第2話 武装神と勇者
武装神とは、俺が開発した人型の巨大兵器だ。
何故そのようなものを開発したには理由がある。
それを説明する前にまずこの世界の状態について知っておく必要がある。
俺、創麻は異世界に召喚させられた。
五年ぐらい前だろうか。
元の世界は地球の日本だ。
この世界は幸いな事に限りなく地球に近い環境だった。
重力も変わらない所を見るとおそらく地球型の惑星だろうか。
気候もほとんど変わらない。朝と夜があり、太陽?と月?がある。
土地にもよるが四季もあった。
文明レベルも地球と大差は無い。
衣食住:これは様々な世界の文化が入り交ざっているようだ。
衣食は普通に生活する分には大きな問題が無かった。
住の方だがライフラインは完備されていた。
主要都市は上水・下水の整備は当然ながら電気やガスなども配備されていた。
交通手段は中心なのは馬車。
数は限られていたが自動車も走っていた。
これは生産数が少ないのではなく持つ人間が限られていたからだと後々知った。
通信手段だが電話もあった。
ただしこちらも所持する人間が限定されている。
情報管理と統制が目的らしい。
重要な軍事レベルだが近代兵器に近い物もあり鉄砲や戦車もあった。
これらの技術は元々この世界に存在したものでは無いとか。
どうやら召喚された人間の中に技術者がいて開発したらしい。
俺のいた地球と大きく異なる点はこちらの世界には魔法?とか言う理が存在していた。
魔法と言うのは火や水を出したり、風を起こしたり、時には傷を癒したりできた。
魔法について全てを解明したわけではないが謎のマナとかいう意思の力とエーテルとかいう物質が関係しているようだ。(これについては俺も目下研究中である。)
このように魔法もあったので、科学と互いに混じりあったある意味便利な文化になっていた。
ただこの魔法というもの中々癖があるようで使用者によって差があったのだ。
貴族や王族ほど強力なものが使用でき平民はかなり弱かった。
平民は火を起こす、飲料水を出す、明かりを灯すぐらいの生活に役立つぐらいの力だった。
そういえば使えない者も多数いたな。
一方で王族や貴族は物を破壊したり生物を傷つける事が出来るぐらいの力だあったのだ。
なので魔法は当然ながら軍事にも運用されていた。
王族や貴族にとって魔法は一つのステータスになっていた。
強い魔法が使えるものは身分が高く富と権力を持っていた。
貴族でも魔法の力が低いものは身分もそれなりだった。
魔法が力の象徴と言ってもいいだろう。
これがこの世界の文化と言えば文化かもしれないな。
俺たちの世界でいう学歴と近いか・・・。
この世界を支配している王国や貴族達は正に権力至上主義。
平民には重税を課し、自分等は贅沢三昧をしていた。
俺は幾つかの街を見て回ったが表面上活気はある様に見えていた。
だが一つ裏通りを見れば貧しい人々が沢山いた。
税金はことある毎に引き上げられて平民の生活は日々貧しくなっているようだった。
餓死者や自殺者も増加の一方を辿っていると度々俺の耳に入ってきた。
正に悪政。
政治に疎い奴でも国が廃れていくのが目に見えて明らかだった。
ここまでくると流石に国家に対し内乱とか起きるかと思うのだが。
小さなデモぐらい起こった事もあったが直ぐに鎮圧されていた。
理由として平民達は立ち上がらなかったのだ。
何故平民は立ち上がらないか。
理由がいくつかあった。
・この世界での戦闘は魔法が主流。
王族や貴族それに従属するものの魔法力が平民よりもはるかに高い。
魔法での戦闘になったら平民に勝ち目は無かった。
・平民には武器が無い
魔法以外の武器、剣や銃は存在はしているが主流ではない。
王族や貴族が所持に関して徹底した管理をしていた。
科学や金属製の武器は魔法の使えない者でも戦う力を手にする事が出来る。
それを懸念しての事だった。
王都に近ければ近いほど規制が厳しかったな。
他にも科学や金属が主流になっていないのも理由があった。
金属はかなり希少価値が高かったのもある。
そのため金属の生成や加工技術が進化しなかったのだ。
・平民の教育
身分が高い者に逆らう事自体が悪だと教育。
逆らおうとするものはつまはじきにする平民同士の同調圧力もあるようだった。
王族や貴族に逆らわず、貧困も我慢をすれば最低限の生活は出来るので戦わない者が多かった。
この時は平民たちにはもはや戦うことに関して完全に骨抜きにされていたと俺は感じていた。
ただそのような事で圧政を敷いてもいつかは限界が来るもので大きな反乱が起こったのだ。
それが魔王軍による決起である。
魔王と名乗るものが現れ、民衆を率いて王国に反旗を翻したのだ。
魔王軍には亜人と呼ばれる者たちがいた。
彼らは普通の人間と体格は変わらなかったが腕力が高いものが多かった。
彼らは金属製の武器や銃を用いて王国や貴族の領地をいくつも襲撃したのである。
戦乱は王国全土に広がりあちこちで戦闘が起こった。
王国側と魔王側に多数の犠牲者が出た。
しかも王国側が魔王軍にかなり押されていたのだ。
王国内の兵士が不足に陥ったので王国はあることを計画し実行に移す。
それは異世界から人間を呼び寄せて戦わせようというものだった。
さてこのような理由で俺も召喚されたわけだが・・・。
ここからは召喚された件ついてになる。
召喚を行ったのは王国の王族と魔術師。
最初の説明は魔王軍によって苦しめられている。
救済してくれる勇者を求めているとの事。
勇者、と聞こえは良いが実際には厄介事を別の世界から来た人間にやらせる事だったようだ。
人員不足によるものか。
わざわざ別の世界の人間を召喚する理由は他にもあった。
先ほど魔法の話をしたが、召喚された人間の方が何故か魔法の力に優れていた。
後々で分かった事だがマナが関係しているらしい。
マナは意思の力でもあるので俺達の方が意志力が強いのか。
俺の仲間が調べたところによると遺伝性もあるらしい。
王族や貴族の力が強いのも納得できる話だ。
あいつら身内同士で結婚することもあるらしいからな。
魔法力はエーテルとの相性や使い方のコツもあるらしい。
奴が言うには単純に火を出したりするだけでは無いとの事。
これまでにこちらの世界にはかなりの人間が召喚されたらしい。
確か俺が召喚された時も同時に数十人その場にいたのを記憶している。
老若男女バラバラだったので特にそこは区別していないのだろう。
個人的な魔法力はこの世界の人間よりも高かったが、その場所に居合わせた中では既に差が出ていたらしい。
俺の時は比較的若い者が優れていたようだった。
召喚された当時の事を鮮明に覚えている。
当時最初はそこにいた全員が召喚されたことに戸惑っていた。
それもつかの間の事、元いた世界には無い力を得て皆が皆浮き足だっていた。
俺も当初は例外ではなかったな。
魔法には大変驚かされたし非常に興味が湧いていた。
しかしその後残酷な現実を目の当たりにする。
残念ながら俺はその中で大した魔法力が無い方だと暫くして理解した。
それでもこの世界の者達よりは力があった。
魔法力がある者は王族や貴族に気に入られかなり裕福な暮らしをしていたな。
自分達の身辺警護をさせる事を条件にしたようだ。
一方で俺達のように魔法力が低い者はこの世界に住む一般人より良い生活は出来るものの辺境の地に行き暴動鎮圧を行ったり辺境貴族の生活管理や警護等をすることになった。
俺も辺境貴族の警護をしていたが希望は出来たので情報を多く入手出来る大きな図書館がある街に赴任した。
俺は魔法力が低いと理解した時点で魔法には頼らないと言う方向に考え方を変えていたのだ。
そこでまず俺はこの世界で知識を深める事を決めたのだ。
元の世界ではしがないサラリーマンだったが、技術者だったので様々な知識を学び、それを活かす事には自信があった。
(あんまりアピール、営業力は上手くなかったんだよな。まあこの点も欠点なので王族や貴族に媚びを売れなかったのもあるだろうな。)
話を戻すと毎日のように図書館に行き街の住人から情報を仕入れた。
情報を制する者は世界を制す。
孫氏の言葉を変えたものだったっけか?よく知らん。
様々な情報や知識が深まるにつれて色々な事が分かってきた。
魔法やこの世界の文明や文化、現在の情勢など。
情報を仕入れている間にも何度かデモや小競合いの様な事があった。
「勇者」様によって瞬く間に鎮圧されていたが。
俺も何度か付き添いはしたが実戦では役に立たないので後方支援をしていた。
楽だったし。
その時、平民の方にかなりの数の死傷者が出ている事を俺は知っている。
勇者が平民もろとも魔王軍を攻撃したのだ。
この戦闘は明らかに王国側に問題があった。
犠牲者の中には小さな子供や妊婦さんとかもいたな。
付け加えるならば「勇者」も素行が悪かった。
略奪や強姦は良く聞いたな。
道徳的というか人間性に問題があるのか、はたまた力を手に入れたことによる慢心か。
どちらにしても俺は好かん。
そのような事が多々起こっても平民達は王族や貴族に逆らう事はしない。
魔王軍に参加もしない。
魔王軍だけでなく王国側にも愚痴だけ溢しつつ生活をしていた。
そいつらが決まって口にするのは「誰か何とかしろよ。」だけだった。
この辺りは元いた世界と大して変わらない。
魔王軍が決起して一年後は混乱の後、少し平民達の生活が良くなったようだが、「勇者」の出現によってまたも混沌としてしまった。
偉大なる勇者達が一度は魔王軍の大半を退けてくれた事もあった。
それでも世界の情勢が良くなっているようには感じられない。
と、ここまで中々腐った世界だが今でも俺は特に平民達を救うとか貴族に取り入って贅沢三昧で楽して生きようとか考えていなかった。
なぜならすでに俺は別の事に関心があったのだ。
興味ある事は二つ。
一、今までの知識や経験から技術革新をしたい。
せっかくの異世界なので元の世界で出来ない事をしたかった。
魔法もさらに解読出来れば面白いものが作れる。
二、極限状態に置かれた人間がどのように進化するのか見てみたい。
(こちらも元の世界では確認できていない。いずれ戻った時のために研究しておきたい。)
この条件を両方満たすには……やはり闘争しか無いだろう。
人類、技術共に進化するには常に闘争が必要な事だと歴史が物語っている。
それには武器が必要だ。
その武器はある程度公平に使用、出来なくてはならない。
剣や銃もあるがどうも決定打に欠けるな。
直接生身の人間同士が戦う(素手や刀剣)となると敵が近くなり人は戦うのを躊躇する可能性がある。
(罪の意識が強くトラウマになりやすいと聞いた事がある。)
とはいえミサイルや無人機の様にボタン一つで人殺しが出来たのでは戦場との距離が離れすぎていて何も感じずに進化はしないだろう。
丁度良い距離感が重要なのだ。
俺は元いた世界の技術とこの世界の魔法を組み合わせてみる事を考えた。
その武器だがやはり戦車や戦闘機のような搭乗できる物が良い。
戦車や飛行機はこの世界にもあるがもう少し・・・こう何かが足りない。
外観、機動性、汎用性、あらゆる状況下に適応できる。
やはりロボットだな。
前々から興味があったし。
やはり有人機が良いだろう。
魔法力、特にマナは重要視したい。
まず大きさだが大型、最低でも十五から二十メートルは必要だろう。
これは人に畏怖や恐怖を与え、対峙した時の絶望感を感じさせる必要がある。
恐怖は人を進化させるのに良いらしいし。
パワー:かなりの馬力が必須だ。
機動性:動きが悪く戦闘が出来ないのでは話にならない。バランスも重要だ。
汎用性:戦闘以外にも作業などに使用出来た方が後々の役に立つ。
装甲:多少の攻撃にも耐える防御力は必要。戦車や戦闘機ぐらいは余裕で勝てる。
魔法は人の攻撃ぐらい無効にしなくておく。
適応性:様々な状況、環境下で活動が可能。地上、水中、空中、気温や湿度。あと宇宙空間(向こうの世界に持ち帰ったとき・・・これは急がなくていいか。)
こちらも環境で動きが制限されてはただの木偶の坊になってしまう。
個体の性能は機体毎に調整すれば良い。
幾つかの種類が必要だ。
バリエーションも大事だ。
(この辺りは趣味を混ぜるのも良い。せっかくなら楽しみながらやりたいからな。)
商売は上手ではないが、これを武器とするなら売れるようにしておかなくてはならない。
そして、これが最も大切な事だが誰でも操縦が可能。
特に平民でも訓練次第で戦闘に参加できた方が面白そうだ。
最後に名前はそうだな武器と装甲を合わせた機械。
力は人智を超えているので神。
となると…「武装神」か。
最初の目標は魔法力が低い者でも「武装神」で「勇者」を殺せる事だろう。
それが出来ればいよいよ「武装神」による新たな戦争の幕開けだ。
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