第4話 ゴブリン襲撃

宰相は、英樹と姫乃、他二名に事情を説明していた。どうやらここに来るまで何も話をしていなかったらしい。英樹と姫乃は違うだろうが、他二名はかなりプライドが高いようである。何か揉めている二人の声が特に聞こえてきた。聞き耳をたてていると、敢えてはなしをしていないみたいだ。おそらくは先に事情を説明すれば拒否されると踏んでの事だろう。

首都から遠く離れた辺境の地に来させられ、挙げ句の果てに、街に来てからは別のパーティーとの優遇の差に不満が溜まっていたのだろう。

それがここにきて一気に吹き出たと言ったところか。

宰相に悪態をついた二人と、後に続く二人が静観していた俺の方にやってきた。

「あんたが創麻か?」

明らかに態度の悪い舌打ち野郎が俺に話かけてきた。

「ああ、そうだが。」

一応これでもこいつらより年上だが、俺は普通に返す。

「ふーん。」

軽い一瞥の後、視線を武装神に移した。ファイター、アーチャー、ヒーラーと順に確認しているようだ。最後にセイバーに目をやり、

「へえ、これかー、なかなか良さそうじゃん。」

偉そうに。

「決めたぜ。俺はこれにする。」

何を勝手に決めたのか。不快にさせる男だ。その様子を今まで黙っていた無口が横から割り込んできた。

「何、勝手に決めてるんだ?」

こいつ喋れたのか。無口改めて無視野郎に変更だな。

「俺もそいつが良いに決まっているだろ。」

舌打ち野郎の胸ぐらを掴む無視野郎。

何が決まっているのか分からんが、俺はこいつらにセイバーを乗せる気はさらさら無い。

「ちょっと、ちょっと、止めなさいよ。」

割って入る姫乃。後から知ったがこれは日常茶飯事の事らしい。英樹はと言うと三人のやり取りには目もくれず四機の武装神をそれぞれ触っていた。よく見ると目が輝いている。推測だかコイツはメカに興味があるとみた。

「いい加減にしなさい!」

姫乃の大声が倉庫内に響きわたる。

「チッ!」

「ふん!」

二人は手を離し離れた。どうやら姫乃には頭が上がらないらしい。

「もう、いいか?」

俺は横から口をだした。

仲良くするつもりは、さらさら無いがこれ以上のやり取りは不毛だな。

「そこのずっと見ている、確か英樹だったか?」

英樹は慌ててこちらに来た。行動もおどおどしている。うーん、この世界に来れば魔法?が使えるので多少はテンションが上がりそうだが、一概にそうでも無いのかも知れない。

とりあえずは全員の目をこちらに向けさせた。

「君らはこれが何か知っているか?」

俺の問いに

「いいえ。」

姫乃が返し、他の三人は無言で首を振った。

そうか、こいつらはまだここに来て日が浅かったな。

「では、今、この世界で起こっている事情についてはどこまで知っている?」

続けて確認する。

「人間と魔王が戦っていて世界の危機だから、異世界と言うか私達の世界から勇者を召喚して魔王を倒して欲しいとか。」

「それだけか?」

姫乃の答えに俺はさらに問いかける。

「えっと、あと勇者はそれぞれの苦戦している戦線に赴き手助けをして欲しい、だったかと…」

「んな訳ねーだろ。」

それを聞いていた舌打ち野郎が横から口を挟んだ。俺を含めた一同がそちらを向く。

「使えねーやつは危ねー戦争のど真ん中に行くか、ど田舎に引っ込んでろって事なんだよ。」

舌打ちは怒気をはらませながら吐き捨てるように言った。

「そ、そんな事は…」

「じゃあ王都の城でぬくぬく暮らしているやつらは何なんだよ。」

姫乃に対し舌打ちは大声で返した。無視野郎も沈黙で肯定している。

こいつの意見は間違っていない。おそらく姫乃も頭では理解しているが心では認めたくないのであろう。

まあ、そんな事はどうでも良いので俺は重要な事を聞く。

「魔王軍についてはどこまで理解している。」

俺は舌打ち野郎を見た。今の流れからおそらくこいつが一番単純で答えてくれるはずだ。

「詳しくは知らねー。戦力は同じぐらいとか聞いたぜ。最近は巨人がいて大変だからとか?」

「それで?巨人については?」

俺はさらに踏み込んで聞いてみる。

「魔法でも倒せるけど倒すのに少し時間がかかるらしい。」

魔法で倒せるね。そんな訳無いがな。それを知らせる事は軍の崩壊に繋がるからしないだろう。

「らしい?見た事は無いのか?」

俺は舌打ちに聞き返すと

「ああ、何か魔王軍の特に巨人の話はタブーらしいぜ。何故かは知らないけどな。」

舌打ち野郎の口調からは不満が漏れていた。箝口令の効果は出ているらしい。多少は王国の態度に疑問を思っているということか。

「創麻さんは何か知っているのですか?」

姫乃が俺に聞いてくる。俺の口から真実を語っても良いが、考えて返答するべきだな。

「確かに巨人相手では部が悪いな。」

俺の言葉に勇者達は不安を顔に表した。

「宰相に何を言われたかは知らんが、お前達の力では巨人には勝てない。」

今度は明らかに不満そうな表情を浮かべた。言い方は分からんが、おそらく宰相も近しい事を言ったのだろう。余計な事は言わない方が後々の事を考えると都合が良いだろう。

「だから対巨人用のこれが必要になったらしい。」

俺は武装神を指差した。それを見る一同。

「これがあれば巨人と戦えるのでしょうか。」

まだ不安そうにする姫乃。

「実戦はまだだから、なんとも。」

暗い空気が辺りを包む。

「生身よりかは遥かにマシだと保証はする。」

このような言い回しの方が、楽観的な意見よりこちらの方が納得するだろう。

まだ納得してもらえてなさそうなので

「立てばビルの七階以上にはなる。十五メートルあるからな。戦車程度なら問題無い。」

姫乃がやや安堵したような表情を見せた。他の三人は複雑な表情をしていたが。比較対象が参考にならないから仕方ないか。だが嘘はついていない。

「今から操作方法について説明する。」

英樹と姫乃以外の二人は明らかに嫌そうな顔をした。

「めんどくせー。」

「同じく。」

こちらとしても面倒な事に変わりはない。なので、必要最低限に留めるつもりだ。

「説明については簡単にする、実際に触った方が早いからな。どちらにしてもコクピットにあるシュミレーションをして、ある程度慣れてもらう。それから…」

俺はセイバーを指して、

「残念だが、こいつはまだ調整が必要だ。だから乗せる事は出来ん。」

俺の話を聞いた、舌打ち野郎と無視野郎は少し残念な様子を見せたが、

「じゃあ、急いで調整を頼むぜ、おっさん。」

舌打ち野郎が意気揚々と俺に言った。何様だコイツは。お前におっさん呼ばわりされる理由はない。まだ二十代だ………三十路ではあるが。俺はやや頭にきたが、コイツに乗せる気はないので大目に見てやった。

「じゃあ俺はコイツな。」

舌打ち野郎はファイターを指した。

「ちょっと待てよ。何、勝手に決めてやがる。」

無視野郎が舌打ち野郎に歩み寄る。やれやれ、また始めるのか。

「もう、また。止めなさいよ。」

割って入る姫乃。おそらく、こいつらはこのようなやり取りを繰り返ししてきたのだろう。仕方ないな。

「いや、それでいい。」

俺の声に三人はこちらを見た。

「事前に聞いていたが、君は近接戦闘が得意らしいな。」

「ああ。」

舌打ち野郎は俺の問いにぶっきらぼうに答えた。

「…君が選んだファイターはアーチャーに比べ近接戦闘に長けている。良い選択をしたな。」

「ほらな。」

鼻で笑う、舌打ち野郎。機嫌が悪くなる無視野郎。

「君は射撃の腕が良いときいた。」

「…」

俺の問いに無言で頷く無視野郎。機嫌が悪いのか俺とは喋る気が無いらしい。俺はそのまま続ける。

「アーチャーは射撃がメインなので、君のように冷静な判断が出来る者が良いと考えている。」

「まぁ、な。」

やや照れたような表情を見せる無視野郎。冷静とは程遠いようだか、こう言った輩は適当に持ち上げておくと機嫌が良くなる。

「じゃあ決まりだな。姫乃は残ったあれでいいよな?」

舌打ち野郎は姫乃にヒーラーを進めた。

「ちょっと、また勝手に。」

二人が好き勝手な行動をし、姫乃が後始末、これがこのパーティーの実態らしい。

俺はふと英樹を見て、

「君はどうする?」

尋ねた。

「ああ、その役立たずは何も無しだよ。」

本人ではなく、舌打ち野郎が変わりに答えた。

「役立たず?」

俺は英樹を見ながら舌打ち野郎に問いかける。

「いや、無能だろ。」

変わりに答える無視野郎。お前に聞いていないのだが。

「そんな事言わないの。」

姫乃がやや怒り気味に返した。お前達で勝手に盛り上がるな。分からんだろ。

「そんなやつ、ほっといてさっさと始めようぜ。」

舌打ち野郎はファイターのコクピットに入る。

仕方ない後で事情は聞くとして、まずはこいつらに操作方法を簡単に教授してやるか。まだ壊される訳にはいかないのでな。

舌打ち、無視の二人がシュミレータに入った。

俺は落ち込んでいるような英樹とその傍らにいる姫乃に目をやった。姫乃は俺に近づき

「私もやった方が良いのですか?」

ヒーラーを見て言ってきた。

「お好きに。」

俺はそう言ってセイバーの方に行こうとした。

横目で見ると姫乃の表情が暗い影を落とす。

コイツも苦労してるんだろうな。

「ふう。」

俺は軽くタメ息をつくと、

「二人共、暇なら手伝ってくれ。」

俺が言うと、姫乃の表情が明るくなった。

「ほら。英樹、行こ。」

姫乃は英樹を背中から押した。

心なしか英樹の表情が明るくなったように見えた。

「じゃあ、こっちへ来てくれ。」

三人でセイバーの方に向かう。

「これって、さっき調整が必要だって言ってた…」

「ああ、精密なコントロールや動力系、あとPCとかの微調整が必要だ。」

俺は姫乃の問いに返した。

「私に出来るかな。」

姫乃が不安そうに言ったので、

「機械工学の知識は?」

首を横に振る姫乃。

「なら今はサポートでいい。」

「サポート?」

「ああ、道具を運んだり、明かりを照らしたりとかな。」

「それって…」

あんまり役にたたないって事ですか?と疑い、眉をややひそめる姫乃。

「今は、と言ったんだ。」

先に言われる前に俺は言った。まだ納得していないようなので、

「学校のように一から座学をしてる暇はないんでな。」

俺は道具を取りつつ、

「見て覚えろ、とか古いことは言わん。」

ライトを姫乃に渡す。

「一緒にやりながら覚えてもらう。…で、いいか?」

俺が口元を吊り上げると、

「はい。」

姫乃は元気の良い返事と笑顔で返してくれた。

さて、残すは…視界に英樹を入れる。

「君はどうする?いや、どうしたい?」

問いかける。

「俺は…」

俯いたまま、消えるかのような声が聞こえた。

覇気が無さすぎたろ。

「ほら、英樹、ちゃんと言わないと。」

姫乃が英樹を促す。

「英樹も私と一緒にお手伝いやろ?」

姫乃の言葉に無言で頷き返す。これではまるで、姫乃が保護者のようだ。姉と言うより母親か。

「じゃあ、始めるか。」

俺達はセイバーの調整に入った。

とりあえず、姫乃は俺のサポートをしてもらうので近くで作業を手伝ってもらった。

一方の英樹はと言うとセイバーの設計図を見せて見た。すると、こいつはどうだろう。興味がかなりあるのか瞬く間にのめり込んだようだ。こちらに興味があるようなので、しばらくは操作方法や図面などの資料を見せておく事にした。

俺が作業を始めて三十分ぐらいになっただろうか、それまでただ作業の手伝いをしていた姫乃が唐突に口を開いた。

「あの…」

「ん?」

俺は作業の手を休めない。

「私達のパーティーですけど、変、ですよね?」

「ああ、かなりな。」

本人も気付いているようなので俺は素直に返す。

「ですよね。あの二人はいつもいがみ合っていて、事あるごとに英樹を苛めて。」

聞いてもいない事を喋り出す姫乃。仕方ない付き合ってやるか。

「彼は、そんなに役立たずなのか?」

俺は英樹を見た。何を持って役立たずか分からないが

「ううん。」

姫乃は首を横に振る。

「彼、英樹は他の人よりも魔力が低いの。この世界の人よりは全然あるわよ。もちろん身体能力も。けど…」

姫乃の表情は更に曇る。

「一緒に召喚された中では一番低かったわ。」

姫乃の話をまとめるとこうだ。

英樹も当初は今ほど暗くなかったらしい。この世界に来た時は、魔法が使えてかなり喜んでいたらしい。

だがどんな世界でも力には優越があり、その差が見えてくると自身の存在意義が分かってくる。(これは俺も経験したことだ。)それが分かるのが、最初は王国による魔力の選定。高い者とそうでない者に分けられる。

そこで先ず自分の価値が分かってくる。王国や貴族の対応が変わってくる。同じ勇者といえど待遇面の差が出くる。そして生活レベルの差。それでも一般人よりは遥かに良い生活水準だ。だが同じ世界から来た者同士だとやはりそこは気になる。ましてや同じ時期なら尚更だろう。

やがて生まれた高低差は更に深い闇を生み出す。高い者は力の下の者を見下し、低い者は自分よりも力の低い者を見つけては憂さ晴らしをする。これはどこの世界も同じだな。舌打ち野郎と無視野郎、姫乃と英樹は力が低い分類に入ってしまった。

その中で最も力が低かった為か、矛先になったのが英樹という訳だった。

在り来たりの詰まらん話だな。

「彼は何故パーティーから抜けない?」

普通に考えたら嫌気が差してしまうだろう。素朴な、当たり前の質問を姫乃に投げ掛けた。

「うん、私もそう思ったの。でもね私も英樹もまだここに来て二ヶ月だし、どうしていいか分からないの。」

姫乃の話で俺は何と無く察しがついた。まだ日も浅い為、生活環境に慣れていない。また基本的に勇者は王国の管理下にあるので、それを離れると言う事は生活支援も断たれると言う事だった。俺のように自分の力で、生活の糧を得ていなければ無理だろう。おそらく若さだけではないが、自身で生活していく知恵が無いんだろうな。あの平和な日本に慣れ住んでいたら当然だろうと俺は感じていた。

「確かパーティーを組まなければならないのだったか?」

俺がここに来た時と同じなら召喚された勇者は基本的に四人でパーティーを組む事を義務付けられていた。

(一部例外もあった)俺は自分の力が分かったのと面倒だったので、とっとと抜けたが。

「ええ、それで力の強さが近い私達がパーティーを組んだんだけど、」

「ま、それでもチーム内で差が出てくるわな。」

俺が話を遮ると姫乃は頷いた。力の差、か。何を持って言うのかな。

力が低いと言われていた男は、こちらは気にもせず図面を見ていた。…ふむ、少し話をしてみるか。

「姫乃…。」

英樹を見つつ、

「俺が教えた電子回路のチェックは分かるか?」

「ええ、まあ。」

ほぼ調整は終わっているし、非常に簡単な作業だから一人でも出来るはずだ。

「じゃあ、しばらくそれをやっていてくれ。」

「う、うん。」

俺は姫乃にその場を任せ英樹に近づいた。

「何か気になる事でもあったか?」

一心不乱に武装神の図面を見ていたので気になって声をかけてみた。

「え、あ、その…」

英樹はいきなり声をかけられて驚いたのか、かなり挙動不審な動きをした。それとも自信の無さの表れか。

「驚かしてすまなかったな。ただ君がこれにかなり興味があるようだったので、な。」

英樹は無言で頷いた。

「で。何か気になる事があった?」

俺の問いに英樹はまたも無言で頷く。

「怒らないから、聞かせてくれないか?」

すると英樹は小さい声で図面を指しながら話始めた。

「ここのシステムですがOSを書き換えて調整すればもっと動きが良くなるかと思います。」

不安そうにこちらを見る英樹。

「いい、続けて。」

英樹はさらに、

「それに合わせて駆動系の調整も必要かと。」

それなりに知識はあるようだ。

「電子制御系はどうだ?」

俺が何気に聞いてみた。

「そこも調整すれば良いかと、ただ…」

英樹が言葉に詰まる。

「ただ?」

俺の問いに英樹が迷っていたようだが

「構わないから続けてくれないか?」

俺がそう言うと

「はい。このようにされたのは何か理由があるように見えます。強いて言うなら、わざと制限しているとしか。」

そこに気付くとはなかなかの物だ。ただ機械に強いだけではない。作り手の理由も考えるとは、この若さでそうそう出来る事ではないだろう。俺はこいつに興味が出てきた。

「その理由をどう考える?」

「そうですね、機体全体の負荷を軽減する為か、または操縦者にかかる負担を低くするためでしょうか?」

英樹は俺の問いに、今までのおどおどしていた態度が嘘のように答えた。予想だか機械いじりが好きなのだろう。

「ふむ。なるほど、大体正解だ。だが、それだけならば、一時的のみの負荷にするとか、微調整で何とかなりそうだが?」

「!すいません。」

ふと我に返ったのか、今まで熱く喋っていたのに、またおどおどした態度に戻ってしまった。謝る必要は無いのだかな。

「いや、それを見抜いただけでもなかなかだと思うぞ。まあ俺がこのような仕様にしたのは、誰でも扱えるように…かな。」

「誰にでもですか?」

英樹は疑問に思ったようだ。

「そうだ。俺は平等が好きでね。」

「?」

「機械ってさ、誰でも使えた方が優しいだろ?」

俺が笑みを見せると

「なるほど。確かに。」

英樹は納得したようだった。

誰でも(平等に)殺し合いが出来る方がいいからな。

その会話から英樹も俺に少し心を許したのか何かと共に行動を始めた。

一緒に作業を始めて会話をする中で、英樹の事が分かった。彼は元の世界では大学生で主に機械工学を学んでいたらしい。機械や電子に詳しいのは納得だ。ただそれよりも機械の事が、物作り好きなのだろう。

俺もそうなので何となく気があったのかもな。

先程の図面の理解、今は機械の調整作業にも無駄がない。なかなかやるな。

俺達が作業を始めて三時間ぐらい経っただろうか、シュミレータから舌打ち野郎と無視野郎が出てきた。

「ハイスコアだったぜ。」

自慢気に言い放つ舌打ち野郎。そうだろう、難易度は一番低くしてある。

「イージーだな。」

無視野郎も得意気だ。

「何か頑張ったら、腹が減ってきたな。」

「俺もだ。」

意気投合する二人。遊んでいただけだが。俺は特に何も言わず作業を続ける。

「なあ、これもうよくね?実際に動かしてみたいんだけど。」

舌打ち野郎が俺に言ってきた。無視野郎も無言で肯定する。

「まだ早い。」

俺の答えに文句を言いそうだったので、

「もう少し調整が必要になった。」

続けたが

「調整っていつまでやるんだよー。ホントに動くのかー。」

舌打ち野郎がくそ生意気な事を言ってきた。

「途中で爆発しても良いのなら。」

と、俺が脅すと、

「ば、爆発?」

二人は急に青ざめた。

「おい。そんなアブねー物、俺達に乗せようってのか?」

二人はやや憤っていた。

「ん?車に乗った事は無いのか?」

俺が聞くと、

「あるに決まってんだろ。」

舌打ち野郎がぶっきらぼうに答える。

「電車は?飛行機は?」

無視野郎にも聞いてみた。

「あるよ。」

不機嫌気味に答える。まったく仕方のない奴等だ。

「いいか、車や飛行機でもちゃーんと整備しないと爆発する事もある。知らないのか?」

俺が聞くと二人は驚いたように見た。まさか知らないのか?

「基本的な乗り物は燃料を爆発させて動かしているんだ。その調整が上手くいってなかったら、その燃料が漏れていたりしたらどうなる?」

俺は二人を睨む。二人はさっきまでの威勢をすっかり消沈させてしまったようだ。

「分かったか?なら飯でも食って続きをやっててくれ。」

俺は作業に戻った。二人はそのまま飯にでも行くと思っていたが作業の手伝いをしている英樹を見つけて大声で囃し立てた。

「なんだあ、役立たずが手伝いしているのか?」

舌打ち野郎が楽しそうに笑う。

「無能が変に触ると壊れるんじゃないか?」

無視野郎も続け様に言った。

それを聞いて英樹は俯いてしまった。ふう、まったく面倒な奴等だ。

「いいから、さっさと飯に行け。作業の邪魔をするつもりか?」

俺が睨み付けると、二人は肩を竦めて去って行った。

「創麻さん、ありがとうございます。」

姫乃が俺に言ってきた。俺達の様子を見て話に割り込もうとしていたが出るタイミングが合わなかったらしい。

俺は別に英樹に助け船を出す訳ではないが、二人は本当に邪魔だった。たから、

「別に礼を言われる必要はない。」

俺は続けて英樹に言う。

「俺は君が役立たずでも、無能とも思わん。」

俺の言葉に英樹はこちらを見た。

「無能の定義は様々だと思うが、君は少なくとも俺の手助けにはなっている。それに…」

英樹に図面を渡し、

「この図面を理解にはそれなりの知識が必要だ。かなり勉強したんだろ?」

俺が聞くと英樹は無言で頷いた。

「しっかり努力をしているし、それが役にたっている。少なくとも役立たず、では無いな。」

すると英樹の顔から何かが落ちた。涙。泣いているのか…。彼がこれまでどのような仕打ちを受けたかは実際には分からない。いろいろと溜まっていたのだろうな。込み上げてきたものがあるかもしれない。

決してセンチメンタルになった訳では無いが、俺も元の世界では散々な嫌な目にあっている。

気持ちが分からんでもない。

後々聞いてやるか。しかし今は、だ

「顔、洗ってきな。」

俺は洗面所の方を指す。

「涙で機器がやられては困るのでな。」

姫乃に目で促した。涙の塩分ぐらいでは何ともないがな。

「英樹行こ。」

姫乃は英樹の手を取り洗面所に向かって行った。

さて、と。そろそろこいつを動かすべきだろう。ここに到着して一日しか経っていないが、長く滞在するのはあまり得策ではい。(宰相は切れ者なのでいろいろ気付かれる可能性があった。)俺はセイバーを見た。英樹が指摘したように出力調整はしてある。あとはパイロット次第と言ったところか。

たしかこの近くにゴブリンの一個小隊がいたな。

俺は意識を別のところに集中させる。

情報が流れ込んでくる。ゴブリン四機。初期型。内一機はカスタマイズ有。もう一機も多少いじってあるか。パイロットは命令無視や施設の過剰破壊で問題を起こしている、か。面白い。丁度良い。

魔王軍の正規部隊より好き勝手に動くはずだ。

さらに小隊と言うのも数的には一対一、一対少数という基本的な戦闘データが録れるはずだ。

そのまま意識を更に集中し、貼るか彼方にいるある者から命令を下す。

「辺境の街にて王国軍の新型武装神開発の情報あり。」

俺は更に続ける。

「魔王の命である。その武装神を破壊せよ。繰り返す、武装神を完全に破壊せよ。なお、」

これも付け加えておくか、

「今回に限り住人の虐殺、皆殺しも構わない。ただし食糧庫は破壊を禁ずる。」

……数分待つことなく情報が流れてきた。明日、正午前。ゴブリン四機がこの辺境の街を襲撃する。






















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