chapter3-1:春の夜明け

「こんな朝早くに何するつもりー?」

「どうしても、見せたいものがあってね」

「それでこんな遠出をするの?」

「てか、どこに向かってるの?」

「内緒だよー」

妹達三人を引き連れ、夜明け前。

眠る街は、まだ起きるにはもう少しかかりそうだ。

住宅街を抜けて、近所の山道。

緩やかな散策路を、鳥の声を聞きながらのんびり歩く。

朝の空気は美味しい。らしい。

味はよくわからないが、澄んでいるような気がする。

こんなに朝早く起きたのは久しぶりだ。

そのうえ、早朝に出かけるのも久しぶり。

ついついテンションが上がってしまい、一人で先を歩いていってしまう。

「……やっぱり、私達に手をかけるつもりなんだ……」

「だからこんな早朝に連れ出したんだよ……他の目が届かないから……」

「せめて動機だけは聞いておかないとね……なにがサキねぇをそうさせたのか……」

そんな不穏な会話が聞こえたので。

「ちょっとー。なに怖いこと言ってるのさ」

振り返ってみれば。

三人は嬉しそうに、そして、わざとらしく。

「きゃー。こわーい!!」

なんて、言ってくる。

その、不意に見せる子供らしさが。

可愛くて、愛おしくて、儚くて。

「さ、もうすぐ着くから。張り切って行こう!」

「かなり歩いたような気がするんだけど……」

「でも山道だから、そんなに歩いてないと思うよ?」

「緩い坂なのが、結構辛く感じるよね」

四人並んで、最後の上り坂。

そこを登り切れば。

「ほら!綺麗でしょ?」

見渡す限りの、桜の木。

白んできた山際と、薄いピンクの花弁は、とても幻想的で。

それに見惚れる、三人の横顔も幻想的で。

「こんな場所、あったんだね」

「近くなのに、全然知らなかったわ」

ぽつぽつと言葉を零し、嬉しそうに桜を見やる。

世界に四人だけ。そう思えるような気がしたから。

「でしょ?穴場中の穴場だよ!今度はここでお花見とかしようね」

少し先の話をしてみたくなったのだ。

「……じゃぁ尚更、なんで、何も言わずに私達を連れ出したの?」

察しのいいフォルちゃんの一言。

はた、と、三人の時が止まって。

四色三対の目が、じぃと見つめてくる。

「だって……三人の驚いた顔が見たかったから……」

「そんな理由で?!」

あまりの剣幕に、こちらが驚いて。

「うぅ……怒んないで……」

「怒ってないよー。私達はどうしてを知りたいだけなのー」

「ねー?ほーら、こわくなーいこわくなーい」

「ゆっくりはなしてごらーん?」

誰が姉なのか、もう分からないな。

微かに舞う花弁を見ながら、少しずつ自分の考えを話す。

「いっつもさ、いろいろしてくれるじゃん?」

気の利く妹達は。

手伝ってくれたり、手配してくれたり、リカバリーしてくれたり。

だから、そんな彼女たちに。

「サプライズプレゼントをしてみたかったんだけど……」

どうしても、何かしてあげたかったのだが。

「うちは顔に出ちゃうからさ……」

「確かに」「そりゃそうだ」「びっくりするくらいわかりやすいもんね」

「自覚はあるけど、即答されるとなかなかきついね……」

自他ともに認める程、顔に出やすいのだ。

「だから、これなら大丈夫かなって……思って……」

連れ出すくらいなら、出来るから。

「とってもいいサプライズプレゼントだよ。ありがとう」

「朝焼けと桜がこんなに綺麗なの、知らなかったよ」

「自然がプレゼントなんて、壮大な考えするね。サキねぇは」

こちらも感謝を。

と、口を開こうとしたら。

急に風が吹き、花びらを舞いあげる。

その光景の方に、三人はすっかり意識が行ってしまった。

靡く髪も、髪に着いた花弁を取るのも。

その仕草一つ一つが眩しいほどに綺麗で。

一歩下がって、全体の景色を見る。

先ほどまでの、夜明け前の暗さはどこにもなかった。

夜明け前が、一番暗いとはよく言ったものだ。

まだ、は。

開けない夜を彷徨っている。

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