第2話 武装神と勇者

武装神とは。それを理解してもらうにはこの世界の理を知っておいてもらう必要がある。

俺、創麻は元々この世界の人間ではなく、異なった世界から召喚させられた。

三年ぐらい前だろうか。

正確には異なった世界はこちらの方で元々は地球の日本が出身地であった。

この世界もおそらく地球型の惑星だろうか。気候もほとんど変わらない。朝と夜があり、太陽?と月?がある。文化レベルも大差は無い。

大きく異なる事はこちらの世界には魔法?とか言う謎の理が存在していた。魔法と言うのは火や水を出したり、風を起こしたり、時には傷を癒したりできた。魔法の理論については完全に理解していないが、何らかの力が働いているようだった。(これについては目下研究中である。)


こちらに召喚された件ついてだか、この世界を支配している王国の召喚師らしい。

その目的だがどうやらこの世界は、絶えずいざこざが起こっていてそれを鎮める事の出来る勇者を求めていたらしい。勇者、と聞こえは良いが実際には厄介事を別の世界から来た人間にやらせる事だったようだ。

この世界の人間がわざわざ別の世界の人間を召喚する理由は他にもあった。先ほど魔法の話をしたが、召喚された人間の方が何故か魔法の力に優れていた。こちらの人間が使用する魔法は火を起こす、飲料水を出す、明かりを灯すぐらいの簡単なものに対し、召喚された者達の魔法は明らかに相手を殺傷できる程の力があった。生活程度レベルか軍事レベルかの差があったのだ。

その為こちらの世界にはかなりの人間が召喚されたらしい。俺が召喚された時も同時に何人かいたのを記憶している。その場で軽く見回しただけだが、ざっと十数人いた。老若男女バラバラで特に区別はなかったようだった。

ただ後で分かった事だが、その時点で魔法の力に差が出ていたらしい。比較的若い者が優れていたようだった。それでも元いた世界には無い力を得て皆が皆、浮き足だっていた。俺も当初は例外ではなかった。

しかし残念ながら俺はその中で、大した力が無い方だと暫くして理解した。それでもこちらの者達よりは力があったのだが、俺は力が低いと理解した時点で魔法には頼らないと言う方向に考え方を変えた。

力がある者は王族や貴族に気に入られ、かなり裕福な暮らしをしていた。自分達の身辺警護をさせる事を条件にしたようだ。

一方で俺達のように力が低い者は、この世界に住む一般人より良い生活は出来るものの、辺境の地に行き暴動鎮圧を行ったり、辺境貴族の生活管理や警護等をしていた。

俺も辺境貴族の警護をしていたが、希望は出来たので情報を多く入手出来る大きな図書館がある街に赴任した。

まず俺は、この世界で知識を深める事を決めたのだ。元の世界ではしがないサラリーマンだったが、技術者だったので様々な知識を学び、それを活かす事には自信があった。(あんまりアピール、営業力は上手くなかったが)

大きくは世界の理。

文化レベル。

現在の勢力図。誰が力を持っているか。

そして世界の歴史。

この世界で生きるに必要なもの。(技術レベル)

毎日のように図書館に行き、街の住人から情報を仕入れた。

知識が深まるにつれ様々な事が分かってきた。

この世界の文化レベルは先述で言った通り、元の世界と大差がなかった。

衣食住について特に問題は無かったが元いた世界の様々な文化が入り交じっていたようだった。


またライフライン、通信手段も電話があり、交通手段は馬車もあったがかなり少ないが自動車も走っていた。どうやら昔に召喚された人間の中に技術者がいて広めたらしい。魔法などもあったので、互いに混じりあった便利な文化になっていた。

軍事レベルだが、近代兵器に近い物もあり、少数ではあったが鉄砲や戦車もあった。

どうやら、この世界での戦闘は魔法が主流らしい。

これを見るに科学は存在はしているが、主体ではなく、特に金属に関してはかなり希少価値が高かった。

科学や金属が主流になっていないのも理由があった。

一つにこの世界を支配をしている王族や貴族が制限をかけていたのだ。科学や金属は魔法の使えない者でも力を手にする事が出来る。おそらくはそれを懸念しているのだろう。

そのため、金属や化学物質を生み出す技術が進化しなかったのだ。

王族や貴族は魔法を使える者が多く、一つのステータスになっていた。

現に魔法が使えない者はかなり身分が低い平民がほとんどで扱いもぞんざいだった。

この世界でも物を言えるのは富と権力が在る者。そして魔法が力の象徴とも言えた。

この世界を支配している王国や貴族達は正に権力至上主義で平民には重税を課し、自分等は贅沢三昧をしていた。俺は幾つかの街を見て回ったが表面上活気はあるものの、裏見れば貧しい人々が沢山いた。税金は都度引き上げられて、餓死者や自殺者も増加の一方を辿っていると度々耳に入ってきた。

そこまでくると流石に内乱とか起きるかと見ていたが、前述でも説明した通り平民には立ち上がるための力がなかった。更には上の者に逆らう事自体が悪だと教育もされていたのだ。(平民同士の同調圧力もあるようだった。)

我慢をすれば最低限の生活は出来るので戦わない者が多かった。完全に骨抜きにされていたと俺は感じている。

それでも何度かデモや小競合いの様な事があったが「勇者」様によって瞬く間に鎮圧されていた。

その時、平民にかなりの数の死傷者が出ている事を俺は知っている。

平民達は王族や貴族に逆らう事を止め、愚痴だけ溢しつつ生活をしていた。そいつらが決まって口にするのは「誰か何とかしろよ。」だった。

魔法と言う点以外は元いた世界と大して変わらない。俺がここに来て、もうすぐ五年になるが世界の情勢が良くなっているようには感じられなかった。

と、ここまで腐った世界だが、俺は特に平民を救うとか、貴族に取り入って贅沢三昧で楽して生きようとか考えていなかった。

俺が今最も興味ある事は二つ。

一、今までの知識や経験から技術革新をしたい。

(せっかくの異世界なので元の世界で出来ない事をしたかった。)

二、極限状態に置かれた人間がどのように進化するのか知りたい。

(こちらも元の世界では見られるチャンスが無かった。いずれ戻った時のために研究したかった。)

この条件を二つ共満たすには……やはり闘争しか無いだろう。人類、技術共に進化するには常に闘争が必要な事だと歴史が物語っている。

それには武器が必要だ。その武器はある程度公平に使用、出来なくてはならない。

直接生身の人間同士が戦う(素手や刀剣)となると敵が近くなり、人は戦うのを躊躇する可能性がある。(罪の意識が強くトラウマになりやすいと聞いた事がある。)とはいえミサイルや無人機の様にボタン一つで人殺しが出来たのでは、ゲーム感覚のようで何も感じなさすぎて進化しないだろう。

丁度良い距離感が重要なのだ。

俺は元いた世界の技術とこの世界の理を組み合わせてみる事を考えた。

その武器だがやはり戦車や戦闘機のような乗り物が良い。戦車はこの世界にもあるが如何せん数が少ない。

やはりロボットだな。前々から興味があったし。

有人機がいい。

まず大きさだが大型、最低でも十メートルは必要だろう。これは人に畏怖や生身で対峙した時の無力感を感じさせる必要がある。

力だがかなりの馬力が必須だ。動きが悪く戦闘が出来ないのでは話にならない。また戦闘以外にも作業などに使用出来た方が後々の役に立つ。

多少の攻撃にも耐えうる装甲。こちらの魔法はある程度無効にしなくてはな。

様々な状況、環境下で活動が可能。こちらも動きが制限されてはただの木偶の坊になってしまう。

速度や運動性は機体毎に調整すれば良い。

幾つかの種類が必要だ。バリエーションも大事だ。

(この辺りは趣味を混ぜるのも良い。せっかくなら楽しみながらやりたい物だ。)

そして、これが最も大切な事だが誰でも操縦が可能。

特に平民でも訓練次第で対応可能。

名前はそうだな武器と装甲を合わせた機械、力は人智を超えているので…「武装神」とでもしておくか。

最初の目標は平民でも「武装神」で「勇者」を殺せる様に出来る事だろうか。






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