第1話(1)再襲撃
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「……なんか、悪いな」
行列の真ん中あたりでタイヘイがぼそっと呟く。老人が首を傾げる。
「なにがですかな?」
「いや、俺のせいで住み慣れた場所を離れざるを得なくなっちまってよ……」
「そんな、タイヘイさんのせいではありません……」
「そうか?」
「ええ、あの襲撃してきた者たちを退けてくれたことには集落の皆、大いに感謝しております。ただ……恐らくは次はもっと強力な侵攻が来ることが予想されます」
「もっと強力な……」
「はい。その為に近くの集落に移動するのです。はみ出し者たちははみ出し者同士で助け合わないと生きていけませんからな……」
「そうか……だけどよ……」
「はい?」
「いつまでも守り一辺倒ってわけにもいかねえだろう」
「皆が皆、タイヘイさんのように力を持っているわけではありませんから……」
タイヘイの言葉に老人は苦笑しながら答える。タイヘンは頭をかく。
「それはそうなのかもしれねえが、このままだとよ……」
「タイヘイさん、貴方は記憶があいまいだとおっしゃっていましたが……ひょっとして、外からこの四国にいらっしゃったのですか?」
「いや、実はそれもあいまいなんだよな……」
「はあ……」
「どこかで頭を強く打ちすぎたのかもしれねえ」
「あれだけの石頭なのに?」
「ははっ、それもそうだな、じゃあどこかで雷にでも打たれたかな……」
老人の言葉にタイヘイは笑う。老人は頭を下げる。
「失礼、大恩ある方に余計な詮索を……」
「いいや、気にすんな」
タイヘイは手を左右に振る。老人はやや間をおいてから口を開く。
「……先日、貴方は国を造るというようなことをおっしゃっていました……」
「無茶か?」
「無理ですかな」
「無理か」
「無謀とも言います」
「無謀か」
タイヘイは苦笑する。
「……ですが……」
「ですが?」
「あるいは……可能な道筋もあるのかもしれません」
「本当かよ?」
「ええ、ただ、蜘蛛の糸のように、極めてか細いものですが……」
「ゼロじゃないってんなら、それに賭けるのもありだろう」
「!」
タイヘイの言葉に老人は驚く。タイヘイは首を傾げる。
「どうかしたか?」
「い、いえ、なんとも若者らしい言葉だなと……」
「青臭いか?」
「いいえ、案外そういう方が時代を変えてしまうものなのかもしれません」
「無謀さと勢いだけはあるからな」
「ふふっ……」
腕をぶんぶんと振り回すタイヘイを見て、老人は笑う。
「それでよ」
「はい?」
「その可能な道筋ってのを示してくれないか」
「ああ、そうでしたな……」
「あ、亜人の襲撃だー!」
「む!」
「なに!」
タイヘイたちが目をやると、行列の側面から豚頭たちの集団が襲い掛かってくるのが目に入った。リーダー格の者が行列の中で声を上げる。
「行進を止めるな! 戦える者たちは応戦を!」
「戦う⁉ おまえら如きが⁉ 笑わせるな!」
「ブヒヤッヒャッヒャッ!」
豚頭が下卑た笑い声を上げる。
「くっ!」
「お礼参りだ! やっちまえ!」
「おおっ!」
「そうはさせねえ……よ!」
「うおっ!」
タイヘイが前に飛び出し、強烈な頭突きを喰らわせ、豚頭を一体、豪快に吹き飛ばす。
「て、てめえはひょっとして⁉」
「噂の銀髪石頭野郎か⁉」
「どんな噂か知らねえけど……多分そうだと思うぜ」
タイヘイはとりあえず頷いてみせる。
「こ、この野郎をまずは仕留めるぞ!」
「お、おおっ!」
豚頭たちはタイヘイを取り囲む。タイヘイは笑みを浮かべる。
「へっ……」
「な、なにがおかしい⁉」
「いや、わざわざ集まってきてくれるとは……」
「なに⁉」
「手間が省けて助かるぜ!」
タイヘイが一瞬で豚頭たちとの間合いを詰める。豚頭が驚く。
「うわっ⁉」
タイヘイは頭を思い切り振りかぶる。
「そらあ!」
「ぐえっ!」
「おらあ!」
「ぎえっ!」
「うらあ!」
「ごえっ!」
「……ざっとこんなもんか?」
タイヘイが周囲を見回す。あっという間に豚頭たちの大半が制圧された。
「! 同胞! くっ……」
「ん? 第二陣か……」
タイヘイが上の方を見上げると、小高い丘になっている部分に別の豚頭たちの集団が見える。
「よくも同胞たちを!」
「お前らが先にケンカ売ってきたんだろうがよ……」
「か、囲め! 数で圧倒す……」
「同じことだ!」
「げえっ!」
タイヘイが指示を出そうとした豚頭に頭突きをかます。タイヘイは頭を撫でる。
「……さっさと片付けさせてもらうぜ」
「ぐっ……」
「どうした? 怖じ気ついたか?」
「調子に乗るな!」
「⁉」
何者かの突進によってタイヘイが吹き飛ばされる。
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