第2話: この年齢になって呼び出しかよ

 先輩に連れ出されてから数分後。教室に戻ると、クラスメイトたちは俺の方に好奇の目線を向けてくる…なんてこともなく、ふっつーに席についてふっつーに寝たふりを再開できました。

 どうやらクラスのみんなは思ってるほど俺に興味はないらしい。あれほど美人で人目を惹く先輩の力をもってしても、俺の陰オーラには勝てないらしい。

 というか、あれだけのことをしても誰からも話しかけられない俺の立ち位置があまりにも異質すぎるのか。

 入学しておよそ一か月。「あんまり友達作ろうとがっつくのも違うよな~」なんて甘えた考えでのさばってたら干された。クラスから。

 数か月後にはクラス内でグループを作って向かう、遠足とかいう陰キャ殺しイベントが待ち構えている。もはや打つ手はない。数日後のホームルームにあるであろう審判の時班決めを待つのみだ。


『キーンコーンカーンコーン――』


 昼休み終了のチャイムとともに、むくりと起き上がる。

 昼休み明け最初の授業は…古文か。めんどくさいな。寝てやり過ごそ…。



■◇■



「で、俺の授業でタヌキ寝入りをかました挙句に、声をかけて起こそうとしたにもかかわらず二度寝をしたことに対する言い訳はあるか?」


「なにもございません…」


 無事放課後呼び出しをくらいましたとさ。


 いや、違うんだよね。俺のことを起こそうとする古文担当、コワモテで有名な高田が、どういうわけか母親に見えて、二度寝してもいっかってなったんだよ…。


「まあ、授業のことはそこまで気にしていない。自己責任だからな」


「はあ…」


「俺が気にしてるのは、お前がクラス内で孤立してることだよ。中学からの通知書には、『優良な人格で友達も多く、クラスでは他人を引っ張る役を率先して務めていました』って書いてあったから心配してなかったんだがな」


「中学の先生も生徒のことは可愛くて少し盛って書くんじゃないですか」


 (知らんけど)


「にしてもなぁ…」


「まあ安心してください、何とかしますよ」


 (知らんけど)


「…まあ、困ったことがあれば何でも言えよ」


「ありがとうございます」


 そう言って、職員室を後にする。というか、早く帰りたくて話してる途中から先生に対して半身だった。右半身は後ろに引いてた。



■◇■



 先生から解放された後、体は迷いなく部室の方へ向かう。


 ドアの前に立つと、なぜだかドアを開けるかどうか迷ってしまう自分がいた。

 もう遅いしな…、今更行ってもな…。


「なにしてるの?透くん」


「ううぇあおぉうせ、先輩」


 背後から突然先輩に話しかけられて変な声が出てしまった。


「早く部活始めようよ」


「そ、そっすね…」


 今日もまた、先輩との部活が始まる。



■◇■



「なんであんなところで固まってたの?」


「いや、部活に行くかどうかを迷ってて…」


「はは、透くんが来てくれなかったらホントに名前だけの部活になっちゃうじゃん」


「いや、実際に名前だけの部活なんですけどね」


 研鑽スポーツ部。もともとは外部のクラブ活動などで活動している生徒が籍を置くために存在している部活だ。

 俺たちの高校は部活動強制参加であるため、外部のクラブ活動に参加していないにもかかわらず研鑽スポーツ部に籍を置き、部活動参加を逃れる者も多かった。

 そうして長年が経ち、研鑽スポーツ部が本来の目的で使われることはなくなり、学校側もそれを黙認して今に至るというわけだ。


 そんな部活であるため、本来部室も存在せず、活動なんてもちろん存在していないのだが…


「私が勝手に部長を名乗って教室を占拠してるだけだしね」


「改めて聞くとほんとにヤバいな…」


 そうなのである。この先輩は研鑽スポーツ部の部長を名乗り、旧校舎にあった鍵のない教室を勝手に占拠して部活動を行っている。


「部活ってことにしといたほうが透くんも来やすいでしょ」


「まあ、そうですね」


 部活でなかったら怯えて先輩と話すこともないだろうし、話す機会を作ろうとも思わないだろう。ってか、わざわざ言われると恥ずかしいな。


「で、今日の部活は何をするんですか?」


「今日はね、面白いものを持ってきました」


 そう言って先輩はスマホを取り出し、俺の方に向けてくる。


「じゃーん、王様ゲーム」


「え?それ二人でやるやつじゃな…」


「さあさっそくいってみよー!」


「うっそだろ」



■◇■



 改めて机に向かい合って座り、ゲームをできる体制をとる。


 先輩がもってきた王様ゲームのルールはオーソドックスなものだった。スマホのルーレットを回し、王様を決め、参加者それぞれに番号を割り当てる。王様は誰が何番なのかは知らないが、好きなように命令をすることができる。まあ、定番のゲームだ。

 先輩のおかしいところは、これを二人でやろうとしているところだ。

 これでは誰が王様か、誰が何番かを特定できてしまい、ドキドキもクソもない。王様ゲームではなく独裁ゲームだ。


「じゃあルーレット回すね」


「本当にやるんですか…」


 先輩の手元にある画面では、カジノにあるもののような、派手な見た目をしたルーレットが回転している。


「お、透くんが王様だね。私は何を命令されても構わないよ?」


 先輩は両手を広げて俺の方を見る。


「じゃあ1番は、三十秒間息を止めてください」

「すっごい雑だね」


 先輩は渋々といった様子で頬を膨らませて息を止める。正直かわいい。


 三十秒後、先輩はぷはぁと息をはきだし、スマホに向き直って無言でルーレットを回し始めた。


「よし、私が王様だね」


 先輩は手のひらを俺に向けてこちらに差し出し、純度100%の笑顔をうかべて首をかしげる。


「ゲーム中は私とずっと手を繋いでいること」


 …え、もしかしてずっとこの調子?

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