chapter 5-4:恋という劇薬


好きになったのは、絶対に私が先だと思う。

沈む夕日と共に海に、身を投げたら。

なんて、考えていた中に現れた貴女は。

そんな考えを吹き飛ばしてしまうほどの鮮烈さを持って、私の世界の中に入り込んできた。

だから、貴女の投げかけてくれる愛情が嬉しくて。

本当は抱きしめて喜び回りたいくらいなのに。

その愛に触れるのが怖くてたまらないのだ。

(もし勘違いだったら)

(愛情と友情を履き違えてるのは私の方なのでは)

(こんな私を、愛してくれる人なんているわけがないのに)

堂々巡りの思考の終着点は。

いつだってそこだ。

ただの友情だと言い聞かせ、会話も共同の仕事もこなして。

投げかけてくれる愛に、気づかない振りをして。

ただ平穏に、毎日を過ごす。

それでいい。と、願ったのは私。

それ以上望むことなど、何も無いはずなのに。

「私の所に、堕ちてくればいいのに」

午前零時は魔法の溶ける時間。

零れた言葉は、取り繕えなくなった私の本心だ。

一人っきりの暗い部屋の中、吐いた息の音が耳につく。

(浅ましい)

(救いようのない)

(自分のことしか考えてない)

(他人の気持ちが分からないのか)

(それだから、お前は)

どうしようもない希死念慮。

でも、貴女に恋をしてしまい。

共に幸せになりたいと願ってしまった。

「……消えてしまいたいなぁ……」

共に。なんて、どの口が言うのだ。

私は人に愛されない。

人を愛し、幸せにできる自信は微塵もない。

こんなおぞましい私を知ったら。

貴女は間違いなく嫌い、軽蔑するだろうから。

今すぐにでも、嫌ってくれ。

私に、ほんのわずかでも期待をさせないでくれ。

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