第3話 英樹と姫乃
英樹の操縦するセイバーがゴブリンを撃退した時より数日遡る。
俺は、とある辺境の街に王国軍向けの武装神の調整に来ていた。魔王軍の武装神が王国の支配する街や村が半数以上壊滅させられて、約一年になるだろうか。流石の王国も武装神の重要性に気付き、自国でも対抗出来る物を作る事を決めた。多大な被害と犠牲を払ってようやく重い腰をあげたと言うわけだ。
開戦当初、魔王軍の勢いは留まる事が無かった。一つの理由として今までの悪政により、打倒王国に賛同する人々が増えているのがあった。
また分け隔てなく人々に衣食住の保証もしていたので一般人のみならず一部の勇者も魔王軍に造反する者までいた。
当然この事には箝口令が敷かれ、口外する者は罰せられた。またこの箝口令は魔王軍が現れてから定められた物も多く、その内容もなかなか偏ったものだった。
一つ、王国の不満を広めた者は拘束。
一つ、王国軍と魔王軍の戦況を広めた者は拘束。
一つ、魔王軍に与した者の名前を口にした者は拘束。ただし密告はこれに該当しない。
魔王軍に下った者について街中で噂されれば場合によって多くの者が下るのを恐れての事だろう。
実際に勇者が下った時は何人もの平民が下ったと聞いている。
あと死罪とかにしないのは、余り厳し過ぎると国民の反感を恐れての事だろうか。
ああ、一つ死罪があったな。
一つ、魔王軍の巨人について話をした者は死罪。
巨人=武装神の脅威を知られる事は王国軍の士気にも影響が出ると考えているのだろう。こちらも実際に士気が落ちて壊滅した部隊があった。
なので自分達に不利な情報をひた隠しにし、自身が汚れる事はしない。まさにご貴族主義ってやつだ。ま、隠蔽する事で今の地位や権力を守ってきたのだろうがな。
ただ魔王軍でも一方で良くない噂もあった。略奪や皆殺しである。王国やそれに属する人間に恨みを持つ者も多く、それが形となって現れていたのだ。
それらの理由から最近は魔王軍の勢いがやや停滞しつつあった。
そこで王国軍は今なら対抗できると考え武装神の開発に踏み切ったのである。世界中から開発出来る者を募った。そのかいあってか多くの人間が集まった。しかし、いざ開発となっても何も出来なかった。それは王国には知識や技術を持つ者がいなかったからだ。
元々科学に関しては否定的なところもあったので、そのような人間が集まる事は無かった。
まさに自業自得だな。
元々その事を俺は知っていた。
だが武装神を世界に広める目的があった。
かなり時間がってからだが自ら開発に名乗りをあげた。
現状だか、王国向けの武装神は殆ど完成していた。
開発者は俺だから当然と言えば当然だが。
後は動作と使用武器の調整だ。これにはテストが必要だ。
出来るだけ広い土地が必要だ。
あと最初の起動まではなるべく人に知られない方が良い。
そこで俺は北の辺境の地を選んだ。
ここは魔王軍にとって重要な拠点ではなく占領をする価値がない。
更にかなり辺境の地なので戦線よりかなり離れている。
そして何よりこの街の領主だ。ここの領主は非常に卑屈で手柄を独り占めしたかった。この領主なら金さえ積めば武装神の機密を他に漏らさないと確信していた。
俺は街外れの広い倉庫に武装神を搬入した。おそらく材木などの資材を保管していたところだろう。今は使われていないらしい上にかなり広いときた。
そこに今、俺とこの街の領主、宰相の三人がいる。
持ち込んだ武装神を見せるためだ。この街の住人達は武装神の話は知っているものの実物を見た事のある人間はいなかった。領主達もしかりだ。
「そなたが、この巨人を作ったのか?」
大柄で身体に沢山の装飾品を身に付けた男がトレーラーに横たわる機体を見て口を開いた。如何にも、苦労したこともないであろう、でっぷりと太った中年が上から目線で話してきた。こいつがこの街の領主と言うわけだ。絶対に分かり合えんだろうと一目で理解した。
「ええ、そうです。これは私が作りました。」
反吐が出る気持ちを押さえつつ丁寧な口調で話した。
ビジネス的にはどんなに腹立つ相手でも後々の事を考えると我慢は必要である。
向こうではサラリーマンだったのでこれぐらいはな。
事前に宰相にある人物からの手紙を渡しておいたので運搬はスムーズに事が運んだ。ちなみに運搬には特別なトレーラーを使用している。
「ほう、ほう、中々に立派な物だのう。」
この口調が俺の気分をさらに害した。フクロウかコイツは。最悪の気持ちだがここは心を殺す。
「王国の為に開発しました。こちらの機体名はシルバーアーマー・セイバーです。」
領主は先ず目に付いたセイバーを嘗めるような感じで見ていた。
「ふむ、シルバーアーマー・セイバー…か。長い名前だの。」
名前…ね。重要なのはそこではないのだがな。本質はこの機体の性能と、どれほどの戦力になるかだ。
「最初の部分は言わば種類名ですので省略でも問題ありません。」
まぁ短い名称の方が憶えやすいだろう。それに親しみもわきやすいだろうしな。
「なるほど、セイバーのう。もっと良い名前がありそうだがのう。」
やかましいわ。分かりやすくしたんだよ。俺は心の中で叫んだ。
「他にも、あるようですが?」
宰相がセイバー以外の武装機を指した。
「こっちはブロンズアーマー・ファイター、あちらはブロンズアーマー・アーチャー、一番奥がブロンズアーマー・ヒーラーになります。」
俺は答える。俺はここに全部で四機の武装神機を持ち込でいた。
「中々に立派な物だのう?宰相。」
領主は横に遣える男に声をかける。
「はっ!。左様でございます。して勇者…創麻殿、これらは何か違いがあるのですか?例えば戦術的な特徴とか。」
宰相は全体的に機体を見ながら聞いてくる。なるほど。こいつは比較的まとものようだ。
「…大まかに説明いたします。」
こういう輩に詳細を説明をグダグダしても意味はない。この手の人間が興味があるのは今あくまで使えるか使えないか。典型的な管理営業タイプだ。何も出来ない無能者のくせに、求めるのは結果論だけだ。将来的な、先々の事など安直に捉えている。俺が向こうの世界でサラリーマンをしていた時に十分懲りていた。
「簡潔に頼むぞ。宰相、良く聞いておけ。」
「まずはファイターですが…」
二人のやり取りを俺は無視して続けた。
「こちらは汎用性に優れた機体です。訓練用にも実戦用にも使えます。さらに様々な武器を装備が出来るのであらゆる戦術局面にも対応可能です。」
領主は興味が無さそうだが、宰相は興味があるようだった。
「魔王軍の主力武装神である、ゴブリンのデータを元にしています。」
正確にはゴブリンをベースにしているのだがな。
「なるほど。もしかして、こちらは量産型の機体ですか。」
宰相はファイターに興味があるようだ。
しかもファイターが量産に向いていることまで見抜いている。簡潔な説明だけで理解するとは中々に出来る男のようだ。
「はい。こちらは試作品ですが、この武装神は非常に量産に適しています。」
包み隠さず話した。このタイプの人間には情報をある程度共有すべきと考えている。理由は二人後々に良い協力者となるか、下手な嘘の情報を見抜かれて敵になるかだからだ。警戒が必要だな。
「宰相殿、続けても?」
「どうぞ。」
宰相は手のひらを俺に向けて次の説明を待つ。
「これはアーチャーです。」
俺はボウガンを持つ武装神を指した。
「こちらは主に中距離~長距離の戦闘に適しています。」
宰相は黙ってアーチャーを見る。俺はそのまま続ける。
「装甲はあまり厚くはありません。矢(弾)を多く持てる矢筒(弾倉)が装備可能です。」
「なるほど、こちらは補充の矢を運ぶ事も想定しているのですね。」
「はい。」
正にその通りだった。射撃武器を使用する機体は弾が無くなれば、その戦場では大概お役目ご免になる。
その欠点を補う仕様として攻撃用と補充用に分けられるようにしたのだ。既に戦術まで考慮してるか、出来る男だ。
「最後はセイバーですが、攻守共にバランスの取れた機体になります。この中では最も戦闘力が高いので、戦闘の中核を成すでしょう。」
俺は感情を込めず淡々と説明した。
「ほう、ほう、これは中々にの面構えではないか。気に入ったぞ。」
今まで何の興味を持たす呆けていた、領主が嬉々として良い放つ。一目でセイバーに惚れたみたいだった。
「して、この…セイ…。」
「セイバーです。ご領主。」
「そう、セイバーだ。」
気に入ったのに名前すら覚えられないのか。俺はかなり呆れた。
「これは直ぐに動くのか?」
領主はおもちゃを見た子供のように目を輝かせて俺を見てきた。嫌な予感がする。恐らく次は…乗りたい、
だろうか。
「動くなら今直ぐに乗りたい。」
やはりな。生憎だか俺はこいつをセイバーに乗せる気がさらさら無い。セイバーの性能は他の三機より断然高い。さらに操作性も抜群に良かった。おそらくこの領主は外観だけで中身に興味が無い。先ほどから見ていれば分かる。この太りきった男は、単純に「カッコいい!民の前に出て自慢したい」が関の山だろう。これでは正に豚に真珠だ。
「他の三機は後少しで動かせますが、セイバーはまだまだ調整が必要です。」
俺はそのような考えを悟られぬように淡々と返す。
「つまらんのう。では宰相、動かせる用意が出来たら教えよ。」
「ははっ。」
その場を去り行く領主に宰相は深々と頭を下げる。この領主の何処に忠誠を尽くす必要があるかわからないが。
「して、創麻殿。これらの乗り手は決まっているのですか?」
「まだ、ですが…。」
宰相の問いに俺は返答に一呼吸おいた。
「創麻殿は乗られ無いのですか?」
宰相は次の問いかけをしてくる。
「私がてすか?」
「ええ、これらは創麻殿が最も熟知していると思われます。創麻殿が乗られれば最大限の活躍が出来るかと存じますが。」
確かに俺が乗れば、どの機体でも間違い無く最強になるだろう。しかし、それは俺が望む事ではない。
「いえ、私はバックアップに回るつもりです。」
「ほう、何故?」
宰相は眉をひそめる。
「熟知しているからこそ、改修や整備等が重要と考えるからです。さらに操縦方法や戦闘についてもサポートが必要かと。」
「なるほど、確かにそうですね。」
俺の説明に宰相は納得した様子だった。
ま、俺がしたいのは戦争でも人殺しでもない。技術の革新と人間(生命体)の可能性が見たいだけだ。
「しかし、となるとこれに乗る人間を決めないといけませんね。」
宰相は腕組みをする。こちらを見て
「城の兵士、ましてや一般人から適任者を募るとか…」
「それなら」
俺は言葉を遮った。
「この街には、俺以外にも勇者がいましたよね?確か二組。」
「ええ、居りますが。」
一組は四人なので計八人居ることになる。
「彼らを乗せてはと考えています。」
「彼らをですか?」
「ええ、この武装神ですが我々の世界にある技術が主体になっています。ですから彼らなら直ぐにでも慣れると考えますが…如何でしょう?」
利には叶っている筈だ。俺としては元々の世界の人間でこちら側(王国側)の者達がどのように動かすかが興味があった。さらに欲を言えば勇者が操縦するデータをもっと録っておきたかった。(丁度良い事にこの地には実験体がいる。)しかし、その事を悟られてはいけない。なので俺は敢えて強くは言わず、あくまでも推奨して相手に選ばせる手法に出た。
宰相は暫し考えて、
「承知いたしました。しかし…」
「しかし?」
俺は問い返す。難しい…か?
勇者は召喚された後は王国が衣食住を保証している。それと引き換えに勇者は王国にその力を使い貢献していた。要は王国が勇者を管理しているのだ。ここに在中している勇者も当然ながら王国の首都から派遣されている。建前上は許可を得る必要があるのだろう。
断られるか、そう俺が思った時、
「全員と言うわけには行きません。半分の一組なら良いでしょう。」
最低限四人いるようだし問題はない。
「良いのですか?」
宰相は頷き、
「領主様の護衛もありますので。護衛を行わない方々に協力をしてもらいましょう。」
護衛を行わない方々…ね。まぁその方が良いかもな。
俺は護衛をする方だが事情は知っているので理由には納得はしていた。
領主は自分を護衛する勇者パーティーはかなりお気に入りであったようだ。だがもう一組の勇者パーティーの事はあまり好意をもっていなかった、寧ろ興味が無かったと言うべきかも知れない。
その理由は勇者パーティーの内容であった。領主のお気に入りパーティーは男一人、女三人で全員若く、美人揃いだった。こいつら役目は領主の護衛であり、また性の対象になっていた事を俺は知っている。さらにこの領主は男色としても裏では有名だった。このパーティーに男が一人いるが、美形で中性的な顔立ちをしていたので…あとは言うものがなである。
もう一組は俺も知らない奴らだった。宰相の話によると能力も勇者の中ではそれほど高くなく、特に秀でたものは無いらしい。外見も平凡だとか。(領主の好みでは無いらしい。)
俺としては特に勇者であればどちらを使わせて貰おうが構わない。
しばらくして選ばれし四人がやってきた。
宰相が領主の許可を得るのにはさほど時間がかからなかったようだ。
男三人、女一人だ。宰相にちらっと聞いたが年齢は確か十代と女は二十代で俺に近かったはずだ。
「俺は創麻だ。よろしく。」
とりあえずは軽く挨拶をした。
それに対し四人の万能は様々だった。
まず一人は完全に無視してきた。挨拶も出来ないとはこいつとは仲良く出来ないな。よし、こいつの名前は………無口野郎だな。
もう一人はと言うと、舌打ちをする。こちらに対し好意が無いのは今ので分かった。こいつとも確実に仲良く慣れないな。こいつは……舌打ち野郎、と。
「俺は…英樹…です。」
明らかに自信が無いのか小さい声だった。…大丈夫か?体つきはしっかりしているが、飯をちゃんと食べてるのだろか?
「英樹、もう少し大きな声を出して、あ、私は姫乃です。よろしくお願いします。」
唯一の紅一点、姫乃は元気よくお辞儀をし、はきはきとした喋り方で挨拶をした。
「ああ、よろしく。」
俺は姫乃にお辞儀をした。
「パーティーでは英樹がサポート役で、私は主に回復役を担当しています。」
聞いてもいない事を喋りだす姫乃。お節介か面倒見が良いのかよく分からんが、とりあえずこいつは会話が出来そうだな。少しだけ情報をとっておくか。
「君らの事も知りたいが、出来れば彼らの事も併せて教えて欲しいかな。」
その後、姫乃は快く教えてくれた。余計な情報もあったが。
簡単に整理するとパーティーは全体的に仲が悪い。特に無口と舌打ちは特に良くないらしい。英樹はこの中では最も力が低いのでお荷物扱いだった。
一応は姫乃が取りまとめているらしい。姫乃一番年上で二十四。男共は全員十代で大学生と高校生で年も近い。確か英樹は二十だったか。
この世界に来たのは約二カ月前で一ヶ月以上は王国の城内で生活していたらしい。
舌打ちが近接戦闘が得意で無口は遠距離攻撃が得意とか。舌打ち=ファイター、無口=アーチャーに乗せるべきだろう。英樹はどちらもそこそこ出来るらしく、器用貧乏らしい。姫乃は自身でも話していたが回復とサポートが担当。向こうの世界では看護師をしていたと本人の弁。(年が若いから経験は浅いと俺は見ている。)こいつはヒーラーに乗せてみるか。英樹は…そうだな…。
英樹と姫乃…。二人と暫く行動を共にするとは、この時の俺には知るよしもなかった。
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