5話 クリスマスに向けて

「クリスマスって本来はキリストの誕生日なのに、なんでいつの間にかリア充のイチャイチャ記念日みたいになってるんだろうな」

「なんだよその頭悪そうな記念日は」


 もうすっかり冬が体に馴染んできた今日この頃、俺は優斗と一緒に取引先の会社へ歩を進めていた。

 街中はどこも週末に迎えるクリスマスムードで、イルミネーションやリースなどが至るところに飾られている。


「とか何とか言って、千智だって彼女さんとイチャコラするんだろ? いいよなぁリア充は」

「いや俺の場合はしたくても出来ないんだよ。あいつが嫌がるから」


 最近ようやくお互いの頭を撫でたり撫でられたりするような距離まで縮まったが、所詮はまだその程度。

 ハグはおろか手を繋ぐことだって滅多にない。

 キスなんて夢のまた夢。


 クリスマスがリア充のイチャイチャ記念日という認識なのは如何なものか。

 彼女がいるのにも関わらずそんな理由も相まって、優斗の愚痴には俺も賛成だった。


「……でも、せめてプレゼントくらいはあげたいよな」

「俺は彼女がいないからその分貯金に余裕が出ていいわ」

「じゃあ優斗さん、精神的な余裕は?」

「……お前みたいな勘のいいガキは嫌いだよ」


 負け惜しみは足元すくわれるから気をつけろよ。

 優斗の恨めしそうな顔を見ながら、俺は心の中で呟いた。


「んでそのプレゼント、何買うのか決まってるのか?」

「まだ決まってないから今日辺りあいつに聞こうかなって。『クリスマスプレゼント何がいい?』って」

「それは流石にやめておいたほうがいいと思うぞ」

「そうなのか?」

「ムードがない」


 バッサリと言い捨てられる俺、可哀想。


「って言っても、じゃあどうすればいいんだよ」

「俺も彼女いたことないから分からん」

「何なんだよ」


 いや、マジで何なんだよ。


「分からんけど、そのまま聞くのが駄目なことは付き合ったことない俺だって分かる」

「じゃあどうすればいいんだよ」

「それくらい自分で考えろ」

「えぇー」


 優斗は付き合ったことがないらしいが、俺だって奏が初めての彼女だ。

 距離の詰め方だって分からなければ、カップルのムードさえ知らない。


 何もない状況で考えろって言われたって、一体どうすれば……。


「……まぁ聞くにしても、それとなく聞いたらいいんじゃないか? クリスマスプレゼントだってことは伏せてさ」


 ツンデレ炸裂。

 優斗も奏と同じくらい分かりやすくツンデレしてるな。

 にしても……。


「それとなく、か」


 それとなくがどんなものか検討もつかないが、流石にそこは俺が考えないといけないだろう。

 どんなことをすれば奏が喜ぶか、奏との距離が縮まるのか。

 考えるのは彼氏である俺の役目だ。


「そんなことよりも、もうすぐ取引先の会社につくぞ。これが成功するかしないかで俺たちの未来が決まるんだから、気張っていくぞ」

「……そうだな」


「未来が決まる」はいささか言い過ぎなような気もしなくはないが、なにせ今は仕事中。

 奏をちゃんと支えられるように今日も頑張ることにしよう。


 そんなことを考えている間に目的地に着いた俺たちは、ビルの自動ドアをくぐるのだった。


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