第5話 失態

 それから、一年の時が過ぎた。予言ザルの言葉を聞かなくなってから最初の二か月ほどは自分の部屋には入らなかった千里だが、予言ザルが予言を話しても窓を開けていなければ聞こえないと気付いてからは、普通に利用するようになった。予言ザルは千里たちが予言を聞かなくなってからも毎日、時間になると窓の前に来ている。窓が開いていなければ自分で開けようとさえするが、窓に鍵が掛かっていれば諦める。千里はその不気味な風貌になかなか慣れなかったが、一年も経つと全く気にならないほどになった。

 その日は、次の日のテストに向けて必死に勉強をしていた。午前中には友達を呼んで一緒に取り組み、午後には一人で頑張った。一段落つく頃には辺りはすっかり暗くなり千里に疲労が襲い掛かってきた。


 「いったん休憩するか」


 千里はベッドに横たわった。その位置は、ちょうど目線の先に窓がある位置だった。


 「そういえば、そろそろ予言ザルの来る時間だ」


 ボーッと窓を眺めながらそんなことを考えていると、茶色い物体が窓の外に現れた。


 「やっぱり」


 すっかり恐怖心の薄れた千里は、そのまま予言ザルを眺めていた。すると


 「え!?」


 窓の鍵が開いていることに気づいた。


 「まずい!」


 千里は慌てて、窓の鍵を閉めようと動く。しかし、遅かった。

 予言ザルが、長い腕を使って窓を開けたのだ。


 「あ」


 窓のそばまで来ていた千里は、予言ザルと対面する形になる。

 黄色い瞳で千里を見つめながら、予言ザルは口を開いた。


 「待っ」


 『鉄骨が頭に刺さる』


 千里は絶句した。言われた言葉の意味をすぐには理解できなかった。

 そんな千里をよそに、予言ザルはその場をゆっくりと動き、去ろうとした。しかし千里はそれを許さなかった。予言ザルの腕をつかんだのだ。


 「待って!!あなたはいったい何なの?」


 問う千里に、予言ザルはもう一度口を開いた。初めて聞く二言目の言葉。千里は息をのんだ。


 『鉄骨が頭に刺さる』


 「は?」


 それはさっきも聞いた。全く予想外だった言葉に腕の力が少し緩む。その隙を突かれた。


 「きゃあ!!」


 予言ザルは渾身の力で千里の拘束から腕を解放した。その勢いに千里はしりもちをついた。今までのスピードよりも若干早めに、予言ザルは姿を消した。


 「……どうしよう」

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