chapter2-4:晩御飯

一番街で一番有名な酒場。

勿論、何度も通っているので真新しさは無い。

と、思っていたが。

通されたのは個室。

いかにも高級そうなのが見て取れるほどの部屋。

なんの準備も無しに放り込まれたので。

緊張で顔のこわばった自分達と。

お腹が空いた。と、呑気に注文する四姉妹。

ずっと立ってるわけにはいかないので、とりあえず座ると。

続々と、料理に飲み物が運ばれてくる。

テーブルの上に並んだ豪勢な料理。

八つのグラス。ワインボトルが二本。

四姉妹の慣れた手つきで、取り分けられ、ワインが注がれて。

手伝う間も無く、自分たちの前に差し出された。

お礼を言おうと、視線を動かせば。

「フォル。その手に持ってるのはなんだ」

インズイさんが、フォルタ様に怒っていた。

「ワインに決まってるじゃん。怒られるからグラスいっぱいで終わりにするよ」

優雅にグラスを回して、弁明をするが。

「ワイングラス一杯分って言ったんだよ!いっぱいとは言ってないわ!!」

そのツッコミはごもっともだ。

回したグラスには、普通ではありえない大量のワインが入っていた。

「だめぇ?」

「ダメ」

「もう注いじゃったんだし、よくない?」

「よくない」

ぴしゃりと言い切られたのを、不満に思ったのか。

少し頬を膨らませた後、急に笑顔になって。

「私、これ飲みたいなぁー……」

脳が揺れるような甘美な声で。

「おねぇちゃん?」

甘く微笑み、小首を傾げた。

「コイツッ…………!!!!」

「私の勝ちー。じゃ、いただきまーす」

赤い顔を隠すように、インズイさんは顔を手で覆い。

上機嫌にフォルタ様はワインを煽った。

「ほんとインズイはフォルに甘いよね」

「ねー。」

それを見ていた姉たちは、ご飯を食べながらそんな言葉を零す。

「サキねぇ。じゃぁそのシールに延々と食べ物乗せるのやめれば?」

「え?やめるわけないじゃん」

その間も、サキネさんは、シールさんのお皿が空になれば。

絶えずほかの料理をよそってあげていた。

「ね?しぃちゃん。おなかすいたもんねー?いっぱい食べな?」

「わーい!ありがとう!サキねぇ!!」

姉妹のやり取り。

そう表現するのが一番似合う。

……ただ、幼子がさらに幼い子に世話をするように見えなくもないが。

「おいしいかい?」

「うん!」

「そうかー。そりゃよかったねー」

「おかわりー!」

「はい。どうぞー」

まぁ、いいか。なんか癒されるし。

「冷める前に、みんなも食べな?美味しいよ?」

その言葉で、自分の前に置かれたお皿の存在を思い出した。

一口食べて、ようやく落ち着いて食事を楽しめそうな気持になれる。

「ところで、先ほど言っていた人間界との関係は……」

シールさんの部下が、話題を切り出すように問いかけるも。

「んー?わかんなーい。おぼえてなーい」

のらりくらりと、空になったグラスを回して、答えたのだった。

「この状態のフォルちゃんに話し聞くのは間違いだよ。諦めな」

「っ……聞けないとなると、なおさら気になりますね……」

そのまま仕事の会話へ。

「君は?うちらのやり取り見て、どう思った?」

「そうですね。やっぱり他部署との連携は重要かと……」

こちらも、そのまま仕事の話。

「武器、なんか新しく仕入れる?捕縛用とかの」

「その前に、改造したの見せてください。あれ絶対自分でやりましたよね?」

こちらも。

対して自分達は。

話したくても、話せないのだ。

彼女は自己紹介の時に、本名も、所属も言わなかった。

それが答えならば、自分はそれに従うまで。

何も会話は無いけれど、この時間は心地よくて。

だからこそ、終わるのが惜しく思えた。

宴もたけなわ。

キリの良いとこで終わらせて、店の外。

「じゃぁ、また仕事でね」

サキネさんとシールさんは手を繋いで。

インズイさんはほぼ眠りかけてるフォルタ様の腰に手を回して。

こちらを振り返ることなく、繁華街から住宅街への道を歩いていく。

その背を見送った自分達から、同時に零れた言葉は。

街の喧騒に掻き消え、互いに聞こえなかったフリ。


「やっぱり、かなわないよな」

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