第6話(1)詫びを入れる

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「だ、誰だ⁉」 


「いや、名乗るほどのものでもねえが……」


 タイヘイは鼻の頭をポリポリとこする。


「ふざけるなよ!」


「ふざけてはないけどよ……タイヘイだ」


「タイヘイだと……?」


「何者だい?」


 シモツキが首を傾げ、ヤヨイがキサラギに視線を向ける。


「いや、まったく知らんな……」


 キサラギが首を左右に振る。ヤヨイが苦笑する。


「なんだい、それでも諜報活動が得意なのかい?」


「集めた情報をろくに扱えんやつに言われたくない……」


「どういう意味だい?」


「そのままの意味だ……」


「ははん……ケンカを売ってるってことだね?」


「単細胞もここまでくると呆れてものが言えんな……」


「いい度胸をしているじゃないか……」


「こちらの台詞だ……」


 ヤヨイとキサラギが睨み合う。タイヘイが苦笑する。


「なにやらそっちで盛り上がっているみてえだな」


「お、おい、貴様ら! 相手を間違っているぞ!」


 シモツキが声を上げる。


「……」


「………」


「いい加減にしろ! あのお方に報告するぞ!」


「ちっ……」


「ふん……」


 ヤヨイとキサラギが視線をタイヘイに戻す。シモツキがタイヘイに向かって尋ねる。


「タイヘイとやら……貴様の狙いは一体なんだ?」


「狙い?」


「ああ、何故に我らの進軍を妨害する?」


「そいつらからなにも聞いてねえのか?」


 タイヘイが倒れているモリコたちに向かって顎をしゃくる。


「……私たちの領地がどうとか言っていたな。どうだ?」


 シモツキがヤヨイたちに尋ねる。


「そういえばそんなこと言っていたね、ここが自分らの国になるとか……」


「大体同じようなことを言っていたな……」


「領地、国か……」


 シモツキが顎に手を当てる。タイヘイが頷く。


「……つまりはそういうこったよ」


「待て、やっぱり話が見えんぞ」


 タイヘイに向かってシモツキが手を挙げる。タイヘイが首を傾げる。


「分からねえのか?」


「ああ、分からん」


「ここら辺はよ、かんぴょう地帯ってやつなんだろう?」


 タイヘイが地面を指差す。


「……緩衝地帯と言いたいのか?」


「そう、それだ」


 タイヘイが今度はシモツキを指差す。


「それがどうしたというのだ?」


「そういう曖昧なことはもう止めにしようかなと思ってな……」


「止めにするだと?」


「ああ」


「どういうことだ?」


「ここに新しい国を造るってことだよ、俺たちはみ出し者たちのな」


「!」


「‼」


「⁉」


 タイヘイの言葉にシモツキたちは驚く。タイヘイは笑う。


「へっ、言葉も出てこねえってか?」


「ああ、呆れてな……そんなことを我々が許すと思うか?」


「いちいち許可が必要なのかよ?」


「礼儀として挨拶くらいはあってしかるべきだな」


「面倒だな……」


 タイヘイが肩をすくめる。


「もっとも……」


「うん?」


「それを認めるつもりはさらさらない!」


「なんで?」


「な、なんでって……我々の兵も随分と世話になったからな」


「だから、勝手に俺らの国を通るからだよ」


「ふざけるなよ! 貴様らの国なぞ認められるか!」


「まあ、そうなるだろうな……」


 タイヘイが後頭部をポリポリとかく。シモツキが告げる。


「ここで詫びを入れて引き下がるなら、見逃してやる……」


「詫び?」


「ああ、そうだ」


「詫びって、なにするんだよ?」


 シモヅキが地面を指差す。


「地面に四つん這いになり、頭を下げるのだ」


「おい、シモツキ!」


「なんだ、ヤヨイ?」


「それは随分と甘いんじゃないか?」


「こんなところでこれ以上余計な時間や労力など使ってはおられん……」


「だからといって!」


「まあ、シモツキの言う通りかもしれんな……」


 キサラギが頷く。シモツキが笑みを浮かべる。


「キサラギの賛同は得た。これで2対1だ」


「ちっ……」


 ヤヨイが舌打ちして、視線を逸らす。シモツキが尋ねる。


「納得したと言うことで良いな?」


「ああ……」


「よし、それではタイヘイとやら……」


「?」


「話の続きだ、詫びを入れろ」


「要はあれか? 土下座をしろってことか?」


「要するまでもないことだが、そうだな」


「はいはい……」


 タイヘイが両膝をつく。


「なんだ? やけに素直だな……」


「ここにきてビビったんだろう、はっ、面白くないね……」


 キサラギの呟きにヤヨイが応える。


「え~たいへん申し訳ありませんでした……!」


「「「!」」」


 タイヘイが頭を地面に打ち付けると、地面が激しく揺れ、砕けた土塊がいくつかシモツキたちに向かって飛んでいき、周囲の兵がそれらの直撃を喰らって倒れる。タイヘイが笑う。


「……詫び、入れたぞ?」

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