第15話






「警戒してるようだが、どうしたんだミア」


「セイヤ様、少し気をつけてください。少々イレギュラーが起こったようですので」


 イレギュラー?なんだそれ。俺がそう思っていると、魔法陣の中のリビングアーマーが戸惑った声を上げた。


「こ、ここは何処なんだ?私はさっきまで王都にいたはず...なのに光に飲まれたと思ったらこんな所に...どうなってるんだ...」


 綺麗な女性の声でそんなことを言うと、リビングアーマーは膝をついて座り込んでしまった。てかリビングアーマーにも性別ってあるのね、てっきり無いかと思ってたよ鎧とか無機物だし。


「えっと、ミア?これはどう言うことだ?」


 俺は召喚したリビングアーマーに戸惑いを覚え、ミアにどうなっているのか尋ねた。


「セイヤ様が訳が分からず戸惑うのも仕方ありません。そもそも、ダンジョンマスターがモンスターを召喚する場合、実際に召喚しているのではなく新たに生み出していると言えます。この事はセイヤ様も知識として知っているでしょう?」


「ああ、ダンジョンコアと融合した際に知ったな」


「では今回のことに関してですが、ダンジョンマスターがモンスターを召喚する際極低確率で今回のようなことが起こることがあります。言ってしまえば地上の何処かにいるモンスターを召喚してしまったと言うことですね」


「はあ!?」


 俺はミアに言われてとても驚いた。

 いや、だってそうだろ?召喚されたダンジョンモンスターはダンジョンマスターに基本的に服従し忠誠を誓ってくれるが、ミアの言ってることが本当なら服従もせず忠誠心もないモンスターを呼んだということになってしまう。まあ、ダンジョンモンスターも劣悪な環境に身を置いたりしていたら服従はしていても忠誠心はどっかにいってしまうんだがな...


「だったらこのリビングアーマーはどうするんだ?」


「そうですね、このようなことが起こった場合は召喚してモンスターと交渉するのが普通のようです。お互いに話し合い相手にダンジョンモンスターになってもらえるか聞くんです。その場合、成功したら忠誠心はともかく服従はしますからダンジョンモンスターとして扱っていいです。まあ、断られたら元の場所に送還されるだけですし、消費したDPも戻ってくるので損はありません。ダンジョンマスターによっては面倒だからと言う理由で交渉もせず送還したりする者もいるようですが」


「一応、対処法はあるのね」


 なるほど、確かに地上で既に生きてきたモンスターなら生まれたばかりのダンジョンモンスターでは知らない知識を持っていたり、したことの無い経験をしているだろうからな。

 よし!それなら早速リビングアーマーと交渉してみよう。


 俺はそう思い、魔法陣の上に座っているリビングアーマーに話しかけた。


「あー、リビングアーマーよ話は出来るか?」


「......なんだ」


 ひとまず、ずいぶん不信感を持たれているようだが話は出来るみたいなので安心した。


「お前が不信感を持つのも仕方ないか。それでは、まず自己紹介をさせてもらおう。俺の名はセイヤ、このダンジョンのダンジョンマスターをしている」


「それはさっきお前とそこの女が話しているのを聞いて知っている。それで、私に何を求めるのだ」


 ん?これは思ったより話が早そうだな。


「さっきの会話を聞いているなら話が早い。俺がお前に求めるのはこのダンジョンのモンスターになって俺の配下になることだ」


「お前に忠誠を誓えと?」


「いや、忠誠心とかはおいおいでいいかな?いやいやとかむしろ困るし、お前にダンジョンモンスターになってもらいたい理由は強そうだからって言うのと、一目見てなんか気に入ったからだ。それと、俺ばっか話してもアレだからお前も何か話してくれ。自己紹介とかな」


 俺は相変わらず不信感のこもった視線を寄越すリビングアーマーにそう言った。


「む、まあそちらも名乗ったのだから私も名乗ろう。私の名はリエラ・ルーウェル。元グルデラ王国の騎士団長だ。今は鎧だが、元は人間で女だった」


 彼女はそう名乗った。

 へぇ、女性なのは声でわかったけど元人間で騎士団長か、こりゃすごいな。てかそもそも、リビングアーマーが元人間ってどう言うことだ?

 俺がそう思うと頭の中に知識が浮かんだ。それによるとリビングアーマーの中には元々その鎧の使い手が死に、その使い手の魂が鎧に宿ることで誕生する個体もいるらしい。と俺と融合したダンジョンコアから知識として送られてきた。


「ほー、その騎士団長がなんでリビングアーマーになってるんだ?リビングアーマーの誕生方からすると不思議では無いが、さっき召喚された直後に言っていた「さっきまで王都にいたはず...」と言う言葉を聞く限り召喚される前までは街にいたんだろう?モンスターであるお前が街に入るなど出来るのか?」


 ミアからは街に結界とかは無いと聞いてはいるが、元騎士団長なら鎧を知っている人間もいるだろうし、少なくとも王都にはいられるとも思えないんだが。俺がそのことを聞くとリエラは少し悩んだそぶりを見せた後に話し始めた。(鎧でも案外わかるもんだな)


「私がリビングアーマーになった理由はお前の予想通り、死んだ後に生前装備していた鎧に魂が入ったからだ。私自身としてはアンデットにでもなってると思ったが、何故か肉体は消えていたからな。それで、私が王都にいた理由か...それは簡単な話だ。私が死んだのが王都だったからだよ」


「どう言うことだ?」


 俺は話が見えずそう聞いた。


「元々私はグルデラ王国の騎士団長だったのはさっき言ったな」


「ああ」


「そのグルデラ王国は既に滅んでいるんだ」


「なんだと?」


 つまりリエラがいたのは滅んだ国の王都で廃墟の街にいたと言うことか?


「なぜ国が滅んだ」


「規格外のスタンピードが起こったんだ」


「国が滅ぶほど強力だったのか?」


 俺がそう聞くと、リエラは当時の事について話し始めた。


「ダンジョンマスターのお前なら知っているかもしれないが、グルデラ王国に限らずダンジョンや魔境を領土の中に持つ国は少なく無い。それらの国はスタンビードが起こらないよう、起こっても小規模で済むように冒険者や騎士団、国の兵士たちを使ってモンスターを間引いていたんだ。ただ、当時グルデラ王国で起きてしまったスタンピードは本当に規格外で、低ランクから高ランクまで数多くのモンスターが溢れ出したんだ。ああ、スタンビードを起こしたのはダンジョンじゃなくて魔境だからダンジョンには特に恨みはないので安心してくれ」


「話を戻すが、起こってしまったスタンピードの勢いは凄くてな。瞬く間に都市を飲み込みながら王都に迫ってきたんだ。まあ、民の被害自体は領主貴族を初め騎士や兵士、冒険者が必死に流した事でそこまで大きくなかったんだがな。それで王都まできたモンスターと私も騎士団を率いて戦ったんだが、相手にはSSランクやSSSランクも数多くいてな、王や民を逃すのが精一杯で最終的にモンスターに立ち向かった者たちは私含めて貴族も騎士も、兵士も冒険者も殆どが死に王都やそこに至るまでに壊滅した都市は魔境の一部になったんだ」


 うわぁ、中々悲惨な過去を持っているんだな。まあ、ミアに聞いた話の中に魔境に関することもあったから無いことでもないんだろう。逆に魔境を開拓したなんて話も聞いたしな。

 でもリビングアーマーになった後はどうしたんだ?気になった俺は聞くことにした。


「なるほど、立派に戦って散ったのは見事と言っておく。それで?リビングアーマーになった後はどうしたんだ?」


「別にどうもしなかった。ただ、復讐というわけではなかったが、今に至るまで百年ほどの間またスタンピードが起きたりしないように王都にいたモンスターやその周辺の魔境にあるモンスターを狩ったりはしたな。これでも実力で騎士団長に選ばれたのでなSSランク程度の実力は持っていたしな」


 まじか、強いなコイツ実力面でも精神面でも。ますますダンジョンモンスターになって欲しくなったな。


「そうか、話してくれてありがとう。さて、今の話を聞いてますます俺はお前にこのダンジョンのモンスターになって欲しくなったのだが、最初に言ったこのダンジョンのモンスターにならないか?という誘いに対する返事を聞かせてもらえるかな?」


 俺はそう言って彼女の返事を待った。







 


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