第3話(4)鬼蜘蛛のパイスー

「な、何を笑っているの⁉」


「足も糸で縛ったのは良い判断だった……だが、肝心なのは足の裏だぜ!」


「はあっ⁉」


「おおおっ! エンジン全開だ!」


「なっ⁉」


 パイスーが己の目を疑った。タイヘイが足裏からもの凄い勢いの火が噴き出させたかと思うと、空に浮かび上がったからである。


「糸が切れん……木が多少重いが、問題はねえ!」


「くっ⁉」


 タイヘイがグングンと上昇する。


「声が聞こえる! 方向もこちらで間違いねえな!」


「な、なんなのよ、アンタ! 石頭と斬撃だけだと思ったら、怪力に空飛ぶ力……何者よ⁉」


「俺は……人と獣のハーフと妖と機のハーフの間に生まれた……!」


「ええっ⁉」


「なんて言えばいいのか……機、ロケットブースターのクオーターとでも言うのかね」


「そ、そんなバカげた存在が……」


「ここにいるんだよ!」


「ちっ!」


 パイスーが両手を掲げ、自らの前に大きな蜘蛛の巣を張る。


「む!」


 タイヘイが蜘蛛の巣に引っかかる。パイスーが笑う。


「ふん、ワタシの蜘蛛の巣は簡単には突き破れないわよ!」


「むう……」


「このまま、頭だけでなく、全身を蜘蛛の糸で覆ってやるわ!」


「そうは……させねえ!」


「え⁉」


 蜘蛛の巣に引っかかったまま、タイヘイがさらに加速する。


「破れないならそのまま突き進むまで!」


「そ、そんな⁉」


「うおおっ!」


「がはっ!」


 スピードに乗ったタイヘイの頭突きがパイスーの額にぶつかる。


「手ごたえ、いや、頭ごたえあり!」


 タイヘイが叫ぶ。


「……ん」


「あ、あねご!」


「姉御、目が覚めたんですね……」


「アネゴ、良かった……」


 小鬼と中鬼と大鬼のそれぞれの代表者が目覚めたパイスーを見てホッと胸をなでおろす。


「ア、アンタたち……ワタシは確か」


「タイヘイ殿の頭突きを思いっきり喰らったのよ」


 モリコがパイスーに告げる。パイスーが目を丸くする。


「アンタ、蜘蛛の巣から抜け出せたの?」


「タイヘイ殿がロケットブースターの火を使って焼き切ってくれたわ」


「焼き切る……そんなことが……」


「俺はなんとか無理やりほどいたぜ。だいぶ時間がかかったけどな……」


 タイヘイが自らの後頭部をポリポリとかく。


「ロケットブースター……無理やり……ははっ、なんでもありね……」


 パイスーが苦笑を浮かべる。モリコが深々と頷く。


「それについては同意だわ」


「ん……」


 パイスーが半身を起こす。


「あねご、無理しないで!」


「平気よ」


 パイスーが小鬼に応える。


「姉御、頭を打ったのですからもう少し安静にした方が……」


「そんなにヤワじゃないわ」


 中鬼の言葉にパイスーは笑みを浮かべる。


「アネゴ……地面への落下はこいつが寸前で拾ってくれた……」


 大鬼がタイヘイを指差す。


「そうなの?」


「ああ、視界が覆われていたからほとんど野性的な勘で動いたんだけどな。なんとかギリギリで地面に叩きつけられるのは避けられた」


 タイヘイが説明する。


「ありがとう……と言うべきかしらね?」


「よせよ……」


 タイヘイが首をすくめる。


「散々打ちのめされて、大怪我するところまで助けられたとは……これはワタシらの完敗ね」


 パイスーが苦笑を浮かべながら呟く。


「うん、お前ら、まあまあ手ごわかったぜ」


 タイヘイが腕を組んで頷く。


「ちょ、調子に乗るな!」


「そ、そうだ、まだこれからだ!」


「我々はしつこいぞ!」


「……やめな」


「‼」


 パイスーが低い声色で呟くと、小鬼たちは気を付けの姿勢になる。


「繰り返しになるけど、ワタシら『オニグモ団』の完全なる負けだ……なにか欲しいものはある? これまでそれなりのお宝を集めてきたんだけどね」


「集めてきたって……盗んだんでしょう?」


「この辺一帯で勝手に争うだけでなく、無駄に荒らしまわってやがった四国の軍の連中から掠め取っただけさ……悪党どもから盗んで何が悪いのよ?」


 モリコの言葉にパイスーが反論する。


「……盗んだは言い過ぎだったわ。単なる落ち武者狩りね」


「ああん?」


「なによ、事実を言ったまででしょう?」


「こ、このコウモリ女……」


 パイスーとモリコが睨み合う。


「おいやめろ……それよりもパイスー」


「な、なによ……」


「俺の仲間になれ」


「仲間?」


「ああ、ボスのパイスーが仲間になってくれれば、オニグモ団が皆、俺に協力してくれるようになるだろう?」


「……つまり、傘下に入れってこと?」


「泥棒稼業からは足を洗え。俺は盗賊団を結成するつもりはさらさらねえ」


「な、何をするつもりなの……?」


「俺はこの四国という島に、もう一つ国を造る。はみだし者たちの国をな」


「⁉」


「どうだ?」


「負けた上に命も救われ、さらにそういう提案をされちゃった日には……物盗りでもなく、国盗りでもなく、国造り……? なかなか面白そうじゃないの」


「姉御、何をぶつぶつ言っているんです?」


「……この『鬼蜘蛛のパイスー』、タイヘイ兄さんに喜んで協力させて頂きます」


「あ、あねご⁉」


 パイスーが三つ指をついてタイヘイに頭を下げる。小鬼たちが驚く。


「決まりだな」


 タイヘイが笑みを浮かべる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る