4 『真夏の雪』

 振作令央音ブレッサ・レオーネは、窓の外を眺めた。

 くすんだ乳白色の空が広がっている。


「今は創暦一五七一年、八月一日。それがどうだ。このイストリア王国、マノーラの地で雪が降ってきたぞ」

「そんな馬鹿な。今は真夏じゃないか」


 ノートに文字を綴っていた狩合呂芽緒カリア・ロメオも、手を止めて立ち上がり、窓辺に来て天気を見る。


「まさか……」

「この魔法世界では、なんでも起こり得る」

「ああ」

「だが、これは異常気象だ。どう思う? ロメオ」

「なにかが起こってる。詳しいことはなにも言えないが」

「オレも同意見だ。これはマノーラだけでのことなのか、それともイストリア王国全土でのことなのか。はたまた、ルーン地方か、それとも世界中で起こっているのか」

「探偵ごっこか? レオーネ」

「気になるじゃないか」


 やや長めの金髪を揺らせて、レオーネは爽やかに振り返った。

 ロメオは、紳士的な雰囲気を崩さず、落ち着き払った調子で本棚から一冊の本を抜き取り、テーブルに広げた。ページを繰る。


「マノーラでの異常気象もない話じゃない。過去、この時期に雪が降ったこともあるそうだ」

「へえ」


 穏やかかつ爽やかに微笑するレオーネが、目で続きを促す。


「ただし、真夏の積雪は二百年前のその記録だけ。また、異常気象についてだが、最近は多いように感じるのも事実だ。世界中から異常気象の報告はあった。だが、ルーン地方……とりわけイストリア王国での観測が多い」

「天気がおかしいのもこの一年くらいじゃないか?」

「ああ。そうだったな」

「魔法の影響かな?」

「どうだろう。可能性は充分にある。天候に影響を与える術者は少ないが、確実にいる」

「たとえば、せいおうこく武賀むがくにの彼ら――たかすいぐんにいた」

「あれは嵐のような荒れた空を鎮めるものだったな」

「航海に適した魔法だ」


 晴和王国は、ルーンマギア大陸の東端に位置する島国だ。この島国は、現在、二ぐう三十三ごくに分かれている。二つのみやと三十三のくにに分かれているのである。都道府県というより州に近く、二つの宮は特別な都市と考えていい。その中でも、武賀ノ国は関東地方にある。


「今回のイストリア王国における異常気象は不規則。魔法によるものならば、術者自身がコントロールできていないものである可能性が高い」

「だとしたら目的もわかりにくい、か」


 レオーネとロメオが話していると、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。

 小さく微笑み、レオーネが言った。


「ふふ。ロメオ。リディオがおかえりだぞ」

「みたいだな」


 元気にドアが開かれる。

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