chapter3-2:夏の夜

「確か、こっちの方だったんだと思うんだけど……」

「勘だけで山道行くの怖いんだけど」

「そう?楽しいじゃん!」

「慣れない道ってのは、それだけで楽しいもんね」

祭りばやしと喧騒を背に、皆で森へ。

肝試しとかは、怖くてやりたくないのだが。

春にサキねぇが見せてくれた景色のように。

私も、皆にどうしても見せたい景色があったのだ。

「なんでサキねぇもしぃねぇも、山の中に入って行くのよ……」

「そこでしか見られない景色があるからだよ!ね!サキねぇ!!」

「しぃちゃんが何を見せたいのか分からないけど、それは確かにそうだね!」

「サキねぇもシールも、お願いだから一言言ってからにしてよね……」

しばらく歩けば、平坦な道に。

僅かに聞こえる川のせせらぎを頼りに、もう少し進んでいけば。

「よし!到着!!」

目指していた場所にたどり着くことが出来た。

「何も無い所じゃない?」

「ここに何があるっていうの?」

「てか、道合ってる?一本間違えたとかじゃない?」

「信頼されてないなぁ……私……」

しかし、ここまでは想定内だ。

ちょっと言葉の刃が心を掠めたが。

「まぁまぁ。少しじっとして、よーく見てごらん?」

笑いかければ、皆はちょっと不思議そうに首を傾げた後。

じっと、水面を見つめる。

すると。

「ホタル……」

「いるんだ……こんなところに……」

「それも、こんなに沢山……」

暗い世界に、光が舞う。

「ね?綺麗でしょ?」

悪魔がこんなことを願うなんておかしい。と、我ながら思うが。

どうしてもこの景色を見せたかったのだ。

遠い昔に、約束した。

……ような気がしていたから。

「すごいよ!しぃちゃん!よくこんなところ見つけたね!!」

「サキねぇのアレ見せられたら、私だって頑張っちゃうよ!」

盛り上がる私とサキねぇ。

「……フォル。これうちらのハードル上がってないか?」

「やっぱり、インズイもそう思うよね……」

ちょっと不安な顔したインズイとフォルちゃん。

ホタルの光なんて、小さいもののはずなのに。

皆の笑顔が眩しくて、目が開けられない。

この一瞬を、永遠のものにしたいと願う私はワガママだ。

「ね。次はどこ行こうか」

問いかければ。

皆は揃って微笑んで。

「まだ遊び足りないのかい?」

「そのためのお祭りってのもあるけどね」

「じゃぁ、早く行かないとね!無くなる前に急がなきゃ」

インズイとフォルちゃんが前。

私とサキねぇが後ろ。

屋台の明かりを目指して、山道を戻るのだった。

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