11 休息


「知ってるか? 昔の言葉に“腹が減っては戦はできぬ”って言葉がある」

「大地このお肉美味しいね。それで?」


 あたしと大地は、背嚢から出したお弁当を並べて腹ごしらえだ。たいしたものじゃないが、貯蔵してたありってけを持ってきてる。いつも食べてる、昆虫食や、合成肉、プランターの野菜といったもの。最期のお米は、おにぎりに。痛みやすいものはここで食べつくすつもりだ。


「お前らだけ食べるは不公平だと言ってる。呉越同舟って言葉を知らないのか」

「どっちもしらん」


 わがままな男である。食べ物がどれだけ大切かなんて、食人が当たり前になってる異常な生活で、わかってるだろうに。行きがかりの怪しいヤツに恵んでやるものはない。


「……博識のお礼にこれ」

「ちいねぇ、人がよさすぎ」


 分けてあげたのはコオロギビスケット。パサパサした薄い塩味。喉につかえで飲み込みにくいけど、栄養バランスだけの主食の中では美味しい部類にはいる。


「おにぎりは……」


 図々しい往梯ゆきはし。階段下から大地と一緒に、にらんでやる。目を逸らして


「ふぅ。食べた食べた。オレ、お腹いっぱい食べたの生まれて初めてだ」

「あたしもだ。まだある分はそのうちね。99階層までは長いから」


 ぽんぽんたたけるくらい膨らんで、お腹も満足だ。もう動けないーと、弟は横の壁に身体をあずける。


「いままで、気にしたことなかったけど、マウントってどうなってんだ?」

「母さんが、なんどもいってただろう」

「それでもさ」


 とろんとした目だ。小休止の眠気覚ましに、話をしろということらしい。本格的に休むわけにはいかないから、あたしもしゃべっていたほうが気が休まる。


「あたしたちのマウントは、『アーバングランヒル東京』という変な名前がついてる……」


 山といっても自然にできた物じゃなくて、人が作った建物という。嘘だとずっと思っていたけど、昨日あたりから、それは真実じゃないかと思えるようになってきた。


 人がいるのは、70階層から81階層。内訳はこんなふうだ。


 81 労役階層 労働者 500人

 80 労役階層 労働者 450人

 78 一般階層 C市民 350人

 77 一般階層 B市民 330人

 76 一般階層 A市民 200人


 75 高貴階層2 + 警備兵(150人 + 30人)

 74 高貴階層1    100人

 73 最高管理階層    80人

 72 昆虫飼育&加工階層 30人

 71 畜産階層      20人

 70 農業階層      20人


 『アーバングランヒル東京』にはざっと、2500人が暮らしてる。母さんだけでなく階層長も言ってた。母さんの肉を分けていた、あの階層長だ。


 下のほう。70階の下には、なにがあるのか知らないが空気が毒だという。あたしたしが、目指してる81階より上には、変人たちのすむ町がある。どっちもウワサで聞いたことだ。


「それでは、ビスケットのお返しに扉を開けてやろう」


 鍵とやらをもって往梯ゆきはしが立ち上がった。


「その鍵本物なの? あたし知らないんだけど」


 鍵を使って開けば本物。いままさに目の前で分かることなのだが、あえて聞いてみる。なにせ、鍵がついているなんて知らないかったのだ。母さんも言ってなかったし、本にも書いてない。本物なら、どっから持ってきたんだ。


「分かりやすいなお前、鷹埜たかのだったな。聞きたいこといっぱいありますみたいな顔してる」

「え?」


 あたしは自分の顔を撫でてみた。すこしだけ、口がとがって、眉間にしわが寄って、首をかしげてるが、疑問満載じゃないと思う。失礼なヤツだ。


「答えよう。わりと最近だが、危険すぎると総督が通れないように閉じたんだ。ここから上には何もない。何もなさすぎてヤバいんだ。鍵はこの階層長の部屋から借りてきたから、本物に間違いないだろう。納得したか」


 そう言うと、不愛想な少年は鍵を回した。

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