩くことが出来ないでしょう?」


「む、むう……」


「脳は人間のそれだったようですね」


「くっ……」


「もっともあなたの場合はほとんど空っぽに近いようですが」


「い、言ってくれんじゃねえか!」


「⁉」


 タイヘイがパンチを繰り出す。カンナはそれをかわす。


「あ、当たらねえ……」


「鋭い一撃でしたね、危ないところでした」


「くそ……」


「野生の勘というやつでしょうか」


「急な発光と言い、お姫さまだってのに随分と汚い真似を……」


「姫だからこそ手段を選んではいられないのです。ひとつの国を背負っているわけですから」


「! むう……」


「お覚悟!」


 カンナが薙刀を構え直す。

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