第42話 また会えた。

「私?」


 ジーンさんの言葉に私は、少し引っかかった。私の協力が必要と彼は言ったがしかし、私には特別な力なんてない。


「あの、私、何をすれば……」


「お待たせいたしました、フライドポテトになります!」


 そんな話をしている途中で、フライドポテトが席に運ばれてくる。

「ありがとうございます」と店員に言った、ジーンさんはひとつまみポテトを食べた。


「なぁに、簡単なことだよ」


 ポテトを頬張りながら彼はいう。


「君にはまだ、彼との縁がある」


「縁?」


「そう、縁」


 ジーンさんはそのまま、ポテトを食べる手を止めた。彼は話を続ける


「君と、ジンドーは、悲しみによってつながっている、君の悲しみを辿ってジンドーが君の前に現れたように、今度は逆に今君のそのつながりを逆に辿るのさ」


 悲しみの気配、ジンドーは確かそう表現していた。それを逆に辿る、そうすればまたジンドーに会えるのだろうか。


「奈落の悪魔とそれに取り憑かれた者の関係性はようは酸素ボンベのチューブというか臍の緒、みたいなものでね。

 君がまだ悲しみを感じていれば、ジンドーはこの世に繋ぎ止められている、存在できる。という関係性なんだ。

 だから君の存在を起点にこの世に現界している、彼を見つけるためには、君の存在が必要なんだよ」


 なるほど、ジーンさんの説明でよくわかった。つまり私はジンドーにこの世に存在するための酸素を供給する酸素ボンベや臍の緒のような役割を果たしているのだ。


 だから今も私は彼に存在するための酸素を供給している、その供給している力。それを辿るということなのだろう。


「わかりました」


 私は、すぐに答えた。


「まずは何をすればいいですか!」


 私の熱意に待ってましたと言わんばかりに、ジーンさんは笑う。


「ふふ、やはりやってくれるか」


 そして、パクリとフライドポテトを一口食べた後、彼は私に言った。


「君の力を辿れるのは、俺……私だけだ。だからそうだな、今日は君も疲れているだろう? 休みの日にどこかで集まらないか?」


「明後日が休みです!」


「オーケーじゃあ明後日、そうだなここのファミレスの前で集合でどうだろう?」


 私はすぐさま頷いた。本当ならすぐにでもジンドーを探したかったが。ジーンさん曰く、かなりの長丁場になるかもしれないからジーンさん自身準備を整える時間がほしいとのことだった。


 だがジンドーがトラブルに巻き込まれているというのに、そんな悠長なことをしていられないと自分勝手ながら思ってしまう、だが、探すのは私ではない、ジーンさんだ。


 大人しく彼の言葉に従い、私は明後日の休みに向けて、私も準備を整えることにした。



 ─────────────


 ──なんであんな女なんかにお前は執心しているのだ?


 俺はそう思った。あの女にそこまでの価値があるのだろうか?

 とてもそんなようには見えない、ただの小娘じゃないか、ジンドー。

 だが、まあ、そうだなそれでもお前を探すためなら、暫くは受け入れよう。

 あの小娘をな。


 ─────────────


 ついに休みの日がやってきた。私は例のファミレスの前でジーンさんを待っていた。

 妙に緊張している私は、空から降り注ぐ暑い日差しを気にしつつ、同時に不安を感じていた。


 果たして、ジンドーは本当に見つかるのだろうかとか、ジンドーは無事なのだろうかとか、ただただどうしようもなく不安は増していく。


 やがてその、落ち葉のように積もり積もっていく不安を一瞬だけ吹き飛ばすような声が聞こえた。


「お待たせ」


 彼を視界に収める。


「ジーンさん……!」


 ジーンさんは、最初にあったときと同じ服装で再び私の目の前に現れた。相変わらず浮世離れした印象を受けるジーンさんは、やはり常人ではないのだと私は再確認する。


「では、始めようか」


 始める? 何を、と私が言いかけた瞬間だった。彼は私に手を翳した。何の変化も感じられなかったが、しかししばらくするとジーンさんは一言、


「感じる……」


 と呟いた。


「それって……!」


 私の問いかけにジーンさんは頷いた。


「ああ、ジンドーはいるこの世界に。しかもこの国を出ていないそれどころか、思ったよりも近くに気配を感じる」


 その言葉に思わず私は胸が躍った。それはつまり彼に会えるということだったから、久しぶりにジンドーに会えるのを想像するだけで私は嬉しかった。


「辿っていこう、この調子ならそこまで、予定より時間はかからないかもしれない」


「はい!」


 私は二つ返事で返す。そして、私はジーンさんの後についていった。


 地元のクロカミ市だというのに全く知らない土地まで私でも知らないようところをジーンさんは歩いていく。

 私もついていくが、どんどんとクロカミ市の最も栄えた中心地からどんどん、郊外の方に進んでいく。


 もう一時間は、いやそれ以上、歩いただろうか、郊外のとある空き家の前でジーンさんは止まった。

 その家は何の変哲もない平家だった。人の気配はなく閑散としている。


「いる」


 だがジーンさんはそうつぶやくや否や、目の前にあるその平家の玄関である引き戸に手をかけた。鍵はどうやらかかっていないようで、簡単に開く玄関。


「ジーンさん何を……!」


 その玄関の内にずかずかと入っていくジーンさんに私は驚きつつ、今更引き下がれない私は一緒に中に入っていった。


 ジーンさんについて行き、入り口、キッチンと入っていく。


「ジーンさん勝手に入っちゃ……」


 ジーンさんは、私の制止を聞かずにそのまま突き進む。そして。目の前あるキッチンから恐らく、別の部屋に通じるであろう、ドアに手をかける。


 そして何の躊躇いもなく、ジーンさんはドアを開いた。

 中は床が畳でできた、寝室だった、しかし畳は普通の色をしていない。


 所々に赤黒い液体のシミができている。

 そんな和室の中心に、黒い塊。

 よく見れば、その黒い塊には、星のような斑点があり、同時に気がつく。


 これは羽なのだと、羽の生えた何かが、自身の羽を纏い、いる。

 私は思わず呟いた。


「ジンドー……?」

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