第1話

1・神様と朝ごはん

 朝7時、今日も俺はあくびをかみ殺しながら台所に立っている。

 今日の朝ごはんは、グラタン風ツナトーストとカップスープ。どちらも火を使わずに作れるお手柄なやつだ。

 まずは、電気ポットでお湯をわかしつつ、大きめの器にバターをいれてレンチン。

 え、それだけなら小さなカップでいいだろうって?

 違うんだなぁ。まあ、見てろって。そのうち大きめの器がいい理由がわかるから。

 バターが溶けたら小麦粉を投入、スプーンで混ぜながら、さらに牛乳を少しずつ加えていく。ここでダマになると残念な仕上がりになるから、なめらかになるようにしっかりとな。

 で、もう一回電子レンジにつっこんで2〜3分あたためるんだけど、このとき牛乳が吹きこぼれることがあるんだよ。小さいカップでやろうとすると、まあ、大惨事ってわけだ。だから、最初から大きな器を使う。それなら吹きこぼれる心配がないからな。

 これでクリームソースは完成。な、簡単だろ?

 あとは、このソースにツナ缶を混ぜて、トーストにのっけて、チーズを散らして、もう一度電子レンジへ。本当はオーブントースターがいいらしいんだけど、うちにはないから、ここは妥協する。

 で、チーズが溶けたら「グラタン風ツナトースト」の完成ってわけ。

 うん、いいにおい。食うのが楽しみだな。

 あとは、インスタントのカップスープを作るだけ。ちなみに、俺のカップスープの器は、さっきクリームソースを作るのに使った大きなやつ。べつに食いしん坊だからってわけじゃない、これなら洗い物がひとつ減るだろ?

 果物は……どうすっかなぁ。面倒だから、実家からもらったみかんでいいっか。

 というわけで、出来たてほやほやの朝食を、トレイに乗せてそのまま居間へ。こたつテーブルに並べたところで、客室に面したふすまが開いた。


「よう、起きたか」

「ああ」


 おはよう、と俺の向かいに座ったのはおおみこと

 高校時代の野球部仲間で、元神童。

 で、今は尻尾を生やした「モフモフ野郎」――3ヶ月前に「神様」になったらしい俺の同居人だ。


「カップスープはかぼちゃでいいよな?」

「なんでも構わん。……このパンの上に乗っかっているのは?」

「なんちゃってクリームソースだよ。あとチーズ」

「……ツナのにおいがする」

「そこは食ってからのお楽しみ」


 それじゃ、と声をかけると、ヤツは丁寧に「いただきます」と手を合わせた。

 俺も同じように手をあわせて、まだ熱いトーストにかじりつく。

 ――うん、うまい。ソースの一部がダマになっちまったのが残念だけど。


「やはりツナだ」


 ぱたん、とおおの尻尾が揺れた。


「うまい」

「お前、昔からツナが好きだったもんなぁ」

「なんなら毎朝ツナでもいい」

「嫌だよ、絶対飽きるって」


 大きな口でかじりつくわりに、大賀の食べ方は不思議と汚くない。むしろ品格すら感じられて、こういうところが神様なんだろうなって思っちまう。

 そう、こいつは人間じゃない。

 今はもう「神様」なんだ。


神森かみもりは、まだ「新米だ」って言ってたけど……)


 俺がぼんやりと思い出したのは、今から一週間前の出来事だ。

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