第4話 襲撃前日譚

 宰相は、英樹と姫乃、他二名に事情を説明していた。どうやらここに来るまで何も話をしていなかったらしい。英樹と姫乃は違うように見えたが、他二名はかなりプライドが高いようである。何か揉めているであろう、野郎二人の声が特に聞こえてきた。聞き耳をたてていると事前に詳細な話はをしていないみたいだった。

おそらくは先に事情を説明すれば拒否されると踏んでの事だろう。

首都から遠く離れた辺境の地に来させられ、挙げ句の果てに、街に来てからは別のパーティーとの優遇の差に不満が溜まっていたのだろう。

これも後で知ったことだが、領主の取り巻きパーティーはかなりの好待遇らしい。

性的な・・・アレを考えるとどんな好条件でも俺は引くがな。

一方こちらはそれほど高い手当もなく、食事や宿は街で取るとのことだった。

この街は、いやこの近辺は特に貧しいためそれほど良い食事や宿泊施設もなかった。

貧しいのは領主の政治的手腕が低いのは街の様子と領主の館を見ればわかる。

領民から高い税金を巻き上げ自身は贅沢三昧。

まさに悪政ってやつだな。

話が少しそれたが、そのような領主から条件も際立って良いわけではなく、さらに訳のわからないことをさせられる。

ここにきて一気に吹き出たと言ったところか。

宰相に悪態をついた無礼な二人と、後に続く比較的常識人っぽい二人が静観していた俺の方にやってきた。

宰相は一例だけするとその場から去って行った。

後は任せたって事ね。

「確か創麻だったっけか?」

明らかに態度の悪い舌打ちが俺に話かけてきた。

「ああ、そうだ。」

開口一番が呼び捨てとはな。

こいつらより年上でこの世界では先輩なので気分は良くはない。

俺はそこは顔に出さず平穏に返す。

「ふーん、で。」

舌打ちは俺を軽く一瞥した後、視線を武装神に移した。

ファイター、アーチャー、ヒーラーと順に確認しているようだ。

最後に新型のセイバーに目を向けた。

「へえ、これ、なかなか良さそうじゃん。」

偉そうに。

「決めたぜ。俺はこれにする。」

何を勝手に決めているのか。

言葉一つだけで不快にさせる男だ。

その様子を今まで黙っていた無口が横から割り込んできた。

「おい!何、勝手に決めてんだよ?」

おやおや、こいつ喋れたのか。

無口改めて無視野郎に変更だな。

「俺もそいつが良いに決まっているだろ。」

だから、こいつも何が決まっているのだか。

舌打ち野郎の胸ぐらを掴む無視野郎。

そもそも俺はこいつらにセイバーを乗せる気は無い。

「ちょ、ちょっと、二人とも止めなさいよ。」

流石に良くないと感じたのか割って入る姫乃。

後から聞かされたがこのようなやり取りは日常茶飯事の事らしい。

これは気苦労が絶えないな。

一方の英樹はと言うと三人のやり取りには目もくれず、四機の武装神をそれぞれ観察していた。

よく見ると今までの死んだような魚のような目とは違い輝きがある。

まだ推測の段階だかコイツは機械に興味があるとみた。

「もう!いい加減にしなさい!」

姫乃の大声が倉庫内に響きわたる。

「チッ!」

「ふん!」

二人はそれぞれの手を離すとそっぽを向いた。

どうやら姫乃には頭が上がらないらしい。

「もう、いいか?」

これ以上無駄な時間はかけたくないので、俺は横から口をだした。

こいつらと仲良くするつもりは無いがこれ以上のやり取りは不毛だ。

時間もあまりない。

「そこで武装神を見ている・・・確か英樹だったか?君もこっちへ来てくれ。」

俺が呼ぶと英樹は慌ててこちらに来た。

相変わらず行動もおどおどしている。

それにしても英樹のこの態度は何なのだろうか?

元居た世界のほうが恋しくて落ち込んでいるのだろうか?

ホームシック的な。

この世界に来れば魔法?とかいうものが使えるので、最初は多少テンションが上がりそうだが。

俺が何人かの人間と送られて来たときはその大半がそうだった。

今の生活に満足していな者を選別しているようだと聞いたが、一概に違うのかも知れない。

とりあえずはこれからの説明のため、全員の意識をこちらに向けさせた。

「君らはこれが何か知っているか?」

俺は武装神を指しながら問う。

「いいえ。」

姫乃が返答一番、他の三人は無言で首を振った。

そうか、こいつらはまだここに来て日が浅かったな。

「では、今、この世界で起こっている事情についてはどこまで知っている?」

続けて確認する。

「人間と魔王軍が戦っていて世界の危機だから、異世界と言うか私達の世界から勇者を召喚して魔王を倒して欲しいとか?」

首を傾げる姫乃。

「それだけか?」

彼女は首を縦に振った。が、その後続けて、

「えっと、あと召喚された勇者はそれぞれの苦戦している戦線に赴き手助けをして欲しい、だったかな…」

「んな訳ねーだろ。」

その場にいた全員の視線が声の方を向く。

黙って聞いていた舌打ちが横から口を挟んだ。

「使えねーやつは危ねー戦争のど真ん中に行くか、ど田舎に引っ込んでろって事なんだよ。」

舌打ちは怒気をはらませながら吐き捨てるように言った。

「そ、そんな事は…ないんじゃないかな。」

「じゃあ王都の城でぬくぬく暮らしているやつらは何なんだよ。」

姫乃に対し舌打ちは大声で返した。無視野郎も沈黙と首を縦に振ることで肯定している。

こいつの意見はほぼ間違っていない。

おそらく姫乃も気づいているが心では認めたくない所もあるんだろうな。

事実、

能力が高い者=王族、貴族の護衛。

能力が中等度=比較的安全な周辺諸国や中流族の護衛。

能力が低い者=戦闘最前線の指揮や救助。

最低能力=辺境の地での護衛や平民の管理。

最低能力で平民を管理できるのか疑問もあるだろうが、そこは勇者という事。

勇者はこの世界の人間より能力が高い。(個人差はある。)

また勇者は魔法が使える。

後で述べるが魔法は平民にとってそれなりに脅威があった。


まあ、今はそんな事はどうでも良いので俺は重要な事を聞く。

「魔王軍についてはどこまで理解している。」

俺は舌打ち野郎を見た。

今の流れからおそらくこいつが一番現状を理解していそうだ。

感情もむき出しにしていて単純そうなので答えてくれるだろう。

「俺も詳しくは知らねー。戦力は同じぐらいでやや優勢とか聞いたぜ。最近は巨人がいて大変だからとか?たぶんこれのことだろ?」

巨人についての推測は正解だ。

「それで?巨人については?」

俺はさらに踏み込んで聞いてみる。武装神の情報がどこまで流れているか気にはなる。

「実際に見たことはないが、かなり大きいが倒せるらしい。少し時間はかかるが武器や魔法でも対処可能とかだな。」

魔法で倒せるね。効果がかなり薄いが確かに倒せない事は無い。

魔法だけでは何日かかるかわからないが。

それだけでは効果が薄いのだ。

それを知らせる事は王国の威厳の低下。

軍の崩壊に繋がるから伏せているのだろうな。

「なるほど実物を見た事は無いのか。」

俺は武装神に一瞬視線を移し、それから舌打ちに聞き返すと

「ああ、何か魔王軍の特に巨人の話はタブーらしいぜ。何故かは知らなかったけど、こいつを見たらなんとなく分かってきたぜ。」

舌打ち野郎の口調からは不満と共に何かを確信したようだ。

情報の統制は箝口令の効果は出ているらしい。

多少は王国の態度に疑問を思っていたということか。

巨人は実物の武装神を見て、その巨体差を感じ取ったといったところか。

「創麻さんは何か知っているのですか?」

今までのやり取りを見ていた姫乃が俺に聞いてくる。

俺の口から真実を語っても良いが、ある程度考慮して返答するべきだな。

どこの世界でも情報は重要だ。簡単に全てをさらけ出すものではない。

「察しの通り巨人とは武装神のことだ。」

俺はさらに続け、

「見てわかるだろうが武装神相手に、普通の人間では太刀打ちができない。」

俺の言葉に勇者達は不安を顔に表した。

武装神は約二十メートル、ビル相当で約十階ぐらいだ。

生物の本能で巨大なものに立ち向かうものはほとんどいないだろう。

「王国でに何を聞かされたかは知らんが、一人二人で立ち向かっても武装神は破壊できない。」

今度は明らかに表情に影を落とすのが見てわかった。

言い方は分からんが、おそらくこの街の宰相も近しい事を言ったのだろう。

そこで今回の武装神の話。

俺からはその事について余計な事は言わない。

ただ言うべきことは伝えておく。

「武装神は現在ほぼ魔王軍が使用していて王国には無い。」

俺はそのまま続け、

「一年ぐらい前だったか、魔王軍が武装神を主軸として侵攻を開始した時は、王国軍は何もできずあっという間に大半が壊滅さ。」

俺は手で爆発するようなしぐさを見せる。

「だから魔王軍の武装神に対応するためにこれを造ったのさ。」

俺は武装神を指差した。それを見る一同。

王国の技術者は無能が多く作れなかった。

技術者も少ないし知識も無かったから仕方がないのだが。

このままでは埒が明かないので俺が技術提供をしてやったのだ。

匿名でな。

匿名で技術提供を受けた事にして、制作したものを王国に情報提供したところ辺境で魔王軍の影響が少ないだろうこの街でテストを行うことになった。

この情報は王国でも一部の人間しか知らない。

そのあたりの情報管理は全く問題がない。

「今回はこの試作機の稼働試験を行うにあたり君らにテストパイロットをやってもらうといったところだ・・・ってこれは説明受けたかな?」

無言で頷く四人。

「これがあれば魔王軍と戦えるのでしょうか。」

先ほどの話と現物を見て不安が抜けていないのか姫乃は声に不安が残っている。

この辺りは現実を見る女性の視点といったところか。

「実戦投入はまだだからな、なんとも言えんな。」

武装神の基本性能はほとんど変わらない。

セイバーは今回新型だから群を抜いているが、ほかの三機は魔王軍の量産型と同等にしておいた。

ミリタリーバランスを崩すと技術進展しない。金も儲からないらしいしな。

俺の回答で暗い空気が辺りを包む。

「生身で戦うよりかは遥かにマシだと保証はするよ。」

このような言い回しの方が、楽観的意見よりまだ良いだろう。

まだ納得してもらえてなさそうなので

「魔王軍の武装神と大きさはさほど変わらない。立てばビルの七階ぐらいにはなる。約十五メートル。見たことあるかわからないが戦車程度相手なら問題無い。」

「気休めになるか分からないが君らが乗る武装神は装甲も厚くしてあるので、敵の攻撃には耐えられるはずだ。」

姫乃が気丈にもやや安堵したような表情を見せた。

ま、実際姫乃に乗せる予定であるヒーラーの装甲はセイバーを除くほかの二機よりかは装甲が厚い。

左手にはバックラーも装備してあるし。

相変わらず男三人は複雑な表情をしていたが。

正確には英樹は何かを考えているようで、残りの二人はやる気があるようだった。

比較対象が見せられないから仕方ないか。だが嘘はついていない。

「では、今から操作方法について説明する。」

英樹と姫乃以外の二人は明らかに嫌そうな顔をした。

「説明とかめんどくせーよ。ぱっと分かるマニュアルとかないのかよ?」

「同じく。」

マニュアルがないわけでもない。

座学をしてもいいが俺も面倒な事はしたくない。

なので、操作手順は必要最低限に留めるつもりだ。

「説明については簡単にする、実際に触った方が早いからな。どちらにしてもコクピットにあるシュミレーションをして、ある程度慣れてもらう。それから…」

俺はセイバーを指して、

「先に言っておくが、こいつはまだ調整中だ。だから乗せる事は出来ん。」

俺の話を聞いた、舌打ちと無視野郎は少し残念な様子を見せたが、

「じゃあ、急いで調整を頼むぜ、おっさん。」

舌打ち野郎が意気揚々と俺に言った。

何様だコイツは。

お前におっさん呼ばわりされる理由はない。まだ二十代だ………三十路ではあるが。相変わらずのイキった態度に俺はやや頭にきたが、コイツは後で消す予定なので大目に見てやった。

「じゃあ俺はコイツな。」

舌打ち野郎はファイターを指した。

「ちょっと待てよ。何、勝手に決めてやがる。」

無視が舌打ちに歩み寄る。やれやれ、また始めるのか。

「もう、また。止めなさいよ。」

割って入る姫乃。先ほどのようなやり取りを繰り返ししてきたのだろう。

「いや、それでいい。」

俺の声に三人はこちらを見た。

「事前に聞いていたが、君は近接戦闘が得意らしいな。」

「ああ。」

舌打ちは俺の問いにぶっきらぼうに答えた。

「…君が選んだファイターはアーチャーに比べ近接戦闘に長けている。その選択をは間違いではない。」

「ほらな。」

鼻で笑う、舌打ち。一方面白くない顔をする無視。

ほんとガキだなこいつら。

「君は射撃の腕が良いときいた。」

「…」

俺の問いに無言で頷く無視野郎。機嫌が悪くなると口数が減るらしい。

拗ねているのか喋る気が無いらしい。俺はそのまま続ける。

「アーチャーは射撃がメインなので、君のように冷静な判断が出来る者が良いと考えている。」

「まぁ、な。」

やや照れたような表情を見せる無視。

冷静とは全く言えないが、こう言った輩は適当に持ち上げておくと機嫌が良くなる。

「じゃあ決まりだな。姫乃は残ったあれでいいよな?」

舌打ちは姫乃にヒーラーを指した。

「ちょっと、また勝手に。」

二人が好き勝手な行動をし、姫乃が後始末、これがこのパーティーの実態らしい。

俺はふと英樹を見て、

「じゃあ君は後で訓練をする形でいいか?」

と尋ねた。

「その役立たずは何も無しだよ。」

英樹本人ではなく、舌打ちが変わりに答えた。

「役立たず?」

俺は英樹を見ながら舌打ちに問いかける。

「いや、無能だろ。」

嫌な笑いと共に答える無視。

誰もお前に聞いていない。

「そんな事言わないの。」

姫乃がやや怒り気味に返した。

お前達で勝手に盛り上がるな。

「そんなやつ、ほっといてさっさと始めようぜ。」

舌打ちはファイターのコクピットに入る。

仕方ない。

後で諸々の事情は聞くとして、まずはこいつらに操作方法を簡単に教授してやるか。勝手にいじられてまだ壊される訳にはいかないのでな。

舌打ち、無視の二人がシュミレータに入った。

「うわ?これ古くね?タッチパネルとかじゃないのかよ?」

舌打ちの操縦席に入った第一声がこれだった。

無視も同じことを口に出していた。

「タッチパネル?」

俺はこの時はそのようなものがあるとは知らなかった。

正確に言えば少しだけ聞いたことがあった。

タッチパネルとは指で触っただけで反応するスイッチらしい。

俺がいた時代にはその技術は一般的に普及していなかった。

これも後で知った事だが舌打ち、無視はどうやら俺がいた時代の約二十五年後の未来から召喚されたらしい。

(召喚される時代も様々らしいので未来人が来ることがあるのも当然と言えば当然か。)

その未来では一般的に普及していたらしい。

未来の技術、非常に興味深い。

本来なら色々と教えてもらいたいところだ。

だが、この二人これまでの行動言動を観察しているとあまり知性は高くないな。

おそらくは誰かが開発したものをそのまま使用し、自身で原理や真理を考えることはしないのであろう。

英樹と姫乃が来た時代は俺とほぼ変わらなかった。


話が横にそれてしまったな。

技術的な興味が出てくるとつい入れ込んでしまう俺の悪いクセ。


俺は表情の暗い英樹と対応に迷っている姫乃に目をやった。

これは空気悪くなるわな。

こんなやりとりを毎回やっているのか。

この二人は本当に難儀な奴らだな。

そのような事を考えていると姫乃が俺に近づいてきた。

「私もシュミレーターやった方が良いでしょうか?」

英樹とヒーラーを交互に見て言ってきた。

「領主の依頼があるのなら、仕事ならやるべきだろうね。」

俺は特に強制はしない。

ただ責務は果たした方が良いと付け加えておいた。

俺はそう言ってセイバーの方に行こうとした。

横目で見ると姫乃の表情が暗い影を落とす。

英樹の事も考えているのだろう。

弱者を見捨てられない、他人を思いやること。

向こうの世界では良い看護婦だったのだろう。

友人にもいたが気を使う仕事だからな。

コイツもこっちの世界に来てまで苦労してるんだろうな。

仕方ない助け舟を出してやるか。

「ふう。」

俺は軽くタメ息をつくと、

「二人共、暇なら手伝ってくれ。」

俺が言うと、姫乃の表情が明るくなった。

「ほら。英樹、行こ。」

姫乃は英樹を背中から押した。

心なしか英樹の表情が明るくなったように見えた。

全く姉弟みたいだな。

「じゃあ、こっちへ来てくれ。」

三人でセイバーの方に向かう。

「これって、さっき調整中だって言ってた…」

「ああ、精密なコントロールや動力系、あとPCとかの微調整が必要だ。」

俺は姫乃の問いに返した。

とりあえずは調整の手伝いを依頼した。

「私に出来るかな。」

姫乃が不安そうに言ったので、

「機械や工学、電気系統の知識は?」

首を横に振る姫乃。

「なら今からでも学ぶことだな。」

「学んだ方がよいのでしょうか?」

「ああ、人で不足でな。出来るなら自分の乗る武装神ぐらいは自身で整備をしてもらえると助かる。」

これは冗談ではなく本当である。

魔王軍では整備には自動メカを使用するのである程度は何とかなる。

一方の王国側は機械に詳しい人間が少ない。

ましてや整備関係になると猶更だ。

「それにもう一つ重大な理由がある。こちらの方が大事だな。」

俺はセイバーの前まで来た。

「もう一つの重要な事って?」

聞いてくる姫乃に俺はセイバーを視線を向けつつ、

「例えばこの機体だが戦闘中、急に動かなくなったらどうする。しかも周りに味方もが誰もいなかった場合にだ。」

「自分で何とかするしかない。」

姫乃の答えを聞く前に小さい声で英樹が答えた。

その通りだ。

俺は特に言葉は出さず英樹に対して首を縦に振った。

「姫乃、理解したか。最低限の応急処置ぐらいはできないといざという時に生還できないぜ。」

俺は更に続け、

「この世界はサバイバルだ。まだ死にたくないのなら色々と学んでおくことだ。」

「そういった意味合いなら君の看護知識はそれなりに重宝するだろうな。」

時間も惜しいので技術を学ぶ大切な話はそれぐらいにして本題に入ることにする。


「まず機械や装備などの知識だが・・・学校のように一から座学をしてる暇はないんでな。俺のやることを見ながら覚えていってくれ。」

俺はセイバーの調整をしつつ、二人に色々と教えていた。

見て覚えろ、とか古いことは言わない。

戦時中なので早めに使い物にする必要がある。

姫乃は完全な素人なので一から教える必要があった。

一方の英樹とは言うと図面を見たり、電気調整の画面や機体の内部の調整を行っていた。

「中々手際がいいな。分かるのか?」

俺が問いかけると、

「・・・あ、はい。」

俯いたまま、消えるかのような声が聞こえた。

こいつは覇気が無さすぎたろ。

「ほら、英樹、ちゃんと言わないと。」

姫乃が英樹を促す。

姫乃の言葉に無言で頷き返す。これではまるで、姫乃が保護者のようだ。姉と言うより母親か。

「英樹の場合は一緒にやる必要はなさそうだ。」

俺はそのまま英樹の様子を見る。

作業手順も良いし、軽く説明しただけで即理解して対応していた。

「経験、あるのか?」

俺の問いに英樹は無言で頷いた。

「確か大学生だったな?専攻は機械工学か?」

「はい、あと電気系も・・・」

大学だけで学んでいるだけではないようだ。

「学校で学んだだけか?」

英樹は無言で首を振る。そしてそのまま小さい声で、

「俺、小さいころから機械いじりが好きだったんです。家も貧しかったので中学、高校ともに工場でバイトとかしていました。」

なるほどな、経験はそれなりにあるという事か。

「そうか、にしても良い仕事をしている。丁寧な上に早い。俺より若いのに実に見事だ。」

俺は素直に感心した。

事実、整備に関する英樹の技術は相当のものだった。

「向こうでは主に何のバイトだったんだ?」

純粋に彼の技術に興味があった。

「自動車やバイクなどのエンジン部分の組み立てから設計にも少し関わった事があります。あとコンピューターの電子制御や基盤も少し。他には車体やその他パーツなどの金型設計から成型まで。」

今までとは異なり急に饒舌になる英樹。

機械いじりがかなり好きなのだろうな。

技術の方も話を少し聞いただけだが、それなりの経験値があると推測される。

「良ければもう少し色々聞かせてくれないか?あと機体について意見があれば言ってくれ。」

武装神は基本的に俺が制作したものだが、今後のさらなる改良や新型の開発を考えると第三者の意見も取り入れていきたい。

「かまわないか?」

「はい、俺でよければ!」

英樹はこれまでに出したことのない元気な声で返答した。


俺が英樹と意見を交わしつつセイバーの整備を開始して一時間ぐらい経過しただろうか、英樹と俺が別の作業で離れたのを見計らって唐突に姫乃が話しかけてきた。

「あの…」

「ん、なんだ?」

俺は作業の手を休めることなく姫乃にかえした。

「私達のパーティーですけど、変、ですよね?」

「ああ、かなりな。」

当事者から告白なので俺は素直に返した。

「ですよね。あの二人はいつもいがみ合っているし、気に入らないことがあると英樹を苛めて。」

聞いてもいない事を喋り出す姫乃。

色々と思うとこがあるのだろう。

相当溜まっているといった方が良いかな。

仕方ない付き合ってやるか。

「彼は、そんなに役立たずなのか?」

俺は英樹を見た。

知り合ってほんの数時間しかやり取りがないが、少なくとも俺は彼が役立たずとは思えない。

「あいつらは何を持って彼の事を役立たずと言っているのか分からないが・・・」

「ううん。私も彼が、英樹が役立たずとは思っていないわ。」

姫乃は首を横に振る。彼女は暗い表情を見せそのまま続ける。

「ただ、ね、彼・・・英樹は召喚された勇者の中では能力がかなり低いの。」

「もちろんこの世界の人よりは全然あるわよ。当然身体能力も。けど…」

姫乃の表情が更に曇る。

「一緒に召喚された中では一番低かったわ。」

そういえばこいつら全員一緒に召喚されてとか言っていたな。

姫乃の話をまとめるとこうだ。

英樹も召喚された当初は今ほど暗くなかったらしい。

寧ろこの世界に来た時は、魔法が使える事にかなり喜んでいたらしい。

だがどんな世界でも力には優越があり、その差が見えてくると自身の存在意義が分かってくる。(これは俺も経験したことだ。)

今回それが明確に分かるのは、王国による魔力量による選定。

能力の高い者とそうでない者に分けられる。

そこで先ず自分の立ち価値が分かってくる。

優等生と劣等生の烙印が押されるのだ。

それだけでも優等生は自信に満ち溢れ、劣等生は言わずもがな・・・である。

王国や貴族の対応が変わってくる。

同じ勇者といえど待遇面の差が出くる。

生活レベルにも。(それでも一般人よりは遥かに良い生活水準だ。)

同じ世界から来た者同士だとやはり貧富の差は特に気になるだろうな。

ましてや同じ時期なら尚更だろう。

やがて生まれた差は更に深い闇を生み出す。

高い者は力の下の者を見下し、低い者は自分よりも力の低い者を見つけては憂さ晴らしをする。

これはどこの世界も同じだな。

舌打ちと無視、姫乃と英樹は力が低い分類だったようだ。

その中で英樹が最も力が低かった為にストレス発散の矛先になったという事だった。

付け加えるなら舌打ちと無視は未来から来た人間だ。

俺もそうだが英樹や姫乃のような過去の人間を見下す風潮があるのだろう。

彼らから見れば俺たちは遅れた文化人だからな。

こう全てを考えてみると在り来たりの詰まらん話だな。

「彼は、英樹は何故パーティーから抜けない?それに君もだ。」

普通に考えたら嫌気が差してしまうだろう。素朴な、当たり前の質問を姫乃に投げ掛けた。

「うん、私も抜けた方が良いかなって何度も思ったわ。でもね私も英樹もまだここに来て二ヶ月でこの世界の事をよく分かっていなかったし、どうやって生活していいのかも・・・。」

姫乃の話で俺は凡そだが察しがついた。

まだ日も浅い為、生活環境に慣れていない。

また基本的に勇者は王国の管理下にあるので、それを離れると言う事は生活支援も断たれると言う事だった。

俺のように自分の力で、生活の糧を得ていなければ無理だろう。

生活環境が大きく変わったら生きていく為の知恵が付いていなければ厳しいだろう。

特に平和な日本に慣れ住んでいたら当然だろうと俺は感じていた。

「確かパーティーを強制的に組まなければならないのだったか?」

俺がここに来た時と同じなら召喚された勇者は基本的に四人でパーティーを組む事を義務付けられていた。(一部例外もあった)

俺の場合は事情が異なっていたのと、自分の能力を理解したのが早かった事、あと面倒だったので、とっとと王国の支援から抜けたが。

「ええ、それで力の強さが近い私達がパーティーを組んだの。」

「ま、それでもチーム内で個人の力量に差が出てくるわな。で、この状況になったと。」

彼女が最後まで言い切る前に俺は回答をした。

力の差、ね。自分が努力もしないで得た力の何を差などと言うのか理解できんが。

そういえば、

「君だけでもパーティーを抜けらるんじゃなかったのか。看護婦・・・看護師なら魔法なんて使えなくても重宝されると思うが。」

先ほどここに来てまだ日も浅く、生活に不安があるとは言っていた。

だが彼女の持つ医学的知識や経験は何処に行っても通用するはずだ。

俺には他に理由があるとしか考えられなかった。

おそらくは・・・

「英樹の事か?」

俺と姫乃は英樹の方を見た。

「ええ、彼を一人にしておけなくって・・・。」

「ふーん。」

俺が特に興味ない曖昧な返事で返すと、

「あ、別に特別な意味はないのよ。ほら、さっきも言ったけど何かほっとけなくって。」

俺は何も聞いていないし、興味も全くない。

そんな感じで無言を貫いていると、

「ああ、もう。弟みたいな感じなの。向こうの世界に弟がいるから、何だか思い出しちゃって・・・。」

またしても聞いてもいないことを勝手に喋りだす姫乃。

「大学生と小学生の弟がいて、大学生の方が英樹と年が近いから・・・。」

「ああ、そうなんだ。」

俺が素っ気無い態度で返すと姫乃は、

「だから違うんだって。」

「はいはい。」

全くどうでもいい会話を俺はそこで終わらせた。


さて力が低いと言われていた男の方だが。

こちらは特に俺たちの会話など気にもせず図面を見ていた。

…ふむ、もう少し話をしてみるか。

「姫乃…。」

英樹を見つつ、

「俺が教えた電子回路のチェックは分かるか?」

「ええ、まあ。」

ほぼ調整は終わっているし、非常に簡単な確認作業だから一人でも出来るはずだ。

「じゃあ、しばらくそれをやっていてくれ。」

「う、うん。」

俺は姫乃にその場を任せ英樹に近づいた。

「何か気になる事でもあったか?」

一心不乱に武装神の図面を見ていたので気になって声をかけてみた。

「え、あ、いやこの部分なんですが。」

英樹はいきなり声をかけられて驚いたのか、かなり挙動不審な動きをした。

それとも自信の無さの表れか。

「驚かしてすまなかったな。ただ君がこれにかなり興味があるようだったので、な。」

俺がセイバーを指すと英樹は無言で頷いた。

「で。何か気になる事があったか?」

俺の問いに英樹はまたも無言で頷く。

ま、姫乃の話を聞いた後ならこの態度もなんとなく理解はできた。

「気にしなくていいから、聞かせてくれないか?君の考えに興味がある。」

すると英樹は図面を指しながら話を始めた。

「ここのシステムですがOSを書き換えて調整すればもっと動きが良くなるかと思います。」

不安そうにこちらを見る英樹。

プログラムや計算式を記載したメモを渡してきた。

大まかに確認したが彼の提案に間違いはない。

「ふむ、なるほど・・・他には?。」

英樹はさらに、

「それに合わせて駆動系の調整も必要かと。このような調節を行うとおそらく出力が三十パーセントほど上がります。さらに全体的な動きもスムーズになるかも。」

英樹が図面に書き込んだ必要な部品や交換方法、ギア調整について詳細な情報。

こちらの方も知識はかなりあるようだ。中には俺が気付かなかったところもある。

「電子制御系はどうだ?」

俺は追加で何気に聞いてみた。

「そこも配線の変更や調整すれば良いかと、ただ…」

英樹が言葉に詰まる。

「ただ?」

俺の問いに英樹が迷っているようだ。英樹が言葉を続けないので、

「構わないから続けてくれないか?」

俺がそう言うと英樹は意を決して話し始めた。

「はい。このようにされたのは何か理由があるように見えます。強いて言うなら、わざと出力を落とすように制限しているとしか。」

そこに気付くとはなかなかの物だ。ただ機械に強いだけではない。

作り手の理由も考えるとは、この若さでそうそう出来る事ではないだろう。

俺はこいつに更なる興味が湧いてきた。

折角なのでどのような考察、いや推測をしているか確かめいてみたい。

「制限されていると考えた訳だが、君はその理由をどう考える?」

「あくまで推論になりますが、機体全体の負荷を軽減する為か、または操縦者にかかる負担を低くするためでしょうか?」

英樹は俺の問いに、今までのおどおどしていた態度が嘘のように答えた。

中々良い答えだ。七十点と言ったところだ。

一体彼のどこが無能なのだろうか。

「ふむ。なるほど、大体正解だ。だが、それだけならば、一時的のみの出力向上や負荷軽減の措置を付けて対応する方法もある。他にはバランサーの調整とかで何とかなりそうだが?」

「!すいません。」

誤りを指摘されたと思ってふと我に返ったのか、今まで熱く喋っていたのに、またおどおどした態度に戻ってしまった。否定したつもりはなかったのだがな。

「いや別に謝る必要はない。、それを見抜いただけでもなかなかだと思うぞ。まあ俺がこのような仕様にしたのは、実は誰でも扱えるようになんだ。」

「誰にでもですか?」

英樹は疑問に思ったようだ。

「そうだ。俺は平等が好きでね。」

「平等ですか?」

「機械ってさ、誰でも使えた方が良いだろ?老若男女問わずにさ。」

俺が笑みを見せる。

「なるほど。確かに。」

英樹は納得したようだった。

誰でも(平等に)殺し合いが出来る方がいいからな。

その方が更に技術が革新するからな。

その会話から英樹も俺に少し心を許したのか何かと共に行動を始めた。


一緒に作業を始めて会話を交わしていると英樹の事が分かった。

機械や電子に詳しいのは大学やバイトで培っただけのものではないようだった。

ただ一途に機械の事や物作り好きなのだろう。

俺も基本的には技術屋なのでその気持ちは大いに理解できた。

話が合うのもそこに通じているのがあるのだろう。

これまでとは違いたった数時間だが打ち解けてきたようにも感じた。


それにしても先程の図面の理解、今は機械の調整作業にも無駄がない。

なかなか、いやかなり優秀なメカニックマンだ。

俺達が作業を始めて三時間ぐらい経っただろうか、シュミレータから舌打ちと無視の二人が出てきた。

「どうだハイスコアだったぜ。」

自慢気に言い放つ舌打ち。

そりゃそうだろう。シュミレーターの難易度は一番低くしてある。

「イージーだよな。」

無視も同じく高得点を叩き出したのか、その表情は得意気だ。

だから、幼稚園児でもクリアできるように設定してあるんだよ・・・とは言わない。

「何か頑張ったら、腹が減ってきたな。」

「俺もだ。」

変に意気投合する二人。

ゲームして遊んでいただけだが。

俺は特に何も言わず作業を続ける。

「なあ、この訓練やらなくてもよくね?俺らにしちゃかなりイージーなんだけど。もう実際に動かしたいし。」

舌打ちが俺に言ってきた。無視も無言で肯定する。

「まだ早い。」

俺の答えに文句を言いそうだったので、

「もう少し調整が必要になった。」

続けたが

「調整っていつまでやるんだよー。ホントに動くのかーコレ。」

舌打ちがファイターを小突きつつ、くそ生意気な事を言ってきた。

「不備が見つかってな。途中で爆発しても良いのなら。」

と、俺が脅すと、

「ば、爆発?」

二人は急に青ざめた。

「おい。そんなアブねー物、俺達に乗せようってのか?」

二人はやや憤っていた。

「ん?車に乗った事は無いのか?」

俺が聞くと、

「あるに決まってんだろ。」

舌打ちがぶっきらぼうに答える。

「電車は?飛行機は?」

無視にも聞いてみた。

「あるよ。」

不機嫌気味に答える無視。まったく仕方のない奴等だ。

「いいか、車や飛行機でもちゃーんと整備しないと爆発する事もある。知らないのか?」

俺が聞くと二人は驚いたように見た。まさか知らないのか?

無知なお子ちゃまには説明してやる必要があるようである。

「基本的な乗り物は燃料を爆発させて動かしているんだ。分かるか?その調整が上手くいってなかったら、例えば燃料が漏れていたりしたらどうなる?」

俺は二人を睨む。

「整備不良で事故になった例も沢山あるんだ。もちろんその事故で死人も出ることもある。」

俺は少しだけ声を荒げて、

「そうならないための整備なんだ。整備している人間がいるからこそ安全に動くものがある。忘れるな!」

最後は更に語気を荒げた。二人はさっきまでの威勢をすっかり消沈させてしまったようだ。

「分かったか?なら飯でも食って続きをやっててくれ。」

俺は作業に戻った。

二人はそのまま飯にでも行くと思っていたが作業の手伝いをしている英樹を見つけて大声で囃し立てた。

怒られた腹いせにでもしたいのだろう。

「なんだあ、役立たずが手伝いしているのか?」

舌打ちが楽しそうに笑う。

「無能が変に触ると壊れるんじゃないか?」

無視も続け様に言った。

それを聞いて英樹は俯いてしまった。この二人に対してはトラウマになっているのだろう。

ふう、まったくつくづく面倒な奴等だ。

「おい!英樹は整備の手伝いをしてもらっている。技術屋の替えは中々効かないが、お前らの変わりは幾らでもいる。」

こういう奴らにやさしく諭しても無駄だろう。

二人は何か言いたげだったが口を開く前に俺は更に続けた。

「勘違いするな。お前らは別に選ばれた訳じゃない。ただ単にここに偶々いただけだ。俺はあくまでこいつのテストを行い起動できれば問題がない。」

俺は吐き捨てるように二人に言い放つ。

「じゃ、じゃあ俺たちもうそいつには乗らないぜ。そうなったら困るのはあんただろう?」

無視は声を震わせながら反論した。

「好きにすればいい。だがお前らは王国の要請でここに来ているはずだ。協力をしないのであれば王国に報告してもいい。職務放棄、非協力的な態度は国家反逆の恐れありと付け加えてな。」

国家反逆は言い過ぎかもしれんが。

「な、ふざけんな!俺たちいつ反逆行為をしたんだよ!」

顔を真っ赤にして反論する無視。

「王国の命令違反だけでなく、機体整備の邪魔をした。」

俺は二人が乗っていたファイターとアーチャーを指し、

「あと武装神は機密の塊だからな。機密情報を露営する可能性もある。」

俺は二人を睨みつける。

俺の威圧に圧倒されたのか二人は顔色が悪くなり、

「お、俺たちはそんな、秘密を漏らしたりしねーよ。」

「そ、そうだよ。そんな事するわけないだろ。」

明らかに動揺する二人。

「そんな事信用できると思うか?お前たちとは知り合っても間もないし、何しろ口が付いている。」

俺はあえて無視に向かって言う。

最早ぐうの音も出ない二人。

「もう良いから、さっさと飯に行け。それともまだ作業の邪魔をするつもりか?」

俺が手で払いのける仕草に合わせ再び睨み付けると、二人は肩を竦めて去って行った。

「創麻さん、ありがとうございます。」

姫乃が俺に言ってきた。俺達の様子を見て話に割り込もうとしていたが出るタイミングが合わなかったらしい。

俺は別に英樹に助け船を出した訳ではない。

ただあの二人は本当に邪魔だった。

それに俺はあの手の輩が嫌いだった。

自分に大した実力も無い癖に承認欲求だけは強い。

しかも努力は嫌いで簡単に手に入る力を欲する。

武装神から降りてきたあいつらの表情を見ればそれとなく感じ取れた。

未来人は皆ああなのかと疑ってしまう。


「別に礼を言われる必要はない。」

俺は続けて英樹に向って言葉を続けた。

「それに俺は英樹が役立たずでも無いし無能とも思わない。」

俺の言葉に英樹はこちらを見た。

「無能の定義は様々だと思うが、君は少なくとも俺の手助けにはなっている。それに…」

英樹から図面を受け取り、

「この図面を理解にはそれなりの知識が必要だ。かなり勉強したんだろ?」

俺が聞くと英樹は無言で頷いた。

「しっかり努力をしているし、それが結果として役にたっている。少なくとも役立たず、では無いな。」

俺がそこまで言うと英樹の目元が光っているのが見える。

涙。

泣いているのか…。

彼がこれまでどのような仕打ちを受けたかは実際には分からない。

いろいろと溜まっていたのだろうな。

込み上げてきたものがあるかもしれない。

決してセンチメンタルになった訳では無いが、俺も元の世界では散々な嫌な目にあっていたからな。

気持ちが分からんでもない。

後々時間を作って聞いてやるか。

しかし今は泣いていつ時間は惜しい。

「顔、洗ってきな。」

俺は洗面所の方を指す。

「涙で機器がやられては困るのでな。」

姫乃に目で促した。涙の塩分ぐらいでは何ともないがな。

「英樹行こ。」

姫乃は英樹の手を取り洗面所に向かって行った。

さて、と。そろそろセイバーを起動べきだろう。

英樹が指摘したように出力調整は完了してある。

なので直ぐに動かすことは出来る。

微調整も含めればおそらく一時間で完全に動くはずだ。

ここに到着してまだ一日しか経っていない。

しかし今ここに長く滞在するのはあまり得策ではい。

首都に武装神を届けるまでかなり時間がかかるので、本来は少しゆっくりしても良かったが。

この街の宰相はかなりの切れ者と見た。

領主が無能でもその部下が優秀である可能性が高い。

この街が存在しているのはそういう事だろう。

色々と気付かれる可能性がある。

技術の出処とか。

俺は動かないと言っておいたセイバーを見た。

あとはパイロット次第と言ったところか。

顔を洗いに男の方を見る。

さて英樹、彼は俺が望むパイロットになってくれるかな?


ただ首都に届けるまでに実戦データが何回か欲しいな。

そうなるとこの街にいる必要も無い・・・か。

この街を離れるにしても宰相が気になるな。

色々と探りを入れてくる可能性がある。

少々勿体無いような気もするが後々の事を考えると宰相は消した方が良いだろう。

データの取得と宰相の処理。

上手く両方こなすにはどうするか・・・。

確かこの近くにゴブリンの一個小隊がいたな。

哨戒任務中・・・か。

俺は意識を別のところに集中させる。

実は俺の脳内にはマイクロチップが埋め込まれていて(自分で埋め込んだのだが)それによりある別の場所と通信やある物のリモートコントロールが出来た。

詳細な情報が流れ込んでくる。

ゴブリン四機。

初期型。

内一機はカスタマイズ有。

ほう、かなりの旧式なのに良い感じに仕上げたな。

もう一機も多少いじってある。

こちらは、なるほど射撃に特化した型に変えているか。

残りの二機はそのまま、と。

パイロットは命令無視や施設の過剰破壊で問題を起こしている奴らね。

中々に面白い部隊だ。

こいつらならセイバーの実戦テストには丁度良い。

魔王軍の正規部隊より好き勝手に動くはずだ。

正規軍は決められた手順で戦闘を行うので行動パターンを読みやすい。

さらに相手が小隊と言うのも良い。

戦闘は一対一、又は一対少数という基本的な戦闘データが録れるはずだ。

大群相手はまだまだ先がいいだろう。

そのまま意識を更に集中し、貼るか彼方にいるある者(物)から命令を下す。

「辺境の街にて王国軍の新兵器開発の情報あり。」

俺は更に続ける。

「魔王の命である。新兵器を見つけ次第破壊せよ。繰り返す、回収の必要は無し完全に破壊せよ。なお・・・。」

これも付け加えておくか、

「今回に限り住人の生命に対して生死は問わない。ただし食糧庫や物資庫は破壊は極力禁ずる。」

この辺境の地において物資は非常に貴重だからな。

出来るだけ残しておきたい。

魔王軍の占領下にして接収すればいい。。

住人はいらん。

悪政に立ち向かうこともしない愚図共は役立には立たないだろう。

こちらも余裕があれば後でキレイに片づけておくか。


数分後、命令の回答が俺の脳内に流れてきた。

襲撃の決行は明日、正午前。

北東の方角から進軍を行う。

との事だ。



そして、当日・・・・。

遂にこの世界での歴史を変革させる戦闘が始まった。

セイバー起動実験と共に。






















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