8 『千の魔法を持つ者』
窓から飛び降りたレオーネは、カードを手に持っていた。
そのカードを一枚、地面に投げる。
すると、空中に大きな水の塊が現れた。
五メートル四方はありそうな塊の中にレオーネが足から入るや、落下スピードが水中のように緩和され、ゆったりと水中を通り抜けると、高さ三メートルほどの地点からまた普通に地上へと降り立った。
もちろん、レオーネの身体は濡れていない。
「《
「すげーなー! レオーネ兄ちゃん! 初めて見た魔法だぞ!」
感激するリディオに、レオーネがにこやかに解説してやる。
「この前いただいた魔法さ。空中に水の塊を出せる。そこを通り抜ければ落下速度を落とせるし、塊の中から出なければ空中に留まれる。中では息もできるし濡れもしない」
「へえー! おれもやりたいぞ!」
「あとでな、リディオ」
「おう!」
レオーネは爽やかにロメオに言った。
「さて。話は歩きながら聞こう」
「ああ」
ロメオはうなずき、リディオに優しく声をかける。
「すまない。リディオ」
「いいぞ、別に!」
「またあとで遊ぼう」
「おう!」
「約束だ」
続けて、ロメオは報告に来てくれた少年に言った。
「案内してくれますか?」
レオーネの魔法を夢見心地で見ていた少年は、やっと正気に戻って答えた。
「あ、す、すみません! あんまり突然魔法を使われたので驚きました。レオーネさんはさすがですね。世の中でも魔法を使える人が全体の一割。その中でも二つ以上の魔法を使える人は一割にも満たないのに、『千の魔法を持つ者』って呼ばれるんだから。今の魔法も初めて見ましたけど、本当に千の魔法を持っているんですか」
「さあ。どうかな。それより、案内を頼むよ」
「あ、はい! そうでした! こっちです!」
ロメオがリディオに軽く手をあげ、三人はロマンスジーノ城の門を出て行った。
ラファエルが城館から出てきて、後ろからリディオに呼びかけた。
「リディオ」
「なんだ、ラファエルもいたのか!」
「残念だったな、ロメオさんと過ごす時間がつぶれて」
「いいんだ。ロメオ兄ちゃんはマノーラのために頑張ってるんだからな!」
兄のロメオと過ごす時間をなにより大切にしているリディオだけに、残念な気持ちがないと言ったら嘘になるだろう。しかし本当にそれは割り切っているようで、ラファエルはふっと表情をゆるめる。
「なにして遊ぶ予定だったの?」
「雪だるまつくろうって話してたんだぞ!」
「じゃあボクとつくろう」
「おう! 楽しみだなー! やるぞー!」
リディオが張り切って、ラファエルも「うん」と楽しそうに微笑んだ。
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