chapter 6-1:砕けて舞った
お父様とお母様は仕事へ出かけ。
その補佐にとトイナとスピネリも出かけ。
家の中には、私とラグネットの二人だけになっていた。
二人でどこかに行こうかと提案しようとするも。
「ほぼ誰もいない家で、ゆっくりするのもいいんじゃないですか?」
と、返されたので。
実は後回しにしていたやることを、ちまちま進めていく。
「あれ……もうそんな時間か……」
午後三時の鐘が、屋敷内に響き渡る。
いつもならば、ラグネットがおやつを持ってきてくれるはずだ。
しかし、来る気配が一向にない。
片付ける手を止めて、部屋を出てみる。
静かなのは、二人だけしかいないから。
そのはずなのに、妙な雰囲気が廊下に充満している。
なにかが起こっているのではないのか。
一歩踏み出すたびに、その不安は確信に。
「ラグネット……?」
何かがぶつかるような音がする。
この角を曲がれば、すぐなようだ。
「走れ!!」
「え?」
曲がろうとした先から、聞こえてきた言葉。
「絶対に振り返るな。外を目指せ。いいな?!」
いたるところから血を流し、息が上がっている彼女。
乱れた黒髪の隙間から見える深紅の瞳が、嫌に爛々と輝いて見えた。
「ちょっ、ちょっと待って、どういう事?!」
「いいからっ!走れ!!」
「わ、わかった!」
言われた通りに、振り返る事無く走り出す。
無駄に広い家が、今は憎らしく思えた。
とりあえず、外に出よう。
そしてそのあとに、何が起きたのか聞いて……。
「エルン!!」
突如背後から、ラグネットが飛びついてきたせいで。
「うわっ?!」
勢いそのままに廊下に倒れてしまう。
「どうしたの……?」
身体をよじり、彼女を見上げる。
覆いかぶさったままの彼女は。
焦点の合わない目で私を探しながら、どこまでも柔らかく微笑んで。
「役に立たないメイドで、ごめんね」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
ぽたりぽたりと落ちてくるのは、涙と血。
「何言って……」
「護れなくて、ごめん」
「ラ……グネ……」
彼女はもう、動かなかった。
私の事を守ろうとして、抱きしめたまま。
⁅nz:q⁆
物音とも、誰かの声とも捉えられるそんな奇妙な音が耳に飛び込んでくる。
もう動かない彼女の腕の中からそっと様子を見ようとすると。
目
が
合
っ
た
。
【それ】を直感的に【悪魔】と認識できたのは。
勉強の成果だということにしておこう。
それの振り上げた剣が、上の彼女もろとも私を貫いてくる。
あぁ、このまま死ぬんだ。
と本能で分かった。
悪魔ってすごいんだな。
せめて。
最後に会いたかったな。
薄れゆく意識の中で、誰かが走ってくる音が聞こえた。
「お嬢様っ!!お嬢様ぁっ!!」
霞んでしっかりと見えないけど、桜色が宙を舞っているのだけは分かった。
好きだったんだよ。
好きだよ。
君の事が、ずっとずっと。
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