第1話(2)猪突猛進

「ふん……」


「!」


「やったぜ、ざまあみろ!」


「自慢の石頭も、体に攻撃喰らっちゃあ、ひとたまりもねえな!」


「ああ! 所詮はもろい体の人間だ!」


 豚頭たちが歓声を上げる。その内の一頭が突進を繰り出した者に声をかける。


「さすがはイノマル様……見事な突進でした」


「……こんなものかよ、ったく、拍子抜けもいいとこだぜ……」


 豚頭たちとはすこし異なった、猪の頭をした獣人が肩をすくめる。


「亜人連合の幹部、イノマル様の突進を喰らって無事でいられる者などいません」


「俺がわざわざ出張ってくるまでのことだったかね……?」


 イノマルが首を傾げる。


「後のことは我々にお任せ下さい」


「ああ、任せる」


「あ~痛って……」


「⁉」


 イノマルたちが驚く。吹き飛ばされたタイヘイが体をムクっと起き上がらせたからである。


「そ、そんな……」


「……そこの豚頭、なかなかやるじゃねえか」


 タイヘイがイノマルをビシっと指差す。イノマルがムッとする。


「お、俺は猪だ!」


「豚も猪も似たようなもんだろう」


「全然違う!」


「そうか?」


「そうだ!」


「どういうところが?」


「この突進力だ!」


「うおっ!」


 イノマルが再度突進を敢行し、タイヘイを豪快に吹き飛ばす。


「どうだ!」


「……」


「返事がねえな……くたばったか」


「あ~効いた~」


「なっ⁉」


 イノマルが驚く。タイヘイがまたしても起き上がったからである。


「なるほどね、確かに豚とは違うわ……一緒くたにして悪かったな」


「へ、平気なのか……?」


「まあ、なんとかな」


「に、人間にしてはなかなかタフなようだな」


「人間にしてはね……」


 イノマルの言葉にタイヘイが笑みを浮かべる。


「まあいい、今度こそ終わらせてやる!」


 イノマルが足で地面を軽く二、三度蹴る。


「来るか……」


「二度あることは三度あるだ!」


「三度目の正直……っていう言葉もあるぜ?」


「抜かせ!」


 イノマルが凄まじい勢いで突進する。


「おっと!」


「な、なに⁉」


 イノマルが驚く。自身の突進をタイヘイがガシッと受け止めてみせたからである。


「……ふふっ」


「な、なんだ、その細身でその力……一体どこから湧き出てくるんだ⁉」


「そ、それはこの体からだよ!」


「!」


 タイヘイの両腕がググっと大きく膨らみ、イノマルを徐々に押し返す。


「ぐっ……」


「ま、まさか……?」


「そのまさかだ……よ!」


「うおっ⁉」


 タイヘイがイノマルを投げ飛ばす。豚頭たちが驚く。


「イ、イノマル様が投げられた⁉」


「あ、あいつ、なんて力だ⁉」


「し、信じられん⁉」


「腕が膨らんだぞ⁉ 風船か⁉」


「ただのチャラい銀髪野郎じゃないのか⁉」


「石頭の頭でっかちじゃなかったのか⁉」


「うおい! 後半、単なる悪口になってんじゃねえか!」


 タイヘイが豚頭たちの反応に文句をつける。


「く、くそ……」


 イノマルが立ち上がる。タイヘイが笑う。


「へえ、結構タフみたいだな」


「だ、黙れ!」


「お~怖……」


 タイヘイが首をすくめる。


「な、舐めるなよ、人間如きが……」


「別に舐めちゃいねえけどな。どっちかというとそっちだろうが、舐めてたのは」


「獣人が人間に後れはとることなど決してありえんのだ!」


「世の中、例外っていうことは結構あるもんだぜ」


「うるさい!」


「うるさいって……」


 タイヘイが苦笑する。イノマルが地面を力強く踏みしめる。


「次で終わらせる!」


「へへっ、気が合うな、俺もそう思っていたところだぜ」


「うおおおっ!」


「!」


 イノマルがこれまでよりも早い勢いで突進する。


「終わりだ!」


「おりゃあ!」


「⁉」


 再び腕を膨らましたタイヘイがイノマルの側頭部を思い切り殴りつける。イノマルは真横に吹っ飛び、岩壁にぶつかり、動かなくなる。タイヘイがため息をつく。


「ふう……」


「イ、イノマル様が……」


「負けた……」


「な、なんなんだ、てめえ!」


 豚頭の内の一頭がタイヘイを指差す。


「え?」


「え? じゃねえ! がそんなこと出来るわけねえだろう!」


「そうか?」


「そうだよ!」


「別にただの人間なんて言った覚えはないけどな……」


「なに⁉」


 タイヘイが三度両腕を膨らませてみせる。豚頭たちが驚く。


「‼」


「俺にも獣の強さが備わっている……ただそれだけのことだよ」


「なっ……⁉」


 タイヘイの言葉に皆が──遠くで戦いの成り行きを見守っていた人間たちを含めた──皆が驚く。

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