第41話 モナカ

 暗闇から、出てきたのは男の子だった、私と同じくらいの年齢の男の子。いや男の子のはずだ、中性的な見た目のせいでわからない。


 その男の子は不思議なことに綺麗な白髪の持ち主だった。黒髪から白髪に染めたという感じではない、まるで生まれた時からその髪であったかのように、彼の雰囲気に髪の色が合っていた。


 だというのにその瞳は、この国の人々と同じ黒色。

 服装は白い髪に合わせるように、白いワイシャツに白いズボンだ。


 どこか浮世離れしている空気を漂わせている彼は呆けている私に対して続けた。


「おーい、俺……私の言葉、聞こえる?」


「あ、いや、聞こえてます」


 私はそう咄嗟に返し、同時に意識をはっきりさせる。この人はさっきなんて言ったのか。


「ジンドーを探せるって……」


 確かそう言っていたはずだ、私の聞き間違いでなければ。

 正直に言えばこの男の子はかなり怪しい、なんでジンドーを知っているのかとか、そもそもなんで私の前に現れているのかとか。疑問は尽きない。


「貴方は何者なんですか?」


 中性的なその人に、私は問いかける。果たして、教えてくれるからどうか、だが彼はあっさりと笑って言った。


「俺……私は、奈落の悪魔ラフメイカー、つまりジンドーの同族というわけさ」


「ジンドーの?!」


 私は思わず声を荒げる。一気に信憑性が増した。たしかにジンドーと同じ奈落の悪魔ならジンドーを探せるかもしれない。


「そ! その! ジンドーの居場所探せるんですか?!」


 私は思わず食らいつく、

 どれだけ私はジンドーに会いたかったのだろう、羞恥も感じることなく思わず私は中性的なその人に詰め寄った。


「おう、おう。落ち着いてまだ自己紹介もしてないだろう?」


「あ……」


 思わず、我に帰る私。

 自分自身がどれほど焦っていたのか、ジンドーに会いたがっていたのか実感する。改めて私は自分でもわざとらしいと思うほどの咳払いをする。


「界ヒナタです、よろしく……!」


 すると彼もニヤリと笑い、名乗る。


「ジーン、ジーン・モナカ。よろしく」


 モナカ。その名を聞いて私は思わずあるものを思い起こす。


「和菓子の最中ですか?」


「はは、よく気がついたね、そう我々奈落の悪魔は、菓子の名前を冠するのだ。ジンドー・ビッグハッピーのビッグハッピーだって菓子の大福の安易な訳だろう?」


 そうなのか、ジンドーの名前は随分と可愛らしいと思っていたが、そんな由来があるとは知らなかった。

 逆に言えば、私の知らないジンドーの名の由来を知っているジーンさんはやはりジンドーの仲間なのだろう。


「じゃあやっぱりジーンさんは……奈落の悪魔なんですね」


「ふふ、信じてもらえたかな? 俺……私のこと」


「あ、いや! 疑ってたわけじゃ!」


「あはは、いいよ、別に最初から信じてもらえるって思うほど自惚れちゃいない。まあ、ここで話すのもなんだし、どうかな? 詳しい話は別の場所でっていうのは」


「あ、はい!」


 二つ返事でそう言った。


 ─────────────


 ジーンさんの提案で、私とジーンさんはファミレスに入った。

 窓側の席に案内された私たちは対面で座る。


「あ、すいません、フライドポテト一つ」


 そう店員さんに言った後、ジーンさんは私にアイコンタクトする。どうやら私も何かを頼むか、確認してくれているのだろう。でも私は正直何かを食べる気分ではない、ジンドーの話が聞きたいのだ。


「あ、私は大丈夫です」


 だから私はそう答えた。「かしこまりました」そう言って、店員さんは奥へと下がっていく。


「さて、本題だ」


 ジーンさんはおもむろに話始める。


「まずなんで俺……私がきたのか説明しよう」


 彼は、窓の外を見ながら、どこか遠くを見つめていう。


「この世界は、哀しみに溢れている。だから俺……私達は涙を無くす、又は温かい喜びの涙を得るために活動している、ここまでは知っているね?」


 私はコクリと頷く。


「ジンドーから聞きました」


「そうか、なら話は速い」とジーンさんは話し続ける。


「本来、奈落の悪魔は、哀しみに暮れている人物を癒したら、元の世界に帰るものなのだ」


「……そう、なんですか」


 それは……初耳だった。いや、考えていなかっただけだ。そうだジンドーにも故郷はある。なぜか、ずっと一緒にいられると思っていた。


 だから、それだから結構ショックが大きい。

 ジンドーとも別れはくるわかっていそうなことだったのに、私はそのことを今まで頭の中に思い描いたことはなかった。


「じゃあジンドーは元の世界に?」


「戻ったなら、よかったんだがな、私たちの世界には彼は戻ってきていない」


「え……じゃあジンドーはどこに?」


 私の疑問にジーンさんは眉を顰めた。


「そう、そこが問題だ、彼は恐らくこの現世にいる」


「……どういうことですか?」


「彼が何かトラブルに巻き込まれた可能性があるということだ」


 その言葉を聞いて、私は思わず、身を乗り出しそうになる。


「ジンドーが危険ってことですか!」


 そんな私の様子に、ジーンさんは、


「まあ、落ち着いてくれ」


 と、促す。


「彼を見つける方法はちゃんとあるんだ」


 ジーンさんはそう言いながら、私を指差した。


「そのために君の協力が必要だ、界ヒナタさん」

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