4・1週間前の話(その3)
そんなわけで、俺たちは急きょ大賀の家を訪れることになった。
「あいかわらず、でけぇ家だな」
「いかにも『地元の名士』って感じだよねぇ」
ここを訪れるのは、いつ以来だろう。
パッと頭に浮かんだのは一昨年の夏。部活を引退してすぐの頃、野球部の3年生全員でここに泊まりに来たことがあったよな。
「尊くーん! 叶斗くん連れてきたー!」
神森が玄関から声をかけると、左前方にあったドアが鈍い音をたてて開いた。
「待っていた。……久しぶりだな、若井」
「お、おう。久しぶり」
軽く手を挙げつつも、大賀の背後に目を向ける。
尻尾は──ない。
(あ、くそ……)
騙された、というのが真っ先に浮かんだこと。
たぶん、このあと神森にからかわれる。「ねえねえ、聞いてよー。叶斗くんってば『尊くんのお尻に尻尾が生えた』って話をしたら信じちゃってさー」なんてバカにされるやつだ。
腹立たしさのあまり、俺は神森のケツを力まかせに蹴り飛ばした。
「痛っ……なにすんの、叶斗くん!」
「何じゃねーよ、ふざけやがって」
「え、ふざけるって何が?」
「尻尾だよ、尻尾! どこにあるんだよ、この野郎!」
だまされたことを大賀には知られたくなかったので、敢えて小声で抗議する。
神森は「ああ」と含むような笑みを見せた。
「大丈夫、ふざけてないから。──尊くん、尻尾見せて」
「……今ここでか?」
「うん。おねがい」
大賀は、形のいい眉を明らかにひそめた。けれども「ほら、早く早く」と急かす神森に、やがて諦めたような顔つきになった。
「──これでいいか?」
その瞬間、俺は「ひっ」と情けない声をあげてしまった。
だって、いきなり──本当にいきなり大賀のケツに尻尾が生えたんだ。
なんだこれ、どういうからくりだ?
「ああ、そうか……手品か、手品だろ」
そういえば、急に耳が大きくなるようなやつ、昔テレビで見たことあったわ。
すごいな、大賀。お前、野球だけじゃなくて手品の才能もあったんだな。だからプロ入りしなかったのか。あれだけ「天才ピッチャー」って騒がれていたのに──
「落ち着いて、叶斗くん。これ手品じゃないから」
どうどう、となだめるように神森に背中をさすられた。
「なんなら見せてもらいなよ。尻尾の付け根のところ」
「は?」
「いいよね、尊くん」
「……どうしてもと言うのなら」
大賀自身は、明らかに気乗りしていない。
でも悪い、ここはちゃんと確かめさせてくれ。じゃないと、どうしたって信じられねぇ。
というわけで真偽確認──
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