第2話 予言

 「お父さんお母さん、笑わないで聞いてね。」


 翌日、千里はそう前置きして両親に昨日のことを話した。一晩考えた結果、家族に話すのが一番良いと思ったから。


 「千里、それは本当なのか?冗談じゃなくて?」


 「ちょっと、信じがたいことよねえ」


 父と母、千雄と千恵は、千里の話に半信半疑だった。千里はその反応に腹が立った。


 「じゃあ二人とも、今日の夜私の部屋に一緒にいて」


 千里のこの発言は、両親に信じてもらえなかった怒りから勢いで言ったものだったが、千里はなぜか昨日出た『話すサル』が今日も出ることに確信があった。根拠は何一つないのに、それが出

ることが当然のことのように思えた。

 その日、千里と両親は早めに夕飯を済ませ三人で千里の部屋に向かった。その時刻は昨日千里が『話すサル』を見た時刻の十分前だった。


 「本当に出たら、パパ写真撮るよ」


 「何余裕かましてんのよ。狂暴かもしれないんだからね!」


 「まあまあ」


 カメラを掲げて茶化す千雄に怒る千里、なだめる千恵。そのようにして過ごしていると


 「あ、あれ」


 千恵が窓のほうを指さす。そこには、のそりのそりと動く影があった。その影は木々を伝い千里たちの家の前の木の上で止まった。


 「話す、サル」


 そのサルは、毛むくじゃらの大きな体をこちらに向け、黄色く輝く瞳で千里を見ている。

 両親は、信じられないものを見た驚愕で固まっている。しかし千里は昨日同じものを見たからか両親より先に行動が起こせた。


 「あなたは、いったいなんですか」


 ひどく抽象的な質問。しかし千里にはそれしか尋ねようがなかった。

 サルは口を開いた。


 『今日の夜、血が出る』


 「え」


 サルはそれだけ言うと、のそりとした動きで去って行った。三人は見守るしかなかった。


 「あのサル、今日の夜血が出るっていったよな」


 サルが完全に見えなくなった後、ようやく千雄が口を開いた。


 「ええ、言ったわ」


 千恵が答える。


 「それって、まずくないか」


 「ええ、まずいわ」


 昨日、サルは『今日の夜皿が割れる』と言った。そして実際に皿が割れた。つまりサルが言ったことが本当になったのだ。今日も同じようになるとしたら。


 「「きゃああああ!!」」 「うわああああ!!」


 三人は震え上がった。

 しかし実際に起こったことは、千雄が紙で切り傷を作ってしまった程度だった。

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