3 『不審死』

「レオーネ。こっちは片づいた」


 三階の窓からロメオが顔を覗かせ、レオーネを見おろした。


「ロメオ。お疲れ様。彼はごらんの通り気絶してる。あとはマノーラ騎士団に引き渡せば終わりだ」

「了解」


 このあと、レオーネとロメオはマノーラの警察組織であるマノーラ騎士団に、ギャンググループの身柄を引き渡した。

 密輸された植物の譲渡も済ませる。


「ありがとう。レオーネくん、ロメオくん。いつも助かるよ」

「いいえ。オリンピオさんもこんな時間までお疲れ様です」


 オリンピオは、マノーラ騎士団の騎士団長である。

 本名を覧汰雄燐比緒ランツァ・オリンピオといって、年は四十代後半、背は一八〇センチほどで、筋肉もしっかりしており、顔は渋いが若々しい。『マノーラの巨匠』と呼ばれ、マノーラの治安の要として市民に慕われている。


「遅くまでマノーラのために働いてくれていたのはキミたちもじゃないか。しかし、よく密輸を行うギャンググループの情報がわかったね。マノーラ騎士団でさえまるで知らなかったのに」


 感心するオリンピオに、レオーネは爽やかな微笑で言った。


「我々『ASTRAアストラ』は世界中に仲間がいる。この世界で、我々の情報網から逃れるのは簡単ではありませんよ」

「そうだね。はっはっは」


 楽しそうにオリンピオが笑った。

 ロメオがレオーネの肩に手を置いた。


「レオーネ。ワタシたちは行こう」

「そうだね」

「オリンピオさん。仕事も完了したので、我々はこれで。あとはよろしくお願いします」

「お先に失礼します。おやすみなさい」

「ああ。お疲れ様。キミたちならなんの心配もないが、夜道気をつけて」


 レオーネとロメオはマノーラ騎士団と分かれた。




 オリンピオの元へ、若いマノーラ騎士がやってきた。別の現場から駆けつけ、遅れて到着したのである。


「オリンピオさん。お疲れ様です」

「やあ、エルメーテくん」

「今回も、『ASTRAアストラ』……レオーネさんとロメオさんの活躍ですか?」

「そうだ」

「さすがですね。でも、『ASTRAアストラ』ってどのような組織なんですか? 僕はマノーラ騎士団に入って一年が経ちましたが、まだ『ASTRAアストラ』については詳しく知りません」

「『ASTRAアストラ』は世界でも有名だが、マノーラでは特に知られた名前だ。しかし、このわしでさえそれがどんな組織なのかはわかってない。人数もわからない。四千人以上はいるらしいが、噂の域を出ない。裏でなにをやっているのかもわからない。確かなのは、トップが『革命家』時之羽恋ジーノ・ヴァレンという青年であり、レオーネくんとロメオくんが最高幹部で我々の友人だということ、この二人がアウトローな正義の味方であること、そして、『ASTRAアストラ』に敵対することは死を意味する、と言われていることくらいのものだ」


 ごくりと唾を飲み込み、新人騎士エルメーテはうなった。


「死を、意味する……」

「大丈夫。レオーネくんとロメオくんたちは、いい人たちだよ。『ASTRAアストラ』としても治安維持活動を行っていてね、今回のように、マノーラ騎士団では関知できない事件を解決してくれることも多々ある。『ASTRAアストラ』を盗賊団だと言う人もいるが、悪事を働く相手から市民に還元する義賊的な行為しかしない。まあ、我々騎士団としては、義賊であろうと本来は見過ごせないのだが、彼らは特別さ。さあ、植物の押収だ。チェレンカやこのイストリアでは見られない変わった植物もあるらしい」

「はい。最近、チェレンカを育てる人も増えてきましたよね。チェレンカはマノーラの象徴なので、僕としてはチェレンカが街に増えて嬉しいです」


 こうして、今日も『ASTRAアストラ』の影の働きによってマノーラの夜は静かな平和が守られていた。

 だが、別の事件も始まっていた。

 植物を運び出していたマノーラ騎士の一人が、突然バタリと倒れる。


「おい、どうした!」


 仲間が駆け寄り、倒れた騎士の様子を見るが、もう息はなかった。騎士たちの間に、どよめきが起きる。

 騎士団長オリンピオは、渋い顔の額にしわを寄せた。


「なんだ、これは……。明らかに、不審死だ」

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