1 『闇夜のカラス』

 振作令央音ブレッサ・レオーネは、マノーラの旧市街にいた。

 夜八時。

 人の通りもまばらで、あたりは静かだった。

 とある家屋の前で身を潜める。カードをシャッフルした。ディーラーのような鮮やかな手さばきで、宙を泳がせたカードが、再びレオーネの手の中に戻る。

 そこから五枚のカードを引いた。


「《とうフィルター》」


 五枚のうち一枚を宙に投げ捨てると、ぽっと消えた。


「どうだ? レオーネ」


 相棒・狩合呂芽緒カリア・ロメオに聞かれて、数秒後、レオーネはウインクを返した。


「ビンゴだ。ロメオ」

「やはりか」

「ああ。珍しい植物を密輸するギャンググループ。彼らはオレたちが見張っていた際に確認した通り、四人いる。三階のあの部屋だ」


 とレオーネは窓を指差す。


「なるほど。しかし、その《透過フィルター》という魔法は便利だな」

「まったくもって重宝するよ。アルブレア王国を訪れたとき、たまたま見かけた騎士が持っていたのを見て盗ませてもらったが、正解だった」

「物体ごとに透視が可能。いろんなデッキに組み込めるな」

「いくつかのデッキには入れておいたよ」


 さて、とレオーネは仕切り直す。


「乗り込むとするか」


 レオーネとロメオは、今年二十歳になる青年である。

 幼馴染みの二人は共に身長一七五センチほどで、ロメオのほうが一センチは高いだろうか。また、同い年の二人だが、レオーネは四月二日に誕生日を迎え、ロメオは十一月二十三日に二十歳になる。

 この世界この時代では、学校などで年齢を区切る場合、四月二日からがその学年の始まりとなり、その基準が異なる国は少ない。

 そんな同い年のコンビは、二手に分かれて行動を開始した。

 まず、レオーネが山札からカードを一枚引いた。


「《レイブンノイズ》」


 カードを空に投げる。

 すると、カードが音もなく弾けて、そこから無数のワタリガラスが現れた。漆黒の翼を羽ばたかせて、


「カァ! カァ!」


 と一斉に鳴いて暗黒の空へ飛んでゆき、やがて闇に溶けた。

 同じ頃、鳴き声に合わせて、ロメオが一階のドアを蹴破り、中に侵入。

 三階の一室では、ギャングたちがささやき合う。


「こんな時間にカラスか?」

「不吉だな」


 カラスの鳴き声によって、ロメオがドアを破壊する音が聞こえなかったのである。

 一つ目の仕事を終えたレオーネは、家の壁に背を預けて佇む。カードを一枚指に挟み、腕を組んだまま、あとは時を待つ。


「頼んだぜ、ロメオ」

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