chapter2-3.5:三番街某所ビルの最上階にて

事の顛末を見届けていたモニターから目を離す。

話には聞いていた、一番街の有名悪魔四姉妹。

「で、お前から見たらあいつらはどうだった?」

上司は、意味ありげな微笑で問いかけてくる。

「あんなの、後天性では身につけられない力ですってー」

自分の回答はそれだった。

「二枚舌なうえに、相手の行動も封じる力」

次女の力は『封印』

行動すべてを制御できるのは能力プロバティオでしかできないが。

契約を結ぶ話術は、己の力。

「重火器どころか、ほぼ全部の武器を使いこなせる腕」

長女の力は『念力』

武器を浮かし、斉射は 能力プロバティオによるものだが。

寸分の狂いもない照準合わせは、己の力。

「幻覚を見せて翻弄させる、頭の回るバーサーカー」

三女の力は『幻覚』

相手に強制的に幻覚を見せて、翻弄させるのは能力プロバティオ

取り立てに使う脅しやハッタリをするのは、己の力。

「尋問した相手を、自分の部下として服従させることもできる拷問技術」

四女の力は『拷問』

相手を隔離して、逃げ出せないようにするのは能力プロバティオ

その後の拷問技術は、己の力。

己の力。

と言ったって、限度はある。

幼いころからの訓練で身に着けたり。

天性の才能だってあり得る話だが。

「【人間】時代に、これだけの技術が伴っていたっていうのなら」

この四姉妹を元【人間】と断定している上司。

「まぁ、話は変わってきますけども……」

自分自身、納得がいかないのだ。

そもそも、何をそんなに問題なのだろうか。

「あいつらが後天性の悪魔だって言うのには、決定的な証拠がある」

上司は、資料の束を俺に投げ渡す。

「紋章の位置だ」

「まー。今の映像見てたらそれは分かってますけど……」

先天性悪魔と、後天性悪魔。

何もかもが個々の力量なので、特別な差は見受けられない。

だが、決定的な違いは。

先天性は、手のひらにのみ紋章が現れるのに対し。

後天性は、身体であればどこにでも紋章が現れるのだ。

元【人間】。

いわば後天性の悪魔が上層部に居るのは、何ら不思議なことではない。

それが許せない。というわけでもないという。

「……どうしてそんなに、あの四姉妹を追うんです?」

ずっと昔から気になってる、ただ一つの事。

今まではぐらされていたが。

「追ってるんじゃない。気になってるだけだ」

いとも簡単に答えが返ってきた。

「昔、契約した【人間】が、殺して欲しいと願った【人間】にな」

逸らした視線が、窓の外の月を見やる。

「まぁ、目標は一人だったが、もう一人巻き沿いになって二人になったがな」

その目はまた自分を向き、どこか自嘲気味に笑ってみせた。

憂いを宿し、後悔を孕んだ【人間】の目で。

「複雑~」

それが分からないから、何でもないように。

馬鹿のように、言葉を零せば。

「複雑なんだよ」

上司は、呆れたように微笑んで、コーヒーを淹れる。

「それだけ、あの【四人】には、いろいろあるんだ」

苦い香りに苦い過去。

自分にはまだ、踏み込んではいけない領域で。

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