chapter2-3:四姉妹集結
新人研修はつつがなく終わり。
俺も帰るか。と、足を踏み出したところで。
「はい。ちょっと仕事残ってるから、一瞬手を貸して」
「うぇ?!……あ、はい!!」
シールさんに、腕を掴まれ、連れ去られてしまう。
群衆の脇を通り過ぎて、二番街。
あまり立ち入ったことは無かったが、一番街に負けず劣らず賑やかな所だった。
「時間外労働じゃ……」
「後で一杯奢るから?ね?」
「あ、いや、そうではなくて……シールさんの方も……」
「あぁ。私のことは気にしなくてもいいよ」
腕を掴み、迷いなく歩いていた彼女は振り返り。
「これからやるのは、<遊び>だと思ってるから」
いつものように、無邪気な笑顔。
とても、裏路地に向かっているような表情ではなかった。
角を曲がって、行き止まり。
光の届かない路地に、六名の目が光っていた。
シールさんは俺の手を離し。
「初めてじゃない?全員で一緒の仕事って」
手前に居た女性三名の元に駆け寄った。
「まぁ、うちとフォルはいつも事後処理みたいなものだからね」
「全力でやっていいんでしょ?」
「いいけど、ほどほどにね……」
まさか。とは思った。
彼女達四名は、俺ら四名の前に一列に並び。
「長女!重火器担当サキネですっ!!」
「次女!契約担当シールです!」
「三女。取り立て担当インズイだ」
「末妹。フォル。以上」
と、自己紹介。
噂の絶えない、四姉妹。
一列に並ぶと、姉妹と言うにはあまりにも似てないが。
その纏う雰囲気と、圧倒的強者の瞳は。
怖いくらいによく似ていて。
息をのんだ俺を含むこちら側の者達。
おそらく、彼女達が一番信頼している部下。
そういったところなのだろうか。
「まぁ、早い話。総当たり戦。一角を消し飛ばす」
冷たく凛とした声に、一気に現実に戻される。
フォルさんが俺らの前に、一枚の紙を見せてくれた。
「そー。この前の事件会ったでしょ?それが丁度……」
その背後から、インズイさんの手が伸びて。
「二番街と三番街。そこの間なんだよね」
そっと地図をなぞった。
「人間界とラプラスがリンクしてるって事ですか……?」
俺の声に。
「厳密には違うけど、今はそういうことにしておいて」
白銀の龍のような髪が、左右に揺れた。
頭脳派の下二名。
「やることは変わんないなら、それでいいんじゃない?」
「そうだよ。消してまた作り直せばそれで問題ないんだし!」
武闘派の上二名。
いい感じにバランスが取れている。
「じゃぁ、手筈通りに。五分後、始めるわ」
「はーい」
凛とした声の号令。
呑気な三名分の返事。
困惑した部下四名。
戸惑う視線が、俺らの総意だ。
何も、聞かされていないのである。
「え、あの……俺何も……」
「いーのいーの!見るのも勉強っていうじゃん?」
それぞれが、それぞれの部下の手を引いて。
持ち場。に連れて行かれる。
「まったく何も読めないんですけど……」
「読めなくて当たり前だよ。全部話してないんだもん」
それだけ言って、シールさんは腕時計を見つめる。
「……。指示は無いから。側で見てるだけでいいから」
「は、はぁ……。分かりました……」
静寂。
大通りから二本も道を外れれば、当たり前なのだろう。
「よし!いくよ!」
だからこそ、大きな声に驚いてしまったが。
「っ!はい!!」
勢い良く駆け出した彼女の後を、追いかける。
右、右、左、右、と迷うことなく曲がり。
「口先だけじゃないんだよ。私」
そのつぶやきが、耳に届く頃。
彼女は、『力』を使い。
目の前の数名を拘束していた。
一歩も動けないそいつらに。
「言ったでしょ?重火器全般扱えるって」
サキネさんが、一切の狂いもなく、すれすれのところに弾丸を打ち込んでいく。
「めんどくさいことはしたくないんだよ。そっちから来てくれてありがとうね」
別の方向から、二名を引きずりながら歩いてきたインズイさん。
その二名を、動けない者達の山に放り投げる。
「さぁ、お話、してくれるわよね?」
フォルさんが、一名を引きずってやってきて。
詰みあがった者達の前で、ほんの少し会話をすると。
「好きなようにしやがれ」
と、一つ男の声。
その後すぐに、警備隊に連行されて行く。
映画を見てるように、現実味が無くて。
「よーし!おーわりっ!」
「早くお店行こう!お腹すいちゃったよー」
「じゃぁ、いつものあの店に行く?」
「賛成。料理もお酒も美味しいからね」
そんな四姉妹の会話ですら、セリフと思えてしまう。
一角を消し飛ばすと言ったのに、なぜ数多の者達を捕まえたのか。
下二名の『力』は一体何なのか。
何もわからないが、ただわかることは。
評判高い、ウーロック家。
その身に宿る力は、まぎれもなく本物で。
「何してるの?」
「はい?」
四名の背を見ていたら。
シールさんは振り返って不思議そうにしてくる。
問いかけの意味が分からずに、呆けた返事をすれば。
「一杯奢るって言ったじゃん?」
そんな答え。
「はい?!」
確かに、言われはした。
だが、家族水入らずの中に、入って行くだけの勇気はない。
「え、お、俺らも……いいんですか?」
恐る恐る聞けば。
「その約束でしょ?」
なぜダメなのか。と、不思議そうに返されてしまった。
「今からご飯作るのも、めんどくさいじゃん?」
サキネさんが、後を繋げるように会話に入ってくる。
「親睦会も含めて、一緒に食べようよ」
天真爛漫、春の日差しのような笑顔。
「っ……サキネさんが言うなら……」
彼の惚れた弱みなのは、こちらが分かる程見て取れた。
「約束だから。来て?」
「そういう事なら……」
でもきっと、自分も同じ顔してると。
痛いくらいに分かるのだ。
「勿論、来てくれるでしょ?」
「インズイさんがいいとおっしゃるのなら!」
「一緒に来なさい」
「フォル様の仰せの通りにいたしますよ」
二名は、迷うことなく返事を言い切った。
あぁ、いいな。
それだけ真っ直ぐに、自分の気持ちが分かっていて。
それだけ真っ直ぐに、愛のままに行動できるのが。
「じゃぁ、決まりだね!」
四姉妹を前、我々が後ろ。
二番街から慣れ親しんだ一番街へ戻っていく。
街にはしゃぐ四姉妹は、とても子供みたいで。
本当の姿はこんな感じなんだろうな。と思うのと同時に。
落とす影が、より一層暗く見えたので。
なんというか。
姉妹と一言で片づけられない。
そんな秘密があるみたいで。
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