chapter 5-1:赤い実はじけた
スピネリとの二人っきりなど、いつも通りの事。
それなのに、妙に静かだと思うようになったのは。
あの二人が来てくれたからだ。
「ところでさ、エルン」
「ん?なーに?」
沈黙に耐えかねたのか、スピネリは口を開く。
軽い雑談だ。と聞き流そうとしたが。
「トイナとは、どういう関係にしていきたいって思ってるの?」
放たれた言葉は予想だにせず。
思わずペンが手から滑り、テーブルに跳ねて、床へと落ちた。
「い、いきなりだなぁ……」
「ちょっと気になっててさ」
拾ってくれたペンを受け取り。
「勿論、いい友人……親友ってやつになっていきたいと……」
当たり障りのない普通の回答をするが。
「……本当に?」
じっと見つめてくるペリドットの瞳が恐ろしくて。
「こ、恋人同士には……なりたいです」
ちゃんと本心を話す。
「で、デートとかも、してみたいし……」
言葉にすると、ジワリと胸が熱くなるように思えた。
「友達同士でもできるけど!でも……そうじゃなくて……」
自分の心に、嘘など吐けるわけ無いのだ。
スピネリは、そんな自分を満足そうに見て。
慈しむ様に、優しく微笑み。
「その先は?」
と。とんでもない一言。
「うえぇ?!」
顔に熱が集中する。
その先なんて。
「……まだそこまで深く考えて無いっていうか……」
考えてもいなかった。
だけど、もしもの話があるのなら。
「興味はあるけど、向こうが望んでないなら……」
気にはなるけど、傷つけたくはないし。
もだもだ うだうだ。
言い訳まがいの言葉を繋げていくと。
「よくそんなんで行けると思ったな」
呆れたようにため息を吐き、言い切った。
冷たい視線が突き刺さる。
「じゃぁ、そっちはどうなのさ」
「どういうこと?」
「ラグネットの事。私が知らないとでも思ってるのぉ~?」
ちょっとからかうつもりで、問いかければ。
「まぁ……」
顎に手を当て、ほんの少し考えてから。
「普通に組み敷きたいし、どろどろに啼かせてみたいけど?」
澱みのない、綺麗でまっすぐな目で。
とんでもないことを言ってのけた。
「……それは普通って言わないんじゃ……」
想像していた以上の返答に、思わず引いてしまう。
私の様子を気にもせず。
「しっかりしてるようで、どこか危なっかしいから、目が離せない」
窓の外を見やり、ふっと笑って、手を振った。
その横顔が、今までに見たことのない表情で。
「だから、ライバルも多い。早い者勝ちだし、分からせる方がいいだろう?」
視線が私の方へ移り。
獲物を狩る肉食獣のような目で問いかけてくるのだ。
その目に、否定も肯定も出来なかった。
私だって、同じだから。
「……珍しいね。それだけ本気になるの」
「それだけ本気なんだよ」
からからと笑って。
「それに……」
指先がテーブルの上を撫でて。
「その言葉、そっくりそのまま返すから」
今にも飛んでいきそうな紙を押さえてくれた。
私の手元には。
書いては消してを繰り返したラブレター。
書き存じの紙が、床の上に絨毯のように広がっていて。
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