第6話 衝突

 千里はすぐに両親に二階で起こったことを話した。


 「予言ザルの予言を聞いてしまった。ごめんなさい」


 「いや、千里が悪いわけじゃない。僕たちも一年もの間何もなかったことで気が緩んでいた。それより問題なのは予言の内容だ」


 「そうよ。『鉄骨が頭に刺さる』。なんて怖い予言。何としても阻止しないと」


 「でも、私がその出来事を回避したら、他の人に悲劇が降りかかる。そんなの駄目でしょう?」


 「その可能性があるというだけだ。絶対そうと決まったわけじゃない。それに、もしそうだったとしても僕たちは明日、千里を外には出さない。」


 「でもお父さんは前、予言を阻止することで他人が死ぬ可能性があるとわかっているのに阻止したら、殺人と同じって言ったじゃん。お父さん私を殺人犯にする気!?」


 「殺人犯になるのは僕たち親だよ。千里じゃない。千里がどれだけ予言を阻止したく無くても、僕たちは千里を外に出さない。だから、千里のせいじゃない」


 「そんなの!!」


 千里は辛かった。自分の犠牲に誰かが死ぬことに対する罪悪感より、自分が死ぬことの恐怖のほうが強くなっていることが嫌だった。その気持ちを誤魔化すかのように大きな声を出した。


 「私たちは、見ず知らずの他人より千里のほうがずっと大事。千里のためなら殺人犯にだってなるわ。千里、本当に明日死ぬ気なら、その前に私たちを殺しなさい」


 「はあ!?」


 「そうだぞ。僕たちは全力で千里が死ぬのを阻止するんだから、僕たちを突破しないと千里は死ねない。当然の話だ」


 「うぅ。それは、無理だよ」


 固く閉じた千里の目尻からしずくが流れる。一つ、また一つと流れたそれはやがて大きな流れになり、しばらく止まらなかった。

 千恵が千里の背中をポンポンと叩く。その優しさに触れながら千里は感情を涙に乗せて流した。

 やがて、千里は眠りについた。

真夜中

 「千里、眠ったわ」


 「そうか、よかった。」


 そう言った千雄は、何かを手にもって熱心に見ていた。


 「何見てるの?」


 「ああ。この家に古くから伝わる巻物だ。予言ザルに会った時から、なぜかあの姿を見たことがあるような気がしたんだ。記憶をたどってみたら子供のころ見たような気がして、家じゅうを探し回ったらつい最近見つけたんだ。これを見てくれ」


 そう言って千雄が差しだした巻物には絵が描いてあった。


 「この絵って」


 「予言ザルにそっくりだろう?」


 「ええ。予言ザルに間違いないわ」


 絵の隣には、おそらく昔の日本の文字と思われる文字が書かれていた。


 「なんて書かれているの?」


 「まだ解読中だから、全部は分からない。今はまだ、最初の数行だけだ。その数行の内容はこうだ。『この獣、不幸を吐き出す口である。声に障ると呪われて言葉通りの不幸が起こる。逃れることは容易だが不幸は他者へと乗り移る。一度障ればそれ以降獣の影は出続ける』」


 「つ、つまりあのサルは予言をしていたのではなく私たちを呪っていたってこと?」


 「正確には、千里を呪っていたということだろう。僕はこれからこの巻物の解読と、親戚とか情報がありそうなところに聞き込みをする。この化け物のことをもっと知れば、千里を助けられるはずだ」


 「わ、わかったわ。でも、明日は千里を守らないと」


 「そうだな」


 千恵と千雄はそれからも少しの間話し合い、やがて寝床に入った。

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