7 『雪だるま』
ロマンスジーノ城の庭。
城壁に囲まれているが、修業をするには充分過ぎる広さがある。この城壁の中に城館があり、そこでロメオたちは暮らしている。いわば、一般家庭における塀と庭と家屋という感じである。
リディオは庭に出ると、空からハラハラと降る雪を見上げた。地面はすでに積もり始めていた。
「そうだった! ロメオ兄ちゃんに雪が降ってるって教えたかったんだぞ! すごいよなー! 夏なのに雪だもんなー!」
両手を広げて感動しているリディオを見やり、
「ああ。そうだな」
ロメオはいっしょに空を見上げた。
――しかし、めずらしいものだな。やはり異常気象だ。
この季節にしては寒い。昨日は暑かったのに今日には雪が降っている。それもこの真夏に。過去にマノーラでこの季節に積雪の記録もあったが、二百年前の話である。ロメオが生まれてからは初めてのことだった。
レオーネが言っていたように、なにかが起きているような気がしてくる。
「ロメオ兄ちゃん!」
「ん?」
「修業したら雪だるまつくろうな!」
「ああ」
「三段重ねたら、ニンジンをもってこないとだぞ」
ふとロメオは思い出したことを口にした。
「そういえば、
「そうなのか! びっくりだぞ!」
「ワタシたちにとっては身近な雪だるまだが、晴和王国ではダルマというのが元になっていて縁起物なのだそうだ」
「じゃあ今日は晴和王国の雪だるまをつくろう!」
「ああ。じゃあ、まずは修業だな」
「おう!」
二人が修業を始めてわずか十五分。
そろそろ雪だるまをつくろうかと思っていたところ。
ロマンスジーノ城の門を開く者があった。
まだ十代後半の少年である。
そちらへロメオとリディオが目を向けると、少年は走ってきた。
「ロメオさーん!」
「どうしました? 町で問題でもありましたか?」
「はい」
ロメオたち『
――マフィアが暴れているのか?
そう思ったロメオであったが、違った。
「事件とかではないんですが、変な老人が叫んでいるんです」
「叫んでいる?」
「ケンカも起きてはいませんし、変な老人だからみんな避けてるんですが、マノーラ騎士団が声をかけても辞めなくて」
マノーラ騎士団とは、マノーラの地を守る軍医騎士である。歩く医者とも言われ、鎧に十字のエンブレムが施されているのが特徴だった。
「なんだかヤバイ人っぽいぞ、ロメオ兄ちゃん!」
不安げな顔でリディオがロメオを見上げる。
「大丈夫だ」
「最近では事故とか不審死も増えているみたいですし、物騒なものですよ」
少年が眉を下げた。
確かに、マノーラではそんな話もあるが、正確なことはわかっていないし、明らかに不自然なほど多発しているわけでもない。
それよりも、まずはなにか叫んでいるという老人の問題が先だ。
「とりあえず、行って確かめましょうか」
「お願いします!」
「レオーネ兄ちゃんにも報告するか?」
「ああ」
「わかったぞ」
リディオは窓に向かって叫んだ。
「レオーネ兄ちゃーん!」
数秒後、窓が開いてレオーネが顔を出した。
そこにロメオが声をかける。
「レオーネ。仕事だ。行くぞ」
「了解」
バサッと、肩からかけた上着をなびかせて、レオーネは地上二十メートルもの高さの窓から飛び降りた。
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