第10話
彼女が逝ってから、僕は新しい人間関係を拒否して、新たな運命の赤い糸を断ち切る事が、続いた。
いや、違うな。
逝ってからしばらくは、周囲が見えなかった。
それからの出会いは、いろいろなすれ違いで、異性との深い関係が育たなかった。
そして、もう会うことが、かなわない彼女に対する思いが、更に募った。
ダウンジャケットに、お子さま天使さまが触れると、涙を流した。
「ダウンジャケットの天使の羽根は、愛を抱え込む事により、温まる。抱え込む愛が無い人間は初めてだ。だから暖かくないのだ」
どうやら、お子さま天使には、僕も敬意をはらうべきらしい。
同情してくれているようだ。
「このスキー場に来る途中、一瞬暖かくなったのですが」
「思い出したのだろ?しかし、その温もりは、続かない」
なるほど、思い出というものは、甘美だが、実体のないものだ。
その時だけ、燃え残りに火をつけ、温まる。
しかし、思い出の時間が終わると、火は消える。
時間は、頭の中では、圧縮されるのだろう。
燃え上がる思い出の時間は、小さくなる。
きっと、近い将来、僕のダウンジャケットは、抱え込む思い出の時間を失う。
それにしても、困った。
お子さま天使の言う通りなら、このダウンは、おそらく役に立ちそうもない。
「私が行きましょう」
思春期魔女が、申し出た。
何処に行くのだろう?
「私があなたに、ついて行きます」
彼女は、天使なので、その心には溢れるほどの温もりがある。
僕が新しい温もりを見つけるまで、とりあえず彼女がダウンジャケットを温める。
「1日くらいなら、温もりを保つでしょう」
思春期魔女の魔力は、電池みたいなものだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます