ASTRA×NOTE(アストラ×ノート)-秘密結社『ASTRA(アストラ)』の事件簿-バトルマスターと千の魔法を持つ者

青亀

プロローグ 『すべての道はマノーラに通ず』

 時はそうれき一五七一年。

 イストリア王国の首都・マノーラは、『みやこ』と呼ばれる。

 紀元前から現在、そして未来まで、ここは永遠に都であり、もしそうではなくなる時が来れば、それは世界が滅亡する時だと言われている。


「世界の滅亡。そんなことがあると思うか?」

「あるだろう。こんな世界だ」


 二人の青年は、本心からそう思っていた。


「そうだな。なんでも起こり得る」

「ただそれだけさ。原因はなんだって考えられる」


 彼らが暮らすマノーラがあるのは、ルーンマギア大陸の西側である。

 ルーンマギア大陸は、世界最大の大陸として知られ、西側のルーン地方と東側のマギア地方とに分かれる。

 マギア地方の東洋国家は、中東ではソクラナ共和国のバミアドが『たいりく』として東西を結ぶ大陸の交易拠点であり、世界最大の人口を持つガンダス共和国はルーン地方の文化を吸収しながらさらに大きくなりつつあり、東の端では古代そうくにれいへいすうに分断された三国時代にある。

 黎・丙・趨のさらにその東側には、海を越えて、世界第二位の経済力と技術力を誇る島国――晴和王国せいわおうこくが静かに世界を照らす。

 この晴和王国に世界樹がある。

 世界樹は別名を魔法樹とも呼ばれ、魔法世界の象徴であった。

 人類が現在の文明を形成するより遥か昔から存在している世界樹だが、いつからあるのか、それは科学者にもわからない。

 魔法についてもわからぬことが多く、すべての人類が無意識に魔力を扱い身体能力を向上させるなどしているが、意識的に自分だけの特別な魔法を発現させて扱える者は人類の一割ほどだと言われている。

 科学者たちの見解では、世界樹から溢れる魔力を人間が受け取ることで魔力を使っているらしい。人間の中には魔力を通る回廊があり、また魔力を体内に留める器もあるという。

 魔力は肉体を強化し、健康を維持し、若さを保つ効果もあるとされる。

 そして、人間には特別な魔法を発現させる力も備わっているらしい。それでも人類の一割しか発現しないのも、科学によって魔法や世界樹のことが解明されていないからだ。

 世界樹については、判明していることのほうが少ないくらいだろう。

 一般的に知られたことはほんのわずかである。

 たとえば、四季の美しい晴和王国にあって、世界樹は常に晴和王国の国花・桜を咲かせている。

 巨大な世界樹は、高さ3333メートルとも言われるが、正確に計測できた人はいない。

 むろん、イストリア王国のマノーラからはその大樹を見ることもできないし、桜の花びらを運ぶ風が吹くこともない。


「すべての道はマノーラに通ず」


 そんな格言を残すマノーラは、ルーン地方の中にある。

 歴史ある西欧諸国が集まるこの地方において、イストリア王国はもっとも古い文明を持つ国の一つであった。

 それでいて、この世界における先進国の一つにも数えられる。

 特に、彼らの住むマノーラは、イストリア王国で最も人の集まる都市だ。


「レオーネは、その言葉が好きだな」

「ああ。だって、ここマノーラにいるだけで、なにかが起こりそうじゃないか? ロメオ」


 レオーネと呼ばれた青年は立ち上がると、窓際へと歩いてゆく。


「もし起こらなくても、オレたちで迎えに行こう」

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