10 居住層の天辺
大地と合流して、3人になったあたしたち。
「こっちだ」
いつのまにか先導役に治まった
「ちいねぇ。あいつ信用できるのか」
「さあ」
「さあって。オレたちだけで行こうよ」
向こうっ気は強いくせに泣き虫の弟だ。素性の知れないヤツを不安がる気持ちは分かる。あたしだって、名前しか分からない他人なんか、信用したりしない。名前も、どうでもいいけど偽名かもしれないし。
同年代。それか少し年下にみえる。さっきみせた、ためらいゼロの惨殺ぶりは、人の領域を越えてしまってる。
「動くな……ゴー」
この“動くな”は、角から女が出てきた合図。で、しゃがんでおしっこを済ましていなくなったから、ゴー。数歩遅れのあたしたちを、息を吸うように止めて動かす。手下でも扱う慣れた様は、集団をまとめる長のようだ。頭も身体も疲れきってる。あたしは、指図通りに進める安楽に、したがうことにした。
例によって、あぶれた人間たちのせいで複雑になった単純な階層。何キロも歩いたかのような距離感を経、ようやく階段にたどり着いたときには、薄い光が差し込んでいた。
見上げた範囲に人はいない。ゴミだらけの踊り場からは、考えたくない何かの液体が、滴り流れいるが、隠れてる気配はしない。小休止しろ。そう段差がささやいたので、ふぅーっと、座り込んだ。部屋を出てうごきづめだった。
「お前らの名前は?」
「なんで教えなきゃいけないんだ」
「俺が名乗った。だから名乗れ」
「オレは聞いてないし、しゃべったのは勝手だし」
大地と
「折坂
「ちいねぇっ!」
「名前くらいなによ。で
正面きって言ってやった。こういうのって、濁すほどこじれるもんだ。同じ窮地から脱出できた。よかったね。めでたしめでたし、さようなら。
「怖いのはそっちもだ」
「あたしたちが? なんで」
「殺してるだろ、一人ずつ」
あっと思った。
「あ? オレたちは、仕方なくてヤッたんだ。あんたみたく殺さなくていい殺人をしたわけじゃないぞ」
「殺しに、仕方ないも残忍もだいだろう。同じ人殺しだ」
そう。
「……なんか、自分に言い訳してる顔はしてるが、罪悪感はなさそうだな」
罪悪感……罪悪感て。
「なんだそれ? ウンコで配給に間に合わなくって、母さんに叱られた話か?」
「ぷっ」
あったあった。
配給には時間が決められてる、どこどこの家族がいつの何時って。その時間に取りにいかないと、もらえない。それはそれは厳密で5秒も待たないで、配給を担当した人たちが山分けすることになってる。
「笑うなよ、ちいねぇ」
「だって……ぷぷぷ」
その日は母さんはお勤めに出かけて、あたしも手が放せない用事。大地が貰いに行くことになってた。拾い食いでお腹を壊してなければ、一年ぶりの米が食べれられた。
折檻をうけた弟。倍に膨らんだ顔のまま、ハダカで通路に吊るされた。あの母さんの笑顔を浮かべた激怒は、いまも脳裏にこびりついてる。
「別れるってならそれでもいい。だが鍵は持ってるのか」
「鍵?」
「あきれたな。82階層からは居住階じゃなくなる。出入り口に鍵がいるんだよ。こういうのが」
別行動をとるのは、しばらく保留とした。
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