07 オリーブドラブ



 頭痛の中、あたしはカーキ色の男たちに囲まれていた。あたしも同じ服を着ていた。



・・・


「お前がいくら強くてもだめだ。いかに強さを伝えるか。身体で覚えた感覚を言語化して教えられなきゃ、格闘指導官にはなれないぞ」


 175センチある私よりも、頭ひとつ小柄な上官に関節を極められ、床に転ばされる。半長靴だから畳ではなく板。おかまいなしに倒されて、膝と腰が痛い。


「受身くらいとれんのか。よくそれで指導官になろうって思ったもんだ」


 当身技は得意、組み合う技は不得意だ。横では、同じく転がった柔道経験者がキレイに受身を取った。


「いいか。手首返しは、相手の手首を逆手に取って捻る。カンタンだが、格闘術を知らない素人隊員に教えるのは骨が折れる。手の動きは見てわかる。が、腰や足さばきは一夕には身に付かんからな。手取り足取り、マニュアルには載ってない口八丁で理解させること」


「はいっ」


 立ち上がりかまえ、今度は私が投げる番。手首をつかんで、半身に身体を逸らす。上司は、上手くキレイに転んでくれた。


「次。絞め技の復習をする。三角締めのポイントを言ってみろ」

「足での締め技です。難しい技ですが有効なことがあります。倒されてマウントをとられたとき」

「そうだ。敵が馬乗りで有利になったとき。油断してるときの一発逆転が狙える」


 実戦も大会もない、まさに訓練のための訓練。教範にも載ってない緊急事態を想定されたって、使いようがないのに……。



 ・・・



「わあーったよ。ったく、じっくりやるのがいいんじゃねーか。なぁねぇちゃん?」


 痛みが解ける。鎖に吊るされてるるが、頭の中はすっきりだ。頭痛の夢であたしは大きな女。何者かなのか知らない、子供だったり、年寄りだったりするが、同じ歳の人よりいつも大きい。そして、頭痛に悩まされるたび何かか変わる。聞いたこともない知らないことが、いきなり分かる。


 あたしは、後ろの何かが気になってる目をつくる。下着に夢中なもじゃもじゃに呼びかける。


「ねぇあれ?」


 人間は無意識によわい。当人は意識してないのに、なぜかやってしまう行動だ。


「ん?」


 もじゃもじゃは視線に釣られて、後ろをふり向いた。今っ!

 両足をあげた。さらけ出した首に絡めると、思い切り絞め上げた。


「ぬぐ……ぐ……」


 子供でも足の力は強い。じゃもじゃが、足を剥がそうとも、ジタバタもがいた。


「口でか。エロいなお前は」


 ドアの男はあきれて目をとじた。股間に顔を押し付けてると勘違いしたらしい。薄暗いことが幸いしてる。リーダーは奥にひっこんでる。


「……ち……が」


 爪を立てられ、肉をつかまれるが、痛くても放すわけにはいかない。足の感覚が消えてしまい、つりそうだ。


 大地はじっとあたしたちを見ていた。変態行為だと思っていたようだが、男がぐったりしていくことに気づいた。目くばせしてやると、背負った背嚢をそっと降ろして中に手をつっこんだ。


 モジャモジャの抵抗が止んだ。腕がだらりと下がって、踏ん張ってた足がだらしなく膝まづく。いきなり重くなって二人分の体重が縛れた手にかかった。

 締め付けた足を外すと、鈍い音をだして床に倒れた。


「ん? 今度は足をなめてんのか? 変態もほどほどに……て、おい?」


 ドアの男が異変に気付て寄ってきた。ふざけてんのかと、笑いながら靴先でモジャモジャを小突いていたが、死んだと分かってあたしを睨んだ。


「おまえ何を……」


 何をしたんだ、とでも言いたかったのだろうが、その前に、ドア男は刺されて倒れた。やったのは大地。持ってきたナイフで一刺しだ。


 物心のついた子供はみな、お手伝いができるよう、解体技術を仕込まれる。内臓を傷つけない方法は、母さんから叩き込まれた。肋骨を避けて急所をつくくらい、誰にでもできる。


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