第2話 森の世界

みんなの姿が見えなくなって、しばらくぼうっとしてたけれど、とにかく何か食べなきゃ。僕は無我夢中になって餌を探した。


なにがなんだかわからない。

一日目はろくに食べられないまま寝てしまったけれど、翌日は晴れて、思ったより早く食べる物を見つけられた。

なんとかなるような気がしてきた。

そして三日目に、仲間を見つけた。僕とは羽の色が違うし、みんな地味な色合いで体も大きかったけれど、僕を仲間にいれてくれたんだ。


森での一日一日を、僕は必死に生きた。

仲間はすごかった。野生の力をまざまざと見せられた。

ならってやってみる。けれどなかなかうまくいかない。

みんなの言う大体のことはわかるんだけど、実際僕の体はそんなふうに動かない。


「そんなことじゃ、食われるぞ」

「獲物に向かって、もっととっさに動かなきゃダメだよ」

いくら言われても……

「迷ったり考えたりしないで、本能でやんなきゃ」

「もっと高く、向こうまで飛べばいいんだよ」


森生まれじゃないからなのか──

できないことばかりだった。

なんでできないのか、一生懸命みんなに説明してみるけど、誰も餌を獲るのに必死でそれどころじゃない。


なんとなく僕はうとまれるようになって、馬鹿にされているようだった。


ある日、透き通るような白い羽が水色に映えて光る、綺麗なメスの仲間が近くに来た。目がクルクルきらきら輝いて、可愛くて、ずっと見ていたい。

彼女は僕のそばに来て、「みんなとは違う風を運んでくれる、トリさん」とささいた。

くらくらきた。

けれどそれからすぐに彼女は結婚した。相手は仲間うちで一番、声も体も大きいオスだ。

「この森では一番大きな声で鳴けるオスは、一番美しいメスと一緒になるって、まぁだいたい決まってるんだよ」仲間が言っている。

まだ結婚なんて無理だけど、もう少し恋に希望が欲しかった。


月が大きく空に登った夜、僕は張り出した枝の上に寝転がって空を眺める。

あぁ…… 遠く思い浮かぶ伊勢崎町の夜──

人間はいいなぁ。



森は夏の光を浴びて、空へ伸びる。

僕は少しずつ痩せていった。


太陽がわずかずつ低くなってくる。

僕は弱っていった。


秋の気配を感じる頃、僕はあまり動けなくなっていた。

このままでいいんだ、

死んじゃうのかな……


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