予言ザル

くまパン

第1話 出現

 千里が異変に気付いたのは外がすっかり暗くなってからだった。その日、千里は一日中部屋で勉強をしていた。学校のテストの日が近いのだ。ちょうどよい春風が吹いていたので窓は半分ほど開けていた。


 「何?」


 後方から何かの視線を感じる。思えば、朝勉強し始めた時から違和感はあった。テストが近い焦りがごまかしていたが、勉強が一段落した今その違和感を無視することはできなかった。千里は後ろを振り向いた。後ろには半分ほど空いている窓がある。


「え?」


 その窓の向こう、外にある木の枝の上、そこにはサルがいた。

 薄汚れた茶色の毛に覆われた人に近い外見の獣。不気味に輝いている大きな目はうつろで、そこはかとなく知性を感じる。

 「え?なんでサル。しかもでかいし」

 心の底からこみ上げる恐怖を軽口で抑え込みながら、とりあえず窓を閉めることにした。サルに近づくのは嫌だったが、サルが窓から入ってきたら命が危ない。急いで窓枠に取り付き、窓を閉めようとしたとき

 『今日の夜、皿が割れる』

 サルが、言葉を発した。突然のことに動けない千里をよそにサルはゆっくりと動き、木から木に飛び移って遂にはその姿を消した。

 「話すサル。意味わかんない」

 千里はその場にへたり込んだ。その後、あまりに現実離れした出来事に幻だと思い込もうとした。

 だがその夜、母親が皿を一枚割った。

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